* 神様の鳥居 3
しばらくは何も無く進んでいたが、歩いても歩いても先は見えない。
あの大鳥居を潜ってからというもの、鳥や虫の鳴き声も、風が木の葉を揺らす音も一切無く、生き物の気配が全くと言って良い程感じられないのだ。
なんだか、自分たちだけがこの空間に取り残されているようで、気持ちが悪い。空気自体は驚くほど澄んでいるのだが、またそれが違和感を更に増す要因となっていた。
何より、辺りは木々が生い茂るだけで、代わり栄えもしないので退屈だ。
先程から、右足の足の裏が、歩きすぎたためか痛くて仕方ないのだが、前を行く二人はそんなことは気にも止めずに進んでいく。
熊が出そうだの、猪ならいるだろう、いや、兎だったら獲れないだろうか…と、話をしながらどんどんと奥へ突き進んで行く。気分はさながら猟師か探検家、といったところだろうか。愛子の手は、未だ健司と繋がれたままになっており、ハイテンションな二人に振り回されっぱなしになっていた。
「あ、あれ!何かしら?」
「ん?」
「え?」
最初に見つけたのは、三人の中でもずば抜けて良い視力を持つ由梨だった。
愛子の足が限界を迎えそうになる頃、由梨がいきなり大きな声を出し、右の木々の中を指差したのだ。
愛子と健司も、反射的に由梨の指差す方を見て、目を凝らすが、分からない。
「あそこよ!何か光った!」
興奮を隠し切れない様子で由梨が叫ぶ。
それでも、由梨以外には全く分からず、ついには痺れを切らした由梨が、健司の手を引き木々の中へと駆け出した。その反動で繋がれていた愛子と健司の手が離れてしまい、半ば呆然と突っ立っていた愛子だったが、置いて行かれてはたまらない、ここはただでさえ木漏れ日がわずかに漏れるだけの薄暗い場所なのだ。一人で居るなんて怖くて出来る訳が無い。
何度も足を取られ、転びそうになりながらも、遠く離れてしまった二人の後を追い、懸命に足を動かした。
進むたびに、チカチカと、木々の間から赤い光が漏れてくる。
愛子がその光の元を認識するのと前を走る二人に追いつくのは、同時だった。
森を完全に抜けたように開けた、広い場所に行き着いた。遠くは霞がかり、神秘的な空間を作り出していた。
目の前の赤い光がどうしても気になった三人は、その光を確認することにした。
「何?あれ。」
ふと疑問を投げかけた愛子に返る答えは無かった。返すことができなかったからだ。三人のうち誰も、目の前にある不思議な物体が何なのか、説明することができなかった。
自分たちと同じ位はある、白い石灯籠の中で、勾玉を中心に、光がクルクルと回っていた。螺旋状に、球体を描くように回り続ける光は、遠くから見たときは赤く見えたが、実際は、いくつもの色の光が無数に折り重なることで、できたものだった。
「凄いな。」
「うん。」
「きれい……。」
あまりの感動に、言葉が出て来なかった。
光の創り出した恐ろしい程美しい光景に三人は、ただただ見惚れていた。
ぼうっと光に心奪われていた愛子は、ふと何かの気配を背中に感じた。驚き、振り返ってみるが、特に何かが居るわけでも無い。
気のせいだったか、愛子が首を傾げながらも意識を光に戻そうとすると、三人の右横を何かが音を立てて走り抜けた。
ガサガサッという音を聞き、愛子は驚いて通り過ぎた影を目で追った。光を見つめ、心此処にあらずな様子だった由梨と健司も、その音で我に返ったのか辺りを見回し、騒ぎ出した。
「おい、何だよ今の!」
「何?何が居るの?」
突然の出来事に、普段は人一倍冷静な健司でさえ混乱し眉をひそめ、何が起こったのか理解できていないようだった。
「何か、居るぞ。」
「うん。」
辺りに注意をはらい、警戒をあらわにする健司だったが、周囲に目を配っていると、ふと、先程の光が目に入った。
「蛇かしら。」
「ううん、もっと大きかったよ。」
「犬?まさか狼とか言わないわよね?」
「分かんない…ちらとしか見てないから。」
「そんなんじゃ何の役にも立たないじゃない。」
ため息を吐いた由梨は、愛子と話している最中にいつもの調子を取り戻したようで、隣でぼおっと突っ立っている健司を横目で確認すると、言った。
「とにかく、このままこの場所に居るのはまずいわ。一度神社のあったところまで戻りましょう。」
由梨のその声をきっかけに、由梨は健司の手を掴み、愛子はその後ろを追う形で、もと来た道を走り出した。
うーん、どこまでで区切ろうか。タイミングがいまいち分かりません…