迷宮と戦闘
キンッキンッ
迷宮内に金属のぶつかり合う音が響く。
「うぉぉぉぉー!」
勇者は雄叫びと同時に敵の(ゴブリン)錆びた剣を叩き割り、頭から一直線に体を切った。
そして一気に後退し叫ぶ。
「今だ沙由里!」
「うん」
言葉をかけられた少女は特大の魔法を放つ。
「……水よ雷よ神の御心を持って我に力を与えたまえ。"クルシュライト"!」
水と雷によって出来た大きな波がモンスターの群れを襲う。
迷宮の通路を完全に飲み込むほどの規模のそれはいとも容易く群れを壊滅させた。
「やっぱり凄いな沙由里の魔法は!」
「えへへありがとう」
そう言ってイチャイチャし始める勇者に女子たちが群がっていく。
俺はそんな勇者たちを冷めた目で見ていた。
"なんで俺がこんな胸糞悪くなるような奴らを守んなきゃいけないんだ"
心ではしょうがないとわかっていてもそう思わずにはいられなかった。
「はぁ」
俺は小さくため息を吐いた。
王によって命じられた任務を思い返しながら。
「高村鋭志百人将!貴様に勇者の護衛の任務を与える」
王に呼ばれ謁見の場に着いた時すぐにそう言われた。
思わず数秒固まってしまったのも致し方ないことだろう。
「何ずっと護衛をしろというわけではない。今度勇者が迷宮にいく時だけだ。騎士団長も護衛に付かせるし、お前の力を仲間に見せる事ができるのではないか?」
俺が固まっている間に王はそう畳み掛けると謁見の場を出て行った。
そして今俺は任務を遂行するために勇者御一行の後ろからついて行っているわけだ。
騎士団長もついてるし俺に出る幕なんてないと思うが一応周りに注意を配らせておく。
一瞬の気の緩みが命取りになることは日本にいた時痛いほど学んだのだから。
今は迷宮の三階層付近を探索している。
ちなみにこの迷宮は"永遠の迷宮"と言われている。
はるか昔に発見され他にもかかわらず今まで誰も最下層にたどり着けない事からそう呼ばれている。
勿論迷宮としての難易度は最大で、上層でもBクラス以上ものしか基本入ることはできない。
つまり、神木たちの力がBクラス以上だということなのだがそれは少し違う。
神木達勇者御一行はその圧倒的なスペックでここまで強くなれた。
神木と健吾は日頃剣の鍛錬をしていたから違うかもしれないが、それでもまだ剣を握って二ヶ月経つか立たないかだ。殆ど他の奴らと一緒だ。
彼らは確かに強いかもしれないただそれは魔法があってこそだ。
実際に上層のゴブリンでさえ神木は倒すのを手間取っていた。
武器の性能で押し切って隙を作り後は他の奴らの特大魔法で仕留める。
今はこれでなんとかなっているが完全に技が足りていない。
魔法で体を速くしても動きに無駄が多いから結局ゴブリンさえ碌に倒せていないのだ。
他の奴らなんて論外だ。
最初は威勢良く向かっていったものの完全に足手まとい。今は魔法役に徹している。
この体たらくに流石の団長も怒りを通り越して呆れていた。
しかも迷宮に行きたいと言い出したのはあいつらなのだ。
自分たちの力を過信して予定では後二ヶ月後に行く予定にもかかわらずいきたいと駄々をこねたのだ。
結果これである。
にもかかわらず今彼らは4階層に向かおうとしている。
騎士団長が流石にそれ以上はといったが勇者の言葉によって黙らされた。
結局勇者は5階層まで行きある場所で立ち止まっていた。
「これは……ボス部屋か?」
「あぁそうだ」
団長はそう答えるとボス部屋の門から逆の方を向いた。
「帰るぞ神木。流石にこれ以上はお前の命に関わる」
「……おいどうした龍一?!」
神木はその扉から一向に動かずにいた。
「剣が言ってるんだ。ここからすごい邪悪な魔力が漂ってるって」
「そらボス部屋だからな。いいから帰るぞ神木!」
一向に動かないので業を煮やしたのか団長は神木の腕を握ろうとする。
"パン!"
神木が団長の手を叩いたのだ。
「団長……僕ら勇者はこういう邪悪な物をやっつけるためにこの世界に来たんです。だから!ぼくはこの悪式モンスターを討伐する!」
そう言って神木は団長の制止の声も聞かず門を思いっきり押した。
ガコン、そんな音とともに俺らはボス部屋へと無理矢理入らされた。
勇者はゴブリンさえも倒すのに手間取っていると書いてありますが、永遠の迷宮のゴブリンは一般のゴブリンではない上位種です。




