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ハッピーエンドにはまだ早い。  作者: 世野口秀
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第三十五話 「マッドマックス好きなんですよね」

 朝、何やら地の底から響くような音で桃太郎たちは目を覚ました。

「……何だ?」

 桃太郎はすぐにベッドから降り、耳を澄ませた。

 最初は地震か何かかと思ったが、別に地面が揺れているような様子はない。ただ、重低音が響いているだけだ。

 桃太郎だけでなく 瑚白やエルも起きだし、警戒しつつ地下室を出てカモフラージュ用の小屋へと登っていく。

「うん? ……どうした?」

「何か外の様子がおかしい。寝ぼけてないでお前もこい」

 寝ぼけまなこを擦るハンプティダンプティに対し、桃太郎が声をかける。

 今、桃太郎たちがいる小屋は、地下室こそそれなりの大きさがあるものの、小屋自体は戦術の通りカモフラージュようであるため、一見すると小さな猟師小屋のようにしか見えず、かなり狭い。

 そのため、桃太郎とハンプティダンプティが窓から外の様子をうかがう。

 とは言え彼らの視界に移るものは立派に聳え立つ山の木々や、枝と枝の隙間を縫うようにして飛ぶ小鳥たちくらいのものだ。

 先ほどの音は森全体に響いているが、それがいったい何なのかはまださっぱり分からない。

「なんの音だ? ハンプティダンプティ、何か心当たりは——」

 と、言いかけたところで。

 桃太郎はハンプティダンプティの顔面が正しく蒼白というべきほどに青くなっていることに気が付いた。

 あ、卵でも顔色は変わるんだ。ということにも驚いたが、しかしそれ以上に彼が何を恐れているのかと桃太郎は警戒した。

「どうした? 何かに気が付いたか?」

「……昨日、俺様がお前らを乗せた乗り物あったろ? 自動車っていうんだがな」

「え? 何だっけ? 某は気を失ってたからよく知らんわ」

「ああ、昨日の奴ですかな。なんか車輪が四つ ある乗り物ですぞ。結構 早くて驚きましたな」

「へえ、そんなのがあるのか。で、それがどうした?」

「お、俺様の自動車は近くの洞窟に隠してきたんだが……。だが、問題は車の出どころだ。あれはフェアリーテイルでも一部の人間しか持っていない。俺様も国王に褒美として特別にもらったんだが……」

 そこまで言われて、桃太郎はハンプティダンプティの言いたいことを察し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「おい、ってことはつまり」

「ああ、あいつらも同じように自動車を持っている可能性が高い。何なら俺様の奴よりも性能が良い奴を、な」

 などと会話をしているうちに、音はどんどんと近づいてくる。

 いや、先ほどまでの地響きのような音だけでなく、木々を無理やりに押し倒すような音が響き、更には砂塵が舞う様子も見える。

「マズいッ!! 全員 外に出ろッ!!」

 桃太郎は動きの遅いハンプティダンプティの襟をひっつかむと、ドアを蹴破って外に飛び出し、ハンプティダンプティも一緒に外へ引きずり出す。

 続いてエル、瑚白も素早く外に出る。

 その直後、べきべきめりめりッと派手な音を立てて木々が打倒され、その先にいたものが姿を現した。

「で、デカいですなー!?」

 その姿に瑚白は思わず驚愕の声を漏らした。

 彼らの前に姿を現したのは大型のトレーラーであった。

 前面には巨大な鉄板が貼り付けられ、その下部——つまりは前輪の前方部分——にはこれまた巨大な刃が取り付けられている。この刃で森の木々に切り込みを入れ、へし折ってたのだろう。

 トレーラーの後部には、コンテナが載せられており その上には少年の姿をしたヴェラヴォルフが乗っていた。

「何だ!? あの乗り物は!? あんなデカいもの見たことないぞ!?」

 瑚白だけでなくハンプティダンプティも大きな声を上げる。

 まさかこれほどのものまで持っているとは思っていなかった。

 動揺し、その場で足を止めた桃太郎たちを見つけたのは、トレーラーのハンドルを握っていた『怪物』であった。

 彼はためらうことなく、アクセルを限界まで踏み込んだ。

「うおぉおおおおッ!! 来たぞ!?」

「全く!! 品のない攻撃の仕方だ!!」

「ハンプティダンプティさんはボクの背中に!!」

 エルは地面を転がってトレーラーから逃げ、瑚白はすぐに犬の姿に変化しハンプティダンプティをその背に乗せ、跳躍して回避する。

 だが桃太郎だけは、まっすぐに駆け出し 運転席の怪物に飛び掛かった。

「ご主人!?」

「ぜぇああああああッ!!」

 桃太郎は両足の膝を伸ばし、全体重を乗せたドロップキックでフロントガラスを突き破った。

 ガラス片をまき散らして飛び込んできた桃太郎に対し、怪物は両手をクロスさせてキックを受け止めるが、しかし椅子に座っている状態では怪物ではなく椅子の方が耐えられなかった。

「ぐぬっ!?」

 椅子が壊れ、怪物は後方の壁に叩きつけられる。

 桃太郎も無様に床に転がる——がその前に、彼は咄嗟に近くにあった車のハンドルに手を伸ばした。

 自動車というものを知らない桃太郎でも、先ほどまで怪物がハンドルを握っていた様子は見ていたため、おそらくこれで操縦するのだろうという予想はついた。

 故に桃太郎は、地面に落ちながらもハンドルを大きく曲げた。

 足場の悪い森で速度の乗ったトレーラーで急ハンドルをかければどうなるかは自明の理である。

 辺りの木々を巻き込み、土砂をまき散らしてトレーラーは激しく横転した。


今回のサブタイトルは筆者の個人的な感想であり、本編にはそんなに関係がないです。

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