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糸の能力

状況は悪い。最悪と言っていい。

あの後団長は結局攻撃をくらいやむなく後退した。

今は後ろから魔法で援護してくれているが、専門でないため本当に敵の気を一瞬そらすぐらいにしか使えない。

俺も敵の攻撃を受け始めている。

元々魔法を使えないという時点でモンスターと俺には大きな差がある。

俺が一歩動く間にラルクスは5歩以上は動いているだろう。

なんとか攻撃を予測しつつ、小回りを聞かせて逃げているがもう限界だ。いつ致命傷になる攻撃を受けるか分からない。


俺は逃げる算段をし始める。

なぜなら勇者達が退却したからだ。

なぜわかるかって?なぜなら勇者の持つあの膨大な魔力が今はとても後ろに感じられるから。

魔法を使えなくても魔力を感じることはできる。

俺は後退しつつボス部屋から自分も出るための隙を作ろうとする。

突如莫大な魔力とともにいくつもの魔法が俺とラルクスに向けて飛んできた。


「なっ!?」


思わぬところからの攻撃に俺は受身も取らず体を横に投げ出すことでなんとか回避する。

何事だと後ろを振り返ればそこにはクラスメイトたちが集結していた。


「鋭志!僕らも援護するよ!」


そう言う健吾とクラスメイト達に俺は思わず叫んだ。


「馬鹿が!死にたいのか!?」


的確にモンスターだけに当てられることができるならまだしも俺ごと巻き込む様な魔法を撃たれれば邪魔にしかならない。

それに高い威力を誇るその攻撃をラルクスに当てればラルクスは攻撃対象を俺から健吾たちに移しても何もおかしくない。

いや、あまり知能が発達していないモンスターだからこそそう判断する可能性が高い。


ごうっ!

俺の横をラルクスが通り過ぎる。

健吾たちの攻撃が当たったことにより怒っているのだろう。

健吾たちに向かって走りながら荒い息を吐き出し大きく吠える。


「ゴアァァァァァァァァ!!」


「ひっ!」


「い、いや!」


「く、くるな!くるな!」


クラスメイト達の怯えた声が俺の耳を撫でるかのように聞こえてくる。


"間に合わない"


ラルクスは俺では到底追いつけないスピードで健吾たちに向かっている。

何故か、この状況でも嫌に俺は冷静だった。

殺し屋として生きていたからだろうか?それとも人の死を何度も見てきたからだろうか?

いや、違う。能力を使えば助けられる。

だから俺は冷静だった。

だが、ここで能力を使えば団長にモンスタントだということがバレる。

能力がバレれば国に帰っても追い出されるか?いや、殺されるだろう。

どう考えても今能力を使うのは得策ではない。


俺の目的は邪神を倒すことだ。

何にでも犠牲は必要だ。

今回はたまたまクラスメイトだった。ただそれだけ。

それに俺を散々罵ってきた奴らだ。なんで俺が助ける必要がある。

変な同情は捨てろ。感情を消せ。

そう自分に言い聞かせるように俺は心でつぶやく。


"できることをしない奴は何もなすことはできない!そうだろ、鋭志?"


かつて言われた親父の声が唐突に聞こえた気がした。


何かがプツっと切れた気がした。


代償とともに能力を使用する!


目は黒から青へと変わりそれと同時に覚悟が宿る。


遂にラルクスがクラスメイトたちに所に到達する。

「いやぁぁぁ!?」


迫ってくる触手に、湧き上がる死の恐怖に女子が悲鳴をあげる。


キン!


「え?」


悲鳴をあげた女子は呟いた。その摩訶不思議な光景に。

小さな10本程の糸によって大きな触手が止められているという光景に。




高村鋭志のモンスタントのベースは蟻ぐらいの大きさしかない小さなクモだ。だがその蜘蛛は時に二メートルの巨大なモンスターを殺し、食う。

今はもう絶滅したそのモンスターは文献の隅っこに小さく綴られていた。

まだ人類の文明が発達していない時代。魔法もほぼ使えず手書きで本を書いていた時代。

そのモンスターは幾重にも及ぶ種類の糸を出し自分の何倍にも及ぶモンスターを嵌め、襲う。

そのモンスターはその残虐性と幾つもの糸をを出し敵を弄ぶことからこう言われていたらしい。

"鬼蜘蛛"と。



俺は何もずっと刀や体術の鍛錬をしていたわけではない。

モンスタントの能力を使うための練習もしてきた。

特に鋭志のベースは蜘蛛で糸を使うため糸をうまく扱えるようになるのには相当の時間を要した。

だからこそ、その糸という武器は相当の威力を発揮する。

糸とは束ねれば何よりも硬く、折れない武器となる!

魔法の使えない鋭志にはなかった遠距離からの攻撃が可能になる!

指から糸を出しラルクスの触手に巻きつける。

ただ巻きつけるだけでなく二本の触手をくっつけるように巻き、実質的な触手の数を減らす。

ラルクスの強さは高い防御力と触手の多さだ。


「ギエェェェェェ!」


ラルクスは自分の触手が糸に包まれていることを知るとさらに怒りを募らせる。

ラルクスが俺に狙いを変え走ってこっちにくる。

一気に近寄ってくるその巨大なモンスターに俺は恐怖を募らせる前に笑みを浮かべた。


「掛かったなこの触手野郎absoluteterritory(アブソリュートテリトリー)(糸の絶対領域)!」


ラルクスと自分の周りに巨大な糸の檻を作る。

これが鋭志がこの三ヶ月間能力の鍛錬してきた集大成!

それはこのモンスターならではの技。

鬼蜘蛛の糸は何種類も存在する。例えば、鋼鉄のような硬さを持った糸や、ゴム以上に伸縮性の高い糸だったりする。

そしてその糸はこの檻という中でこそ高い能力を発揮する。


「ギャァウアァァァァァ」


ラルクスが叫ぶ。

檻を出ようと触手で糸を切ろうとしたからだ。異様な粘着性の糸が体に張り付き、離れない。

鋭志は駆け、檻の意図に向かって飛ぶ。


「認意変換!rubber(ラバー)!」


さっきまで強い粘着性を持っていた一本の糸がゴムよりも高い弾力を持ったものへと変わる。


糸の能力を変えるこれもモンスターの能力だ。

だが、それが出来るには今出している全ての糸の能力を把握し位置情報を完璧に頭に浮かべとかなければならない。

つまり、ものすごい集中力を必要とする。

"長くは持たないか"

俺は早急に決着をつけるべく、高い弾力性を持った糸を踏み加速する。

自分が渡る場所のみの糸をゴムにし、ラルクスへ向かう。

縦横に縦横無尽に飛び回りながらラルクスに肉薄する。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


幾つもの弾力の糸を渡り、鋭志のスピードは目で追いつけぬほどのものとなる!

そのスピードと刀の振りを合わせることで、それはどんな剣よりも威力を持った一撃になる!

その斬撃はいかに硬い甲殻でも斬り払う!


自分に向かってくる触手を全て斬りはらいラルクスの胴体部分へ一直線に刀は向う。


「悪いなラルクス。ここ、俺の領域なんだわ」


ザン!ラルクスの体に剣線が走る。

チンという音とともにラルクスの体が二つに割れた。


俺は刀を納刀すると静かに息を吐く。


"危なかった。集中力が切れかけ寸前だった"


俺は檻をとくとその場に座り込んだ。


「まぁ取り敢えず任務達成……だな」




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