第三十二話 「闇が深い」
やっと本編に戻ります
「——そうして、我は女王に復讐することを誓ったのだ」
すべてを話し終えたエルは大きく息を吐き、背筋を伸ばして強張っていた体の緊張を解した。
話をすでに知っていた桃太郎は特に気にしている様子はなかったが、琥珀はショックを受けたらしく尻尾を垂れ下げ、ハンプティダンプティは神妙な面持ちを浮かべ 思案するように口元に手を当てていた。
だがやがて、ハンプティダンプティが口を開いた。
「……そうか、なるほどな。王妃が抱えていた秘密というのはそれか。何かあるとは思ったが、そういうことだったか」
「我が話せることは話したぞ。あとはお前が話す番だ」
「分かってるさ。……良いだろう。話してやる。俺様は元々から貴族相手に服を作っていたが、それでも王族相手に商売するほどじゃなかった。王族には他に専属のテーラーたちがいたからな。しかし、今の王妃になってから、そいつらは没落したんだ」
「没落? 何でですかなー?」
「そいつらはな、裏で『人間』を買っていたのさ。いわゆる人身売買ってやつさ。スラムでさらってきた女や子どもなんかを売り買いする市場があったんだ。もちろん この国じゃ違法さ」
「はッ! どの国でも糞は糞だな」
ハンプティダンプティの言葉に桃太郎が歪んだ笑みを浮かべる。
フェアリーテイルは治安のいい国だが、悪人がいないわけではないのだ。
「ああ、そうだな。だが問題はそこじゃない。それを暴いたのが王妃で、彼女は人体売買組織を叩き潰して、貴族だろうが大商人だろうが全てを牢獄に叩き込んだんだ」
「はぁ!? 王妃が!?」
だが桃太郎もハンプティダンプティの続けた言葉には驚きを隠せなかった。
このような問題は王族が首を突っ込むような問題には思えない。むしろ貴族も関わるとなると、軽々には手が出せないはずだ。
「ああ。何でも奴隷売買は根の深い問題でな。表向きには一世紀以上前に奴隷は廃止されていたが、とある大貴族がパトロンになって商売を進めていた。王族も知ってはいたが、下手につつくと自分が火傷しかねないからな。だが、王妃はそこに全力で槍をぶっ刺した」
「その大貴族とやらは どうなった? 間違いなくぶち切れたんじゃねえの?」
「ああ、怒ったよ。烈火のようにな。自分の趣味と商売の邪魔をされたんだからな。……だけど、そいつらは何もできなかった。当主がいきなり病気でぽっくり逝っちまったからな」
桃太郎はその言葉で察した。
ニヤッと下種な笑みを浮かべた彼は、楽しそうにハンプティダンプティに尋ねた。
「ああ、殺されたか。王妃に」
「まず、間違いないな。俺様も直接の面識はなかったが、その当主はまだ五十代。決して年を取りすぎていたわけじゃないし、病気だという話を聞いたこともなかった。死ぬにはタイミングが良過ぎだ。それに何より……その死因が問題だ。そいつはな、寝ている間に心臓が勝手に止まって死んだ。病気といったが、正確には医者もよく分からなかったから病気ってことになってるだけだ」
「……うっわ、闇が深いですなー」
「でも、それだけじゃあないでしょ?」
それまで黙っていたエルが、そこで言葉を挟んだ。
確信めいたその口調から、彼女もまた何かに気づいていたのだろう。ハンプティダンプティは彼女の言葉に頷いた。
「ああ、その貴族は新しい当主がボンクラだったのと 悪評がバレまくって衰退したが、ほかにも二つほど、他の貴族も没落してる。当主が同じような死因で死んでな。そしてソイツらは一般人の女を王子が娶ることに反対し続け、王妃が嫁いだ後にも彼女に対しいやがらせや身辺調査をしていた。俺様の言いたいこと、分かってきたろ?」
ハンプティダンプティは、そう言って笑った。




