* 神様の鳥居 4
誤字脱字が酷いかもしれませんが、ご容赦ください。
行きは歩いて来た道を、今度は倍以上の速さで駆け抜ける。地上に剥き出しになり波打つ木の根に躓きながら、またある時は降り積もった落ち葉に足を滑らせながら、それでも愛子は、走り続けた。足元ばかりに向けていた目を、それでは余計に危ないと以前健司に注意された事を思い出し、前を向こうと健司の背中に向けたときだった。
健司の右手に、目が行った。その手は何かを掴んで放すまいとしっかりと握り締められていた。
嫌な予感がした。胸の奥の方がざわめく様な感覚がひと際高まる。
――彼は一体何を持っている?
「由梨ちゃん、止まって!」
「!」
愛子の普段とは違う声色に、由梨は驚き、思わず足を止めた。手を引かれて、されるがままだった健司も、由梨が止まるのと同時に歩みを止めた。
「どうしたのよ、いきなり。」
「健ちゃん!」
「……。」
健司は、愛子の声等まったく聞こえていないかのように、宙を眺めたまま微動だにしない。由梨も、健司の目の前で手をひらつかせて見せるが、目の焦点も合っていないことがわかった。
「どうしちゃったのよ、健司!」
耳のそばで叫ばれた自分の名にも、反応を示さない。
普段とは明らかに違う健司の様子に、愛子と由梨は、背筋が冷える思いがした。
「健司、健司!」
由梨が肩を揺すりながら名前を呼ぶが、一向に意識の戻る気配は無い。
愛子は健司の右手が気になって仕方がなかった。いったい何を握っているのか、どうしてかきにかかる。
「健ちゃん、ごめんねっ。」
愛子が健司の右手を掴むと、健司はそれに抵抗するかのように暴れだした。愛子は負けじと健司の右腕にしがみ付き、手を開かせようと力を込めた。しかし健司も、激しい抵抗を続け、終いには、何とか自分から愛子を引き離そうと、髪を引っ張り叫び声をあげる。
呆然と事の成り行きを見守るしか無かった由梨も、我に返ると健司を止めようとしがみ付いた。急に加わった由梨に驚き、健司が僅かに怯んだ隙に、愛子は健司の手から五百円玉サイズの石を奪い取ることに成功した。
「これは……、勾玉?」
「健司!」
由梨の声に目を向けると、健司が倒れていた。
「健ちゃん!」
「……あれ?俺、何して?」
体を揺すられ、意識の戻った健司は、状況がいまいち理解できていないのか、とぼけた声を出した。
何が起きていたのか訊ねられたところで愛子と由梨も何が何だか分からず、説明することは出来ないのだが、愛子は自らの掌に握られている勾玉に視線を落とした。
「健ちゃん、これ。どうしたの?」
「何だそれ。」
「アンタが持ってたんでしょ。何処から持ってきたのよ?」
「はあ!?俺が?」
由梨から告げられた事実に、目を見開き、大きく口を開け、心底驚いた表情をした健司は、大きな声を上げながら愛子を振り返り尋ねた。
「うん。」
愛子の返事が決定打となり、どうやら本当だということを漸く認めた健司は、どうやら自分が持っていたらしい勾玉を覗き込んだ。