第三十一話 「情報開示」
「あの兵士は『一本足の錫の兵隊』。そして狼の方は 琥珀も名前を聞いたんだってな? あいつは人狼、ヴェラヴォルフだ。そして桃太郎の負けた相手は『怪物』。平たく言って人造人間というところかな」
初めて桃太郎たちと出会った 海の近くの森に隠されていた小屋の地下室で、ハンプティダンプティはそう言った。
その部屋にはシンプルなベッドの上に寝かされた桃太郎、彼の隣に立つ琥珀、そして険しい表情をしたエルが立っていた。
ここはハンプティダンプティの用意していた隠れ家だ。
前々から用意されてきたらしく、簡素ではあるが食料や水の用意などはされているらしかった。
「……ハンプティダンプティ。何でお前はそこまで知っている? 何でこんな隠れ家を用意しているんだ? お前は、なんだ?」
小銃を手にしたまま、エルはハンプティダンプティに対してそう尋ねた。剣呑な目をした彼女に対し、ハンプティダンプティは困ったように肩をすくめた。
「やれやれっと。大丈夫だ。俺様は敵じゃあない。ただ、前々から王妃に対して疑問を抱いていてな」
「それはなぜだ? あの王妃には黒い噂はほとんどないだろう」
「いやあ、そうでもないんだなあ それが。シンデレラが王妃になってから、大きな権力を持っていた貴族の何人かが殺されているんだ。殺された、というか不審死なんだがな。ただ、死に方が全員同じだったことから まず殺されたと思って間違いないだろう」
「……まさか」
彼の言葉にエルは目を見開くが、しかしハンプティダンプティが嘘をついているようには見えない。
「王妃はなぜそんなことを? 王妃になることが目的だと思っていたが」
「うん? お前、王妃と何か因縁があるのか?」
「……ああ、桃太郎にしか話していないが」
「できれば聞かせてもらえないか? もちろん、俺様も持っている情報は開示するぞ」
「ああ……。そうするべきだろうとは私も思うのだが……」
しかしそこでエルは言い淀んだ。
これは彼女の半生に関わる話であり、当然のことながら軽々に話すような話題ではないのだ。それでも、王妃が本気で自分を殺しに来ている上 桃太郎や琥珀、ハンプティダンプティを巻き込んでいる現在、話すのが筋だろう。
だが、話さずに済むのなら話したくはない。
話すということは辛い記憶を思い出さなくてはならないということだ。決して楽しいものではない。
「……話して、あげてくれないですかね? もちろん、エルさんが良ければッスけど」
「ご主人!?」
そこで口を開いたのは、桃太郎であった。
ベッドの上から上半身を起こそうとするが、身体が重く思ったように筋肉に力が入らなかったため、琥珀に上半身を支えられている。
「桃太郎……」
「別に、話すのがスジだとか そういう話はしてないんですけど。ただ、王妃は本気で某たちを殺しに来てる。だったら、対抗するために某たちも少しでも情報は共有すべきだ。そこから何か発見があるかもしれないし。……本気で国の頂点に立つ人間を『獲り』に行くのなら、それくらいの覚悟で挑むべきです」
桃太郎の身体には力が入っていないが、しかし目に宿るものは決して折れていない。
彼の眼力にエルは若干たじろいだが、しかし拳を握り固め 彼女もまた腹をくくった。
「ああ……そうだな。その通りだ。分かった、話そう。我と王妃の過去の話を」
エルは自分の過去の出来事について、そんな言葉で切り出した。




