後編
注意
*雑
*展開がやはり速い
それでは、後編お楽しみください。
それから、毎年毎年お兄さんと来年の約束をして、お祭りに行った。そして、お兄さんと思いっきり楽しんで毎年家に帰った。しかし、私は妖怪には一度も会えなかった。そして、そんな毎年が続いてあれから十年がたった。私は十五歳になっていた。
「シロっ!今年も今日一日、よろしくね。」
「こちらこそ、よろしく。今年もいっぱい楽しもうね」
「うんっ!」
私たちはお囃子のなる方向へあの時から変わらず手をつないで、シロはあの狐のお面を被ってお囃子の鳴るほうへ歩いていった。
そして、楽しい時間は一瞬で終わってしまった。
私たちはいつもの社に行こうとした。その時にかぎって、人の波が私たちに向かって押し寄せてきた。
「「あっ」」
二人の声が重なった。
あれほどシロが大事にしていたお面が、誰かにぶつかって地面に落ちた。そしてそのお面は・・・、私たち以外誰も気付かず、誰かに踏まれて粉々になってしまった。
しばらく、二人とも動けなかった。人の波は絶えず、動いているのにもかかわらず・・・。
ふと、私は右手に違和感を感じた。右手の感触が少しなくなっているのだ。それはシロの左手だ。私は、シロの方を思わず見た。するとシロは、
「ちょっと、こっち来て。」
と言い、困った顔をして笑っていた。そして、私の手を引いていつも来ていた社の後ろに行った。
「大切なお面、割れちゃった。」
とてもシロは悲しい顔をしていた。
私は、初めてシロのお面をつけていない顔を見た。今までずっとお面をつけていたせいで、シロの顔を見たことなかった。お面をつけていたのに、表情はいつも不思議と分かった。
シロは、悲しそうな顔で話し始めた。
「僕は、あの狐のお面がないとこの世に存在していられないんだ。ほら、これを見て。」
そう言って、さっきまで私の手を握っていた左手を私の前に出した。その手は、指先が透けて無くなりかけていた。そして、指先からなくなるみたいに手が、腕が透けていた。私は、その手に自分のもうひとつの手を伸ばした。そして触れようと思った。でも、触れられなかった。その現実に、私は泣いていた。
「あのね、もうすぐで俺は消えてなくなってしまうんだ。ごめんね。俺は、また君をひとりにしてしまう。」
「えっ・・・・どういうこと??」
「凛ちゃんに声を掛けたのは、凛ちゃんと自分を重ねていたからなんだ。俺はずっと昔からこの森に住んでいて、一人ぼっちで寂しかったんだ。だから、気付いたら声を掛けていた。」
「そうなんだ・・・・・・・私、シロが声を掛けてくれてとっても嬉しかったんだよ。私の周り、同年代の子が全然いなくて寂しくて・・・・・。だから、ありがとう」
「でも、僕はさっきも言ったけど、もうすぐで消えるんだ。だから、君を一人にしてしまう。」
「ううん、もういいよ。そりゃ、シロにはいなくなって欲しくないけど私ももう大人だよ?」
「うん。そうだね。もうあれから人間にしたら十年も経っているんだね。」
「人間にしたら? ・・・・やっぱり、シロは妖怪だったんだ。だから、私たちが出会ってから十年も経っているのに、シロは年を取らなかったんだね。」
「うん、今まで黙っていてごめん。怖がるかと思ったから、言えなかったんだ。」
また、シロは悲しそうな顔をした。
「私は、最後に知れてよかったよ。それに私の夢もひとつ叶ったしね!」
「夢?」
「うん!私一度だけで良いから妖怪に会ってみたかったんだ、ずっと。だから、気にしないで。」
「ありがとう。俺は、この十年、毎年毎年楽しみで、人間の姿になるのが一年もかかるせいで、この日にしか会えなかったけど楽しかったよ。だから、凛ちゃんに出会えて本当に良かった。俺は幸せだったよ。」
「うん、私もシロに出会えてよかった。それに、幸せだったよ。今まで、ありがとう!」
「うん、俺もありが・・・と・・・・う・・・。」
ドーーーン
花火が上がった。打ちあがった花火を見た。
「わぁ、きれい・・・・。ねぇ、きれいだね。シロ。」
なんとなく分かった。シロがいないことを。でも、それでも見ずにはいられなかった。
顔をシロがいた方に向けた。シロの姿は、・・・・・なかった。そしてなぜか私のまわりには、雪が舞っていた。
「シ・・・・ロ・・・? ねぇ、シロ。季節に合わない雪が降っているよ。ねぇ、返事してよ、シロ!」
シロのあの優しい声は、返ってこなかった。分かっているけど、そう言わないと、シロのことは夢だったんじゃないかって思ってしまうと思ったから。だから、何回も何回も「シロ!!」って言った。でも、いくら言っても返事はなかった。けれど、返事の代わりに雪がそのたびに舞って、シロにはもう会えないんだと実感してしまった。寂しくて悲しくて、私は大泣きした。
落ち着いた後も雪は舞っていた。その雪を手に取ると、冷たいはずなのに暖かかった。きっと、シロは雪になったんだと私は思う。
「シロ、本当にありがとう。」
すこし積もった雪の上に一粒の涙が、こぼれた。
そして、私は思い出す。
お祭りがある日と雪が降る日にシロのことを・・・・。
これにて、『夏がもうすぐ終わる頃に』は完結です。
後編、お読みくださった方ありがとうございます。
前後編お読みくださった方は、もっとありがとうございます。
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