聖バレンタイン
帰り道……
いつものように
右隣にいるはずの
温かく逞しいおおきなその気配は
今日はいない……
深みのある
コーヒー色のセーターを着て
白肌の
透き通る麗しい身に刺さる
冬の空気を遮断している……
制服のままカバンのまま
自宅を過ぎ
電停に着いて
街へと向かいゆく
目的思うと胸を突かれる
街へ降り立つと
寒さのせいで凛とする
暖房の効きすぎた車内から
撫でる空気は肌のおもてを
粟粒立たせそれもまた美しい
大人びた美顔……頬
天然の茶髪の巻き髪にスルリと指を滑らせ
憂いを帯びた味のある表情を浮かべ
鼻筋と豊かな瞳とくるまった睫毛
飾り気のない愛嬌はどこかしら涼しくて……
自宅へ帰る……
瞬間瞬間の空気に……
愛するヒトの面影が咲いて
嬉しさに満面の笑みを零し
瞳には甘やかな涙の粒を湛えている……
胸に宿る……
愛するヒトの声の木霊……
甘く……苦く……心臓を撫で
深淵より深く
愛してくれるその気持ち……
彼女は作る……
淑女よりも気高い
少女よりも穢れのない
花よりも馨しい
彼女は世界の雌しべ……
翌日の帰り道……
愛するヒトの気配は……
いつものように右隣にあって
温かく逞しいおおきなその気配
絶世の黒豹のメスへと優しく注ぎ込む
もう帰ることはない高校の
制服で並んだ帰り道……
来年の聖バレンタインは
まるでオシャレな洋画のように
狂おしく淫らな愛欲の夜が待ち
高校生のカップルとしての
婚約者とのたったひとつのこの日に
歳相応 月並みな幸せを
手作りのチョコに包装して
手渡す瞬間の甘酸っぱさ……
憂いのあるそのヒトの……
胸を鷲掴みにされそうな笑顔と
サラリと受け流す口ぶりで……
それでも子猫をあやすように…
絶世の美女の頭を撫で褒めていた
→……
→キ
→ュ
→ン
→!
→……
→……
切ない切ない切ない……
愛するヒトとの……
固く契った
絶対的な未来があるというのに…………
こんなに力強く抱き締めてくれるのに
→……
→切
→な
→い
→切
→な
→い
→切
→な
→い
→……
→……
冬の風……色めく美少女……
もう帰ってこない高校の帰り道……
聖バレンタインの放課後
手渡したチョコよりも甘やかに……
あなたは色っぽくワタシを蕩けさせる…………