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事件と謁見

3ヶ月も刀を振っていなかったせいで腕はすっかり鈍っていた。

少しづつ感覚を取り戻せてはいるが全快になるには後一週間ぐらいはかかりそうだった。

俺は急いで感覚を取り戻そうとしても体を壊すだけなので、いつもと変わらぬメニューをこなしていた。


そして、武器を手に入れたことにより勇者たちの武器指南が始まった。


「さて、勇者様達も武器を手に入れたので、訓練をしていこうと思う。訓練を嫌がるものもいるかもしれないが、魔法がいくらできても最終的に頼りになるのは自分のスタミナと身を守れる護身術だ。そのことをよく理解して訓練を行ってもらおうと思う!」


騎士団長はそう言うと腰にかけてある鞘から長剣を抜くと一振りした。

ごうっと力強い音と共に砂埃が立つ。

クラスメイト達はおー!と目を輝かせて(特に男子)、早速自分の剣に触れていた。

早く剣を振りたいようだ。


「鍛錬を積めば魔法なしでもこれくらいは出来るようになる。君たちには素質があるのだから頑張って欲しい」


「では早速だが、剣の握り方について……」







剣についての基本的な説明が終わると、まずは素振りということで各々に皆散らばり剣を振り始めた。

皆剣の重さについていけてないようで、振るたびに体が流れていた。

俺も1人だけ目立つのは嫌なので下手な振りをしておく。

そうして二時間ほど刀を振っていると訓練は終わった。

俺は訓練が終わるとすぐに山に向かい、いつものメニューを消化しようとスピードを上げて鍛錬にのぞんだ。




そんな生活を二週間ほど送るとある変化が起こり始めた。

団長の目を盗み休む奴が出てきたのである。

最初のうちは初めて真剣を握り興奮していたのか訓練の後も鍛錬をしていたものが多くいたのだが、今や鍛錬を行なっているものなど勇者の神木と健吾ぐらいだ。

訓練中もずっと素振りとランニングだけなので、そのきつさに耐えかねて指導者を変えてくれというものまでいる始末。

確かにまだ剣を握って二週間の人達にする指導にしては厳しいが、魔王を倒すのだ。それぐらいはしてもらわなきゃ困るだろう。

それにあの騎士団長の教えはうまい。端から見てるだけでもよくわかる説明をしているし、剣の腕もいい。

指導者を変えるなんで言語道断だろう。



ちなみに、剣の腕がいいといったがこちらの世界と地球の世界の武術は違う。

少しぐらい違うのは当たり前なのだが、武術の根本から違うのだ。

理由は単純で武術で倒す"者"が違ったからだ。

地球ではいかに人を殺すかという点で武術は進歩していったが、こちらの世界はいかにモンスターや魔物を倒すかという点で進歩してきたのだ。

人を簡単に押しつぶせるパワーや、肉眼でなんとか捉えられるレベルのスピードにどう対抗し殺すか。これがこの世界の武術の根本だ。

逆に地球の武術はいかに敵の思考をかいくぐり、裏をかき、どう効率的に殺すかが根本になっている。

どちらも身体能力の向上は必須だがそれ以外は全てが違うのだ。




それからさらに1週間後。

俺は既に訓練にはいかなくなっていた。

勇者達の過半数が指導者の変更を求めたため、騎士団長は指導者から外され代わりに貴族の騎士が指導を行い始めたのだ。

貴族の騎士のため勇者達に恩を売ろうとするため、訓練は緩くなりついには訓練の時間まで一時間に減ったのだ。

そんな緩い訓練に行っても得られるものは何もないので訓練にいかなくなったのだ。

その結果俺は訓練をサボり、だらけているとクラスメイト達に言われ、イジメが再開した。



今日も鍛錬が終わり城に帰ってくると、クラスの男子達が俺にちょっかいをかけてきた。


「よぉ奇遇だなナマケモノ」


俺は無能のくせに訓練をせずだらけているということでナマケモノというあだ名をつけられていた。

俺からしたら魔法と剣術を合わせて二時間しか訓練を行わないお前らの方が怠け者と言いたいのだが、言っても状況を悪化させるだけなので言わない。

こいつらはいつも俺の部屋で待ち伏せして散散俺を罵って帰っていく。

今日もこいつらは俺を罵りにきただけなのだろう。

人は自分より価値が低いものを罵ることで気分を高揚させる。

それは自分より能力が高いものへの嫉妬を低いものにぶつけるからだ。

だから言いたいだけ言わせれば勝手に帰っていくしそれ以上何かしてくることもないのだ。


「まぁせいぜい貴族にでも頼って生きていくんだなナマケモノ」


そう言ってあいつらは帰って行く。

俺はあいつらが見えなくなってからドアを開けて部屋に入る。


普通の人ならこれだけ毎日罵られればいつストレスが爆発するか分かったものではないが、鋭志は裏の社会で生きてきたことと、家族を失った影響で強い精神力を持っていた。

そのためこんなこといくらでも耐えられるのだ。






1ヶ月に一度ぐらいの頻度で体を休めるために鍛錬を行わない日がある。

今日はその日で俺は自分の部屋で静かにこの世界の魔物についての本を読んでいた。

勉学は嫌いだが、敵の弱点を知っておけば戦いの時に大きなアドバンテージになることを鋭志はしっていた。


「ふ~」


俺は大きく伸びをすると本をベットに置く。

勉学は必要だとは分かっていても、ずっと集中して望むことはできない。

鍛錬の時はずっと集中できるのだが気持ちの問題なのだろう。


「気分転換に外でも歩こうかな」


俺は部屋を出て城の庭へと向かった。





廊下を歩き庭に出る。

そこでは騎士達が鍛錬を行なっていた。

その中には健吾と神木が混ざっていて一心不乱に型を取っていた。


「へ〜」


一応型取りはできている。

剣術自体が違うので細かいところまではわからないが大体は何をしているのか理解できた。

集中力が切れたのか神木と健吾は脇に置いてあったタオルを取り出し汗を吹き始めた。

そこに一気にクラスの女子どもが群がっていく。

神木はイケメンスマイルで会話しているが健吾は鬱陶しそうにしていた。

まぁ助ける義理もメリットもないので何も俺からはしないが。

だが、俺は何もしなくても健吾から何かしてきたら対処するしかない。

健吾は助けを求めるかのように周囲に視線を巡らせ俺を見つけた。

嫌な予感がしてすぐに立ち去ろうとするが声によって強制的に止められた。


「鋭志じゃないか!この頃見ないから心配してたんだよ」


「……体調が悪くてな」


女子どもからの視線をヒシヒシと感じつつ近づいてくる健吾に近寄ってくんなと心の中で悪態を吐く。


「でも最低限訓練には来ようよ。せっかく武器をもらったんだし、何よりここは日本とは違って危険だからね」


日本の裏の事を知らずに平和に生きて来たくせに平気でそんな事を抜かしてくる健吾に少し苛立ちを覚えながら愛想笑いで受け流す。


「そうだな。今後は体調が良ければいくよ」


「健吾。そんな才能もないのに努力もしない奴なんかと話しても時間の無駄だぞ。こっちに来て有意義な話をしよう」


勇者の神木がいきなり大きな声でそう言って来る。。

何の努力もせずに勇者という立場になって幸せな暮らしをしているお前がそれいうかとさらに苛立ちを募らせる。

大統領に無理やり裏の世界へ入らされた鋭志にこういった話はタブーだった。それが平和の中で生きて来たものなら尚更。


「いや、でも鋭志とは久しぶりに会ったからもう少し話をしたい」


「おいおい健吾お前はそんな奴と話をしていて楽しいのか?訓練もしないし才能もないんだ。どうせ今までも誰かに頼って生きて来たんだろう」


「龍一それはちょっと言い過ぎじゃない?」


「言い過ぎも何も本当のことなんだから仕方ないだろう?こんな男に育て上げたあいつの親の愚かさがよくわかるじゃないか」


どうしてそこで親までを愚弄するのかはわからないが、それは最も鋭志に言ってはならない言葉だった。


「龍一!いいかげ「お前調子に乗りすぎじゃないのか?」


健吾はさすがに言い過ぎだと神木に注意しようとするが遅かった。

完全に超えてはならない一線を超えてしまった。

神木は勇者として讃えられて時間を過ごしたからか、昔は絶対に言わなかった言葉を言った。

完全に調子に乗っていたのである。



鋭志は父がなぜ邪神が来た時に俺と姉を逃がしたのか未だに分かっていなかった。

なぜ魔法陣から何かが来る事を知っていたのかがわからなかった。

でも1つだけわかったのは自分達を死んでも逃がそうとしてくれた事だ。

その証拠にあの時の父親は見たことがないほど顔が青ざめて、明らかに怯えていた。

そんな父親に向かって醜いとは笑わせる。

馬鹿にするにもほどがある。


自分から出た声は今までで一番怒気が含まれていたと思う。

訓練を行っていた騎士たちは冷や汗を流しながらこちらを見ていた。

健吾は余りの声の迫力と怒気に腰が抜けた。

だが神木は距離が離れていたせいか、それとも感覚が鈍いせいか全然怯んでいなかった。


「調子に乗る?笑わせるなよ。俺はこの世界を魔王から救う人間なんだぞ。お前とは器が違うんだよ!」


「そうか。お前が魔王なんて到底殺せないだろうことはよくわかったよ」


「何だと!お前こそ調子に乗りすぎなんじゃないのか!魔法を放たれたくなかったら謝れ!」


「じぁ放てばいいだろう。俺がお前に謝る気などさらさらない」


神木は腕を震わせる。


「いいだろう。お前が泣き叫ぶまでいたぶってやるよ!神よ我に他者を守る力を!<身体強化>」


そう唱えると神木は砂埃を立てて剣を上段にかまえて向かって来る。


神木は距離を2秒ほどでなくすと剣を振り下ろして……思いっきり地面に叩きつけられた。

俺の顔面めがけての蹴りが決まった。蹴りをした足を素早く地面につけると素早い体重移動で力のこもった右腕の突きを腹に叩き込み、そこから前かがみになった神木めがけて体を回転しながらの右腕の打ち下ろし。



「ガハッ!」


神木は唾液を吐き出し口から歯が取れていることに気づくとその痛みに這いつくばりながら叫んだ。


「あぁぁぁぁぁぁ!歯がぁぁぁぁ!」


「どうだ?自分より格下の奴に這いつくばる気持ちは」


俺はしゃがんで神木の髪を引っ張り無理やりこちらに向かせる。


「お、お前勇者の俺にこんな事をやって騎士たちが黙ってると思うのか?!」


「はっ!結局他人だよりかよ」


俺はそう言うと神木の髪を離し庭を後にした。







その後神木は魔法師の治癒魔法で怪我を治したらしい。

それと同時に城の人たちに俺が勇者に暴力を振るったと言うことが広がり、俺は騎士に捕らえられ王の前まで連行されることとなった。




俺は王の前で無理やりひざまずかされた。


「お前か勇者に暴力を振るったと言うものは」


「……」


「答えろ!」


近衛騎士が怒りの声をあげながら剣の鞘で俺を叩いて来る。


「だから言ったのです陛下。役に立たないものは処分して置くべきだと」


今度は王の後ろにいるいかにも秘書ですといった感じの男がそう言う。


「まぁそう言うなレオン。此奴も何かの理由があって暴力を振るったのかもしれん。もう一度問おう。お前が勇者に暴力を振るったのか?」


俺は顔を上げて王の顔を見る。

髪の色は金髪で太ってるわけでも痩せてるわけでもない平均的な体をしている。

穏和そうな表情をしているが体から溢れ出るその破棄のようなオーラが王の存在感を醸し出していた。


そしてその存在感が鋭志に有無を言わせなかった。無言の圧力だ。


「……はい。私が勇者に暴力を振るいました」


結果鋭志は口を開くこととなる。


「そうか。ではそれは何か理由があってのことか?」


「はい。勇者は私を侮辱し、そして最愛の父をも侮辱しました。自分がなんと言われようと構いませんが父を侮辱するのだけは認められませんでした」



「ふむ。まぁ父を思ってのことだ。今回は許してやっていいのではないかレオン」


「陛下。陛下のそういった優しさがこういったものをつけあがらせるのです。ここは罰を与えて置くべきだと私は思いますが」


「そうかのぉ」


「そうでございます」


「わかった。ではお前に処罰を「お待ちください陛下」


俺はわざと王の言葉に重ねがけるように言葉を紡ぐ。


「陛下のお言葉を遮るとは何事か!」


近衛騎士は予想通り俺に激昂して長剣を振りかぶって俺に当てようとして来る。

俺はその斬撃を避け近衛騎士の剣を手から奪い取り構えた。



この世界は良くも悪くも強者が絶対だ。

力が強いものが弱者の上に立つ。

それは何も武力だけではなく、頭が良ければ人の上に立つこともできる。

最もな例が貴族だろう。

頭が悪く指揮ができない貴族は地位が下げられ、頭が良く指揮ができ、戦果を上げることができるものは地位が上がる。

要は何か1つでも吐出した武器と呼べるものがあれば、その武器を周囲に認めさせることができたら、弱者から強者へ上がることができるのだ。

そして、それを今まさに鋭志はしなければならない。

ずっと弱者として生きていくなどごめんだし、それにこのままだといつ殺されるかわからないのだ。

鍛えているとはいえ王国相手にどうこうできるわけがない。

だからここは俺が使える人間だと言うことを王に示さなければならない。





不意打ちとはいえ近衛騎士しかも王直属の者の斬撃を避け武器まで奪った。

王へのアプローチは完璧と言えた。

これで俺が多少なりとも使えるやつだと王に認識されたはずだ。

だがこれだけではダメだ。

俺は魔法が使えない。これは大きなビハインドだ。

だから俺はここにプラスα、ただ使われるだけの者では無いと認識させる必要がある。


「陛下にひとつお聞きしたいことがございます」


俺は剣を近衛騎士の首に当てながらそう言う。

所謂人質だ。

王直属の近衛騎士だ。1人でも殺されたら困るのだろう。

周りの騎士達も剣を抜き殺気を放って来るがそれ以上何かして来る気配はない。


「……言ってみよ」


「では。魔王は本当にこの世界に害をもたらす者なのでしょうか」


王は目を見開き、そして口角を上げた。


「ほう。どうしてそう思う」


「そう思う理由は3つありました。ひとつ目はあまりにも勇者達の訓練が甘いからです。到底世界が危機になっている時にする訓練とは思えません。2つ目は私たちが来てから一回も魔王が何かをしたと言う報告を聞かない来ないこと。そして最後に私たちのような年の低い者達を呼んだと言うことです」


「1つ目と2つ目ははまだわかるがどうして年が低い者がダメだと思う?」


「精神年齢が低いからです。低いと言うことは戦場で不適切な行動をするやもしれません。というかまず敵を殺せるかも怪しいでしょう。私たちがいた世界はここより精神が成長するのが遅い。この国の資料を拝見しましたが何回も勇者召喚を行なっているあなた達がそんなことに気づかないはずがありません」


「つまり何が言いたいのだ?」


「あなた達はもとより魔王を殺すために私たちを呼んだのではなく、同盟国の裏切りや、敵国が攻めて来ないようにするための抑止力のために私達を呼んだ。そしてその事を気づかれないようにわざわざ精神が幼く騙されやすい私達を呼んだのか?と言うことが言いたいのです」


そこまで聞くと王はクククと静かに笑い始めた。


「レオン。此度の勇者召喚ハズレかと思っていたが違ったな」


「はい。ここまで有能な存在が隠れていたとは思いませんでした」


そう言ってレオンは答えると俺の方に向き小さく頭を下げた。


「先程までの無礼お許しください。あなた様がここまで頭が回る方だとは思いませんでした」


地味に傷つく言葉を受けて苦笑いを浮かべる。

俺は近衛騎士の首から剣を外し返し、王にもう一度向きなおる。


「陛下。私の処罰はいかがな者でしょうか?」


俺はそう言い今度は自ら跪く。

その様子を見た王は処罰などいらんと口にした。


「ふむレオン。此奴に100人将のくらいを与えたいと思うのだがどうだ?」


「ちょうど100人将が1人足りませんでしたしいいんではないでしょうか?」


「そうか。では貴殿高村鋭志は今日において100人将に任命する!」










よく通る声で王はそう言った。

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