第二十八話 「合流」
「はッ……はッ……はッ……!! しつこいぞ!! 貴様らッ!!」
路地を駆け抜けながらエルは後方に向けて銃を撃つ。銃声とともにフラッシュが広がり、薄暗い路地を照らし 固い跳弾の音が数度 響き渡った後にエルを追いかける兵士の一人が撃ち抜かれた。
爆発とともに兵士の身体が四散するが、しかし砕けた兵士の身体も気にせずに更にその後方から新たな兵士たちが駆けてくる。
「全然減らないな……。本当にしつこい」
走りながら小銃のボルトを引き 排莢し 弾丸を再装填してから ボルトを戻す。
フェアリーテイルにも連発式の小銃はほとんど存在しない。少なくとも一般的な兵士が使えるほどではない。敵の兵士から奪い取ったこの銃もまた単発式であり、一発撃つごとに再装填しなくてはならない。
そのためエルの攻撃には時間がかかる。
「撃てェええええええッ!!」
しかし敵は数に任せて銃を乱射してくる。
パパパパパパン、と乾いた銃声があたりにこだまする。
咄嗟に身をかがめて弾を回避しようとするが、しかし一発はエルの肩を掠めて血しぶきが舞い、彼女は痛みに顔をゆがめる。
「痛ッ!! 本当にしつこいッ!!」
銃の腕に関して言えばエルの方が間違いなく上だ。
彼女は復讐のために灰の銃弾を得てから、王妃を殺すために修行を重ねてきたのだ。跳弾を計算し、敵にヒットさせる射撃能力はかなりのものである。
しかし連射の出来ない単発銃で、なおかつ一発に付き一体しか倒せない以上は数の多いほうが有利なのは間違いないことである。
「何とかしてこの窮地を脱さなくては!!」
歯ぎしりして呟くが、しかし打開策は思いつかない。
そんなエルの耳に、何処か遠くから爆発音が届いた。何事かは分からないが、彼女は咄嗟にそちらの方へと足を向けて駆け出した。
路地を駆け抜け、ごみ袋を踏みつぶし、汚い水たまりを飛び越えて走り続けていくと、やがて開けた道に出た。
「不味い! 障害物がないとハチの巣になる!! どこかに隠れ場所が――」
「オイ!! エル!! 乗れ!!」
と、そこで彼女に声を掛けるものが居た。
ハンドルを握ったハンプティダンプティである。
エルは自動車というものを見たことがなかったため、目を見開いた。
「ハンプティダンプティ!? 何だ、その鉄のイノシシのようなものは!?」
「話は後だ!! さっさと乗り込め!! お前も追われてるんだろう!!」
「……ああ、分かったよ!!」
エルは走ってきた車の助手席に飛び乗った。
衝撃で頭をシートに打ちつけるが、歯を食いしばって何とか耐える。
やがて先ほどの兵士たちが路地から飛び出し、突如現れたハンプティダンプティと彼の車に驚きながらも引き金を引いた。
「伏せろ!!」
「伏せろって言われても、俺様は頭がでかいんだよ!!」
エルは、ハンプティダンプティの頭をハンドルに押し付けるようにして 少しでも弾が当たりにくくなるよう、姿勢を低くする。
兵士たちの撃った弾は車を掠めて、塗装を剥ぎ取り サイドミラーを弾き飛ばすがホイールや動力部、エル達には当たらなかったため 彼女たちはそのまま車で走り去った。
「ハンプティダンプティ!! 何であなたがこんなところに居るんだ!? ……って、桃太郎!! だ、大丈夫なのか!?」
「ああ、死んではいないと思うんだがな。ちょっと様子を見ていてくれ」
「そ、そんな雑な……。桃太郎!? 大丈夫なのか!?」
エルは後部座席に移動し、桃太郎に寄り添う。彼の首筋に手を当てて確認してみると、確かに動脈はハッキリと血液を流している。
命に別状はないようだが、しかし桃太郎は目を閉じたまま動かない。髪の毛やスーツが部分的に白く焦げており、軽い火傷のような跡も出来ている。
「い、一体これは……」
「王妃の私兵にやられたらしい。お前のとこに居たやつとはまた違う相手っぽいがな」
「王妃……!! やはり桃太郎たちも狙われたか。しかし、桃太郎を倒す相手となると、相当に強いな。……いや、待て。なぜハンプティダンプティが我々の味方をしている? キチンと話せ!!」
「その点については、俺様も隠す気はない。ちゃんと話すさ。ただ、あの瑚白って奴が居ないからな。話はアイツも揃ってからだ。だが、その前にこれだけ渡しておく」
ハンプティダンプティは前を向いたまま、一枚の瓦版を差し出した。怪訝な顔をしながらも受け取ったエルは、その内容を読んで仰天した。
「……桃太郎たちが敵国の間者ッ!? 即刻捕らえて死刑に……だと!? 何だコレは!?」
「王国側が発行した正式な瓦版だ。桃太郎とその使い魔である瑚白は敵国の間者であり、名声を得てこの国の中枢に忍び込もうとした、だとよ。その手引きをした女一人も処刑だと。その女がお前だろうな」
「そんな、そんなにも でたらめな理由で桃太郎達を殺すのか!?」
「桃太郎がお前と組んで、王妃を殺しに来ればこれまで自分の積み重ねてきた地位が崩れかねんからな。もう完全に叩くことにしたのだろう」
「あの女ァ!! やってくれるな!!」
「落ち着け。今はそれよりも瑚白と合流し、一旦この国を出ることが先決だ」
「分かっている!!」
ハンドルを切るハンプティダンプティの言葉に、エルは苛立ったような声を返した。
車の向かう先には、爆炎と空高く上る灰煙が見えた。




