第二十九話 「脱走へ」
既にヴェラヴォルフの体格は瑚白の二回りほど大きくなっている。
瑚白の煙ではヴェラヴォルフの攻撃をガードすることが困難になり、何とか攻撃を回避してはいるが それでもじり貧であることに変わりはない。
「ふー、暑苦しいですなー君は。何を食べたらそんなことになるんですかな?」
「はッ!! 強いて言うならダメージを喰らったらってところかな」
「全然 上手くないですぞー」
口調は軽いが瑚白は内心 冷や汗をかいていた。
瑚白の能力はヴェラヴォルフの推測通り『煙を対象物にまとわせることで行動を阻害し、掴み取る』ものである。
たとえ百本の矢を放たれたところで、瑚白にとっては雨粒にも劣る程度の威力しかないのだ。
だが逆に言えば、そもそも攻撃向きの能力を持たない瑚白には 煙でガードし切れない攻撃を持つ相手には対処する方法がない。
攻撃を受けることで力が増していくヴェラヴォルフは、瑚白にとっては酷く相性が悪いのだ。
「さて、それじゃあお前には沈んでもらうぜ。犬め」
「お断りですなー」
淡々とした口調でそう返しはするが、しかし打開策はやはりない。
どうにかして尻尾を巻いて逃げるしかないか、だが逃げるにしてもどうやって――と思っていると、ヴェラヴォルフに対し何やら小さなものが高速で飛来していることに、瑚白は気が付いた。
そしてそれがヴェラヴォルフに命中した瞬間。
巨大な火炎の花が空に咲き誇った。
「ぐああああああああッ!!」
ヴェラヴォルフ以上に大きな火炎に飲み込まれ、彼の炎で構成された体が大きく吹き飛ばされた。
「な、なにが起きたんですかなー!?」
「瑚白君!! こっちだ!!」
と、そこでエルが瑚白を呼ぶ声がした。
琥珀がそちらに目を向けると、エルは自動車のシートの上で小銃を構え ボルトを引いて次弾を装填していた。左手の指には素早く再装填できるようにと 数発の弾丸を挟んでいるのが見える。
「な、なんなんだ!! いきなり何が起きた!? って何だ あの走る鉄の塊は!?」
ヴェラヴォルフは突然の銃撃に対し、何が起きたのか分かりかねているような様子であった。
加えて彼の体はダメージを食らったはずだというのに、大きくなっていない。
琥珀はその様子に対し疑問を覚えたが、しかし車の後部座席で意識をなくしている桃太郎が視界に入ったとき、彼の意識はただその一点に集中した。
「……ご主人ッ!?」
琥珀は躊躇いなくヴェラヴォルフに背を向け、桃太郎のもとへと駆け出した。だがそんな隙をヴェラヴォルフが見逃すはずもなく、今度こそ炎の顎で琥珀を噛み殺そうと大口を開けた。
「させるものか」
「んがッ!? 糞ッ!!」
しかしエルがその邪魔をした。
壁を数度 跳弾した弾丸がヴェラヴォルフの顎を撃ち抜くようにして飛来するが、彼は咄嗟に頭部を振って回避した。
その間に琥珀は人間の姿に戻り、桃太郎を抱きしめた。
「ご主人!? ねえ、ご主人!? しっかりしてよ!?」
「おい、琥珀! けが人をあまり揺らすな!! 俺様がせっかく助けたのに、そんなとこで死んだらどうするんだ!!」
「わ、わかってるけど……」
琥珀はそれでも桃太郎のことが気になるのか、抱きしめて離さない。尻尾は力なく垂れさがり、沈んでいる様子が伝わってくる。
「大丈夫さ。桃太郎は生きている。そんなに簡単に死ぬやつでもないだろう。だから、今はただ彼を守るために行動しよう」
しかし、優しい口調のエルに 琥珀も何とか多少の落ち着きを取り戻した。
「……うん、そうだね」
琥珀だけは尻尾だけを煙状に分解・再構成して大きく太いものへと作り替えた。その尾は車全体を守るように大きく波打つ。
「ガードはボクがやる。牽制はエルさんにお願いしますなー」
「ええ、分かったわ」
「じゃあ、しっかり掴まってろよ!! 振り落とされても知らねえぜ!!」
ハンプティダンプティはハンドルを大きく切り、町の外門へと車を飛ばした。
話のストックがなくなったのとPCを買いなおしたのでそのあたりのことで更新ペースが1日1話に戻るやもしれません。
そのときはそういう方向でよろしくお願いします。




