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始まりの日

遅くなってすいません!

すっと鋭志は目を細める。

その魔法陣のようなものを見た時、これはやばいやつだと直感的にわかった。

"こいつには死の匂いがする"

鋭志はそう感じた。

実際に死の匂いがするわけではない。ただ、殺し合いという実戦経験から基づくその危険察知能力がそう思わせた。

鋭志はすぐに周りに視線をめぐらせ、他に異変が起きていないかを確認する。

次に、リビングと隣接している台所で棒立ちしている姉と、魔法陣を見て何やらブツブツ呟いている父親を確認し、父親に声をかけた。



いつもと違う父親の様子に少し違和感を覚えながら話しかける。

「親父、一体こりゃなんだ」

返答はなく、ずっとブツブツと親父は言い続けている。

聞こえていないのか?と思い声を張り上げる。

「親父!」

するとビクッと体を震わせながら親父はこっちを見た。

親父の顔は真っ青だった。

親父は元ボクサーだ。度胸もあるし、肝も座ってる。

そんな親父がこんなに顔を真っ青にさせている。

いくら部屋に異変が起きているからといって、ここまで怖がるだろうか?

否だ。

おれはそう結論づけ親父が何か知っているのではないかと考えを巡らせる。

「親父、なに「逃げろ鋭志!」

しかし、問いただそうとした俺の言葉に、親父はかぶせるようにそう言った。




簡潔に言おう。俺はその言葉に従った。

最初は否定したが、結局親父の言葉に押し切られてしまった。

それに時間もあまりかけたくなかったし、何よりただの高校生の姉をこのままあそこにおいておくのは危険と判断したから。

俺は姉を連れてこの無駄にでかい家に苛立ちえお覚えながら、リビングを移動する。

まず家の外に出て俺たちの家と同じようなことになっている家があるかを探さなければならない。

だから、と俺は道場に入る。

道場には隠してある非常用の抜け道がある。

その道を使えば玄関に最も早くつける。

姉を抜け道に入れると、俺は道場から刀を取り出し………とっさに刀を抜いた。

がん!という衝撃と共に俺は横に吹っ飛ばされた。

なんとか衝撃を逃し立ち上がる。

何だ?!何が起こった!

おれはすぐに衝撃の原因を探る。

そこには灰色のマントを羽織り、西洋風の長剣を持っている男が立っていた。

すぐに俺は刀を構え、臨戦態勢をとる。

どうやって近づいた?まず何であんな剣を持っている?

頬につうっと汗がつたる。

基本的に鋭志のこなす仕事は相手の情報を調べ上げてから行動に移す。

だが、目の前の敵は情報が全くなく、しかも気配を察知されずに近づける相当な手練れ。

その事が鋭志の精神力を削っていく。

先に動いたのはマント男だった。

ずっと足を力強く踏み込み一気に距離を詰めてくる。

俺は動かない。男が後三歩のところまで詰める。だが、まだ動かない。

もう一度男は力強く踏み込み一気に三歩の距離をゼロにする。

それでも動かない!

そして剣が首に差し掛かる瞬間、剣が当たるまでコンマ数秒の時間。

俺は、動く。

目の前にある手首に自分の手を添え、すっと横におし、ギリギリのところで受け流す。

基本的にリーチの長い武器は、攻撃を外すと一瞬の隙が応じる。

そして、リーチの長い武器は懐に入られてしまうと何もできない。

隙は一秒にも満たないコンマ数秒の時間。

俺は最小の動きで刀を構えると、最小の動きで懐に入り込む。

繰り出すは武術の基本技。

下から上に刀を動かすだけの技。

技とも言えないかもしれないその動きは、基本故に何千何万と繰り返し、体に染み込ませてきた。



故に、その技は重く、鋭い。



基本故に、動きはコンパクトで済み、最も速く繰り出すことができる。



故にその技は基本にして、必殺の技。

「シッ!」

声とともに繰り出されたその刀は肩から首にかけて綺麗な線を描きながら進む。

その光景を見たものなら誰もがこう思うだろう。

"勝った"と。

だが、鋭志はやけに遅く感じるこの光景を見て思う。



"本当にこれで終わるのか?"



"相手は俺に気づかれずに間近まで接近し、吹っ飛ばして来たやつだぞ"



そして結果的にその思いは、鋭志の命を救った。

男は駒周りのように回転し刀を避けると、その遠心力もろとも長剣を振るってきた。

俺はなんとか後ろに倒れこむことにより避けると、バックステップを踏んで距離をとる。

距離をとったことにより、緊張が途切れたのかブワッと吹き出す冷や汗。

その異常なほど流れる冷や汗にあと少しで死んでいたことを認識する。

"なんなんだ奴は?!"

"なんなんだあの動きは?!"

"なんであんな動きができる?!"

俺は溢れ出す疑問を処理できずに、パニックになりかける。

確かにあいつは長剣を振るった直後で動けなかったはずだ。

実際あいつは俺が刀を振るっても直前まで動くそぶりさえも見せなかった。

それに、いくらなんでも隙の時間が短すぎる。

しかも硬直してからのあの剣速の速さ。

一体どれどれだけ一歩で加速できるんだあいつは。

あんな化け物どうやって殺せっていうんだよ。


俺は思考を中断させ、迫ってくる男に目をやる。

今考えてもどうにかなるわけでは無いと割り切り、パニック寸前の気持ちを抑え込む。

刀を男に向け深く息を吐く。

俺は……男に向かって低く、低く、体勢をとりながら走り出した。







鋭志達がフード男に出会う十分前



「逃げたか」

鋭志達がリビングを去って視界から外れると父親の高村隼人はそう呟いた。

「まさか本当に来るとはなぁ。全くここまで来ると未来予知にしか思えねぇぞ梨沙」

今は亡き愛した人の名前を言いながら首のブレスレットに隼人は触れる。

するとブレスレットは光を出しながら消えてなくなり、代わりに腕にガンレットが装着された。

"いつ見てもファンらジーだよなこれ"

恐怖を押し殺すように心の中でそう呟きながら俺は魔法陣に視線を向けた。

「悪いがここを通させるわけにわいかねぇんだ。嫁との約束だからな」

そう言うと隼人はステップを踏み始める。

すると、その動きに呼応するかのように魔法陣が輝き始める。

魔法陣の上に人が形成されていく。

その数2人。

輝きが消えると同時に右ストレートを走りざまに繰り出す。

そのストレートは、走ることによってパワーが生み出され、さらに重心を移動させ体重をを乗せることによって最大の威力を出す。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

雄叫びをあげながら繰り出したその拳はガツン!という鉄を殴ったかのような音を出しながら弾かれた。

しかし、それだけでは終わらない。

拳に装着したガンレットが赤黒く光、殴った部分から爆発が起こる。

「ドゴーン!」派手な爆発音を起こしながら煙がリビングに充満する。

だが、煙が充満しているのさえも気にせず隼人は拳を繰り出す。

左フック、右アッパー、アッパーによって空いたボディーに左ストレート、そして最後は体重と回転力で威力を上乗せした打ち下ろしを繰り出す。

繰り出すたびに爆発が起き、その爆発は自分自身までも巻き込んでいく。

まさに捨て身の攻撃。

隼人は身体中に走る火傷の痛みに顔を歪めながら、肩で息をする。

突然どうっ!と風切り音が鳴り、煙が一瞬で霧散する。

「お前か?俺にずっと殴っていたのは」

煙が晴れた向こうには無傷のフードを被った男が立っていた。

「冗談きついぜおい」

それが隼人の、鋭志の父親の最後の言葉になった。

次の瞬間隼人の首が宙を舞った。




「残りは2人か。俺が1人始末する。お前はもう1人を始末してこい」

隼人の首を飛ばした男は隣に控えている家臣にそう言うと自らも歩き出した。








鋭志の体には数えきれぬほどの傷口が刻まれていた。

鋭志の傷からは、血がドクドクと吹き出し、体温が低くなったかのような感覚が走るとともに、激痛が身体中にほとばしる。

その痛みは集中を阻害し、パフォーマンスが落ち、結果的に敵の斬撃を余分に受けてしまう。

そしてさらに傷口は増やされ、集中を阻害する痛みも大きくなってくる。

完璧な悪循環が出来上がっていた。



鋭志はこの悪循環を断ち切ろうと突破口を探そうとするが見つからない。

攻めたいのに攻めれない。

その原因には、最初に懐に入った時に出された奴の回転斬りが大きく関わっていた。

懐に入るとあの斬撃が飛んでくる。

次、あんな斬撃が来たら避けれないかもしれない。

そう思わせるほどにあの斬撃は強烈に脳裏に焼き付いており、鋭志から懐に入る勇気を奪っていた。

そんな攻める勇気もない状態でいい打開策など見つかるはずもなかった。





「ゴボッ」

俺は血を口から吐き出しながらなんとか刀を杖に立ち上がった。

いつ死んでもおかしくない状態に鋭志はなっていた。

過呼吸を繰り返しながら自分を見つめてくる男に向かって鋭い視線を浮かべる。

"こいつは、こいつだけは姉の下に行かしてはいけない"

いつの間にか俺はこう心の中で言っていた。

自分がもうすぐ死ぬのを分かっていたからだと思う。

わけもわからずに死んで、何も残さず死んでいくのが嫌だったから。せめて、何か死ぬ理由が欲しかったから。

何か理由がないと死の恐怖に屈しそうになっていたから。

もう一度敵と戦う勇気が欲しかったから。

だから!俺はもうほとんど力が入らない体を起こし刀を構える。

あと2分だ。最低でも2分で姉は外に出られるはずだ。2分こいつをここに足止めできれば俺の勝ちだ。

2分という明確な目標を立て、無駄な考えを省き思考をクリアにする。

男が一気に攻め立ててくる。

致命傷になるだろう剣だけを何とか刀で受け流し、受け止める。




耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろ!

色が失せモノクロにしか見えなくなった視界と、朦朧として来た意識の中、あと少しだ!と自分を励ます。

あと40秒!と脳内時計が告げると同時に俺は………片膝をついた。

身体能力の限界。

いかなる目標を立て、目指し、やり遂げると誓っても、これだけは抗えない。

体が悲鳴をあげる。

足がピクピクと痙攣し、立つことさえままならず、それに加えほぼ力が入らず、血も全く足りていない体。

刀を杖代わりにしても、立ち上がることさえできない。

いや、こんな体で立ち上がることなど土台無理な話だった。

徐々に体の機能が失われていく感覚。

声すらも発することができず、腕すらも全く力が入らなくなった。

だが、目だけは全てを見届けろとでも言うように、機能を失わなかった。




「鋭志!」

聞こえるはずのない声が聞こえた気がして俺は眼球を動かす。

そこにはいてはいけないはずの……姉の姿があった。




目を見開き、姉を見る。

その後ろには男の仲間のような奴が1人いて姉の手首を縛り付けていた。

猛烈な殺意を持って睨みつけるが全く微動だにせず、無視された。

"まさか2人もいたのか?!"

くそっ!と少し考えたら1人だけじゃないかもしれない可能性など分かったはずなのにと舌打ちする。

姉が俺の元へ懸命に近寄ろうとするも強い力で引っ張られているのだろう、全く前に進めていなかった。

やめろ、逆らうな、と声に出そうとするも口を開けることができない。

俺が口を開けようと試行錯誤するも、体自体が機能せず全く反応しない。

そうして試行錯誤しているうちに、ついに、姉がフード男に向かって暴言をはいた。

その瞬間、姉の両腕が飛んだ。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

道場の中で姉の絶叫が響き渡る。

その声に男は「うるさい」と淡白に言って姉の足と口も切断した。

姉はあまりの痛みにショック死したのか動かなくなった。

そこにトドメとでも言うように男は姉の首を切断した。






姉が殺されるのをただ呆然と見ていた俺は次の瞬間、男によって首を切られ……死んだ。

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