第三十三話 「狂信」
ハンプティダンプティの言葉に、流石の桃太郎も額に汗をかき苦笑いを浮かべる。
「力を持った貴族を潰してその陰で邪魔な奴も消す、か。やることが苛烈だなあ、王妃様は。しかし、ハンプティダンプティ。そこまでの情報をどこまで仕入れた?」
「商談の中で相手の貴族が色々 漏らしてくれてな。商人風情にはそこまでわからんとでも思ったのかな。俺様としては情報を聞き出しやすくて助かったが。そうして何気ない会話の断片から王妃に対し不信感を覚え、そこから積極的にいろんな情報を集めるようになった」
「なるほどな。貴族の中にも口の軽いやつがいるもんだ」
「途中で王室のテーラーとして認めてもらったのも大きかったな。顔も広くなったし。時間はかかったが、俺様は様々な情報を集めることができた。……他にも王妃は結構なことをやってるよ」
「貴族相手にか?」
「ああ。今の王妃になってから貴族のパワーバランスは大きく変わった。さっきの貴族失脚は一例だ。ほかの貴族に対しても王妃はいろいろやってるからな。昔は王室に対し強い発言力を持つ貴族もいたが、今では王室の一強だ。王室相手に文句が言える連中なんて、もう碌にいない」
「ふん、やはりあくどい女だな。あいつは」
忌々しそうなエルの言葉に、しかしハンプティダンプティは複雑そうに眉根にしわを寄せると、頭——というより卵の頭頂部というべきか——を掻いた。
彼のその反応に、エルが怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ、ハンプティダンプティ。何か言いたげな様子だな」
「確かに、王妃には黒い噂がある。ただ、あの王妃に代わってからフェアリーテイルの治安は良くなった。昔は多少の犯罪なら賄賂で誤魔化せていたが、王妃はそういうのに厳しいからな。小さな犯罪が減って、大きな犯罪も減った。それは貧民街だってそうだろ?」
「……まあ、それはそうなのだが」
確かにエルにも心当たりはある。
彼女が初めて貧民街に流れ着いたころは、女一人であんなところを歩いていたら どうなるか分からないような土地だった。
幸い、彼女は灰の銃弾という能力を持っていたから何とかなったが、並の人間では貧民街を生き抜くことは容易いことではなかった。
しかし、貧民街に流れてから三年ほどたったあたりで、急に貧民街の治安が良くなってきた。時折 騎士の巡検隊が来るようになったからだ。
加えて、協会の定期的な炊き出しも行われるようになり、貧民街の治安は飛躍的に向上した。
「それまで完全に放置されていた貧民街に、多少なりとも外部の手が入るようになったのは王妃の働き掛けによるものだ。それ以外にも王妃は経済政策や社会保障、様々な取り組みを行った。今の彼女の人気はそういう姿勢によるものだ。決して単なる悪人じゃない」
はっきりと、ハンプティダンプティはそう言い切った。
と、そう言われてみれば。
瑚白も桃太郎も行ってしまえば外国人であり、フェアリーテイルの事情などさっぱり知らないが、それでも分かることはある。
「某の戦ったあの怪物、……あいつは王妃を本気で尊敬していた。狂信していたと言っても過言ではないな。多分、それだけの価値があるんだ。シンデレラには」
「うん、ボクの戦った相手もそんな感じでしたなー」
桃太郎たちはああいう目を、ああいう表情をする連中を知っている。
恋や愛ではなく、信念や恩義のために死地を全力で突っ走れるような、そういうある種の狂気すらはらんだタイプの人間だ。
そして彼らにとって命を捧げられるのが、シンデレラなのだろう。
「ああ、怪物と人狼か。俺様も見るのは初めてだったぜ。そういう奴らが城に出入りしている、と番兵たちから聞いたことはあったが、正直 本当だとは思っていなかったよ。城の一部で流れている噂話だったしな」
「某の出会った怪物は、間違いなく強い。本当、怪物みたいに強い。何よりも精神がな。内臓に直接ダメージを加えたのに、全く手を放さなかった。それは全てシンデレラのためだろう。それほどにまで怪物はシンデレラに忠誠を誓っているんだ」
「悪いこともしてるんだろうけど、多分それと同じくらい。いや、それ以上に良いことをしているのかもしれないですなー、シンデレラは」
「なんだ、それは」
何気ない桃太郎と瑚白の言葉に、エルが歯ぎしりと共に声を漏らした。




