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魔王→勇者  作者:
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第三話

【フリスタ城・軍議室】


 その部屋は広いようで狭い。


 理由は部屋の中央に置かれたテーブルが大きいからだ、その大きなテーブルには今、フリスタを中心にした世界地図が敷いてある。


 部屋の特性上としては間違いないのだが、今この部屋にいるのはイクスと。


「やあ、私はリリー、リリー・ヨーズ、フリスタ王国の軍師の一人だ、よろしく頼むよ魔王様」


 イクスを前にして全く動じる様子もなく、背筋に逆撫でる様な笑みを浮かべる女軍師、リリー・ヨーズだけ。


「様はいらないし、イクスで構わないですよ」


 本来なら軍人たちが並び立つであろう部屋に二人だけ、理由はあまりにも滑稽なもので、イクスに世界情勢を教えなければならないが、誰もやりたがらず、ただ一人手を挙げたリリーが全てを請け負ったからだった。


「ではイクス、簡単ではあるが、君にはこの世界について知ってもらおうと思うんだが、構わないかい?」


「何にも知らないし、寧ろ聞きたかったので是非お願いします」


 リリーの言葉にイクスは微笑み頷く。


「…………」


 本当に魔王なんだろうか、それがリリーがイクスに抱いた最初の印象だった。


 城内で兵を指揮していたリリーは、イクスがガイを追い返した事しか聞いてない。


 どこにでもいそうな感じの良さそうな青年が、アリシアが呼び出したというだけで魔王であると城の者たち大半が信じている、だがリリーは信じられなかった。


「どうかしました?」


 いつまでも言葉を発さないリリーに、イクスは不思議そうな表情を浮かべる。


「あっ、いや、何でもない……いや何でもあるな」


「はい?」


 それはリリーの性分であり悪い癖でもあった。

「私は正直言うと、君を信用してないんだ、本当に魔王なのか、本当に戦えるのか」


 試して体験しないと信じられない。


「だから君が三獣将にやった事を私にもやってくれないか?」


「構いませんけど、精神は強い方ですかね?」


「兵を指揮する者として、多少はあると自負しているよ」


 リリーはその日、改めて一つの言葉を再確認することになる。


「では失礼して」


 『壁』という言葉を。






「それでは御説明させていただきます。イクス『様』」


「様はいらないんですが……」


 イクスはリリーの豹変ぶりに苦笑いを浮かべる。


 リリーは獣人たちの様に逃げ出す事はなく、飄々とした様子で何度か頷くだけだった。


 だが殺気をぶつけられてから、リリーはイクスに様をつけて呼ぶようになる。


「私は殺気をぶつけられた程度では崩れないと自信がありました。しかし実際はイクス様の殺気の前に一歩も動けず、むしろどうにか逃げようとさえ考えました」


「でも逃げなかったじゃないですか?」


「逃げなかったのでは無く、逃げ道がなかっただけですよ」


 リリーはイクスの疑問に答えるように、イクスの背後を指さす。


 振り返ったイクスの目に入ったのは、軍議室のただ一つの出入り口。


「これは失礼しましたね」


「お気になさらず、それでは御説明をしましょう」


 リリーは苦笑しながら五種類の駒を地図の上に並べる。


「まずこの世界には、大きく分けて五種類の種族がいます。我々人間族、獣人族、竜族、妖精族、魔族です」


「僕のいた世界とあまり変わらないですね、ああ続けてください」


「はい、それでこの五種族はお互い、ものすごく仲が悪いです。その上で近年魔族の王たる魔王が復活し、世界を脅かしています」


「皆協力しないんですか?」


「お互い自分の種族こそ最高と思っているので、まあまず不可能です。先程イクス様が追い返したダバロウの三獣将のガイ将軍、彼なんかまさに典型的な獣人至上主義者で、協力と隷属を素で履き違えてますからね」


 そう言って溜め息つき、リリーは肩をすくめる、イクスはリリーの様子に種族間の確執が思った以上に深い事を理解する。


「魔王の率いる魔族に勝つには、まず種族間の不和を断ち、協力する他ありません」


「一応伝承の勇者である僕がいるから協力は出来るのでは?」


 イクスの言葉にリリーは、意味ありげに再び溜め息をつく。


「イクス様は確かに伝承の勇者ですが」


 リリーは一呼吸置き。


「あくまで『人間』の伝承の勇者、悲しいかな伝承は魔族を除く四種族にあるのですよ」


 イクスはリリーの話に何となく納得した。



【ダバロウ城・謁見の間】



「つまりフリスタはダバロウとの協力を無視したというわけだね」


 荘厳な雰囲気を漂う謁見の間、豪奢な王座に腰掛けた狼の獣人、ダバロウ帝国王子、ウィル・ダバロウは残念そうに呟く。


「魔王復活で世界は混沌の道を歩み始めた、だからこそ隣国のフリスタとは仲良くしておきたかったんだけどなあ」


「申し訳ありません」


 深々と頭を下げるガイ、だが心の内は態度とは全く逆であった。


 人間と仲良くなぞありえん、バルド様が病床に伏しているからと小僧が……。


 ガイは忠臣であるが、それは自分の理想を寛容に受け止めてくれる皇帝バルドにであり、自分より若いウィルの事は快く思っていなかった。


「協力の意思がない事がわかった今、事態の収束は急務です。つきましては軍を動かす許可を」


「うーん、本当にフリスタは協力を蹴ったのかなあ」


 ウィルと不意に視線があったガイは、背筋に得体の知れない寒気を感じる、覇気がないようで妙に鋭い。


「王子は私をお疑いなりますか」


「いや、そういう訳じゃないんだけどね」


 心が見透かされるような錯覚にガイは頭を下げる振りして視線をはずす。


「ガイ将軍だけでは心配なら、私も出向きましょう」


 それはガイがフリスタで味わったのと異質ではあるが同じ。


「君を? 勇者様に行かせるのは何か悪いなあ」


 抑えようともしない殺気、いや、殺意の固まり。


「人間には分かってもらわねばなりません」


 ウィルが召喚した勇者、深紅の鎧に身を包んだ紅き瞳の戦乙女、紅蓮の凶猫シャルロット。


「まあ君が行くなら良いか、許可するよ」


「ありがとうございます。さあ行きましょうか、ガイ将軍」


 召喚されて間もない頃に、実力を疑った三獣将の一人を瞬殺し、その座をあっさりと手にした強者。


「こちらこそよろしく頼む、シャルロット殿」


 ガイは得体の知れないシャルロットに不安ばかりを抱きながらも、シャルロットを伴い謁見の間を後にする。


 勝てばいい、勝てばこの不安も打ち消せる、ガイは心の底から自分に言い聞かせた。



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