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魔王→勇者  作者:
3/7

第二話

【フリスタ王国・城門前】


「さっさと落とせ!」


 無骨でありながらも、どこか品のある鎧に身に纏った虎の獣人、ガイ・ランバスは苛立っていた。


 ガイは獣人の国ダバロウ帝国の三獣将の一人だ、最近の魔族の勢力の拡大を憂う、皇帝バルド・ダバロウの命により、各国協力を促すためにフリスタ王国を訪れた。


 だがフリスタ王国は協力を拒否する。


 世界の危機だというのに勝手をするフリスタ王国に、ガイの比較的短い堪忍袋の緒はあっさり切れ、実力行使に出させた。


 ちなみにガイがフリスタ王国に出した協力案は。


一つ、人間は獣人に従う事。


二つ、人間は領地の半分ダバロウ帝国へ献上する。



 協力というより隷属せよとしか聞こえない内容。


「我らは人間どもより優れている、優れた者に劣る者が従うのが当然と、何故奴らはわからんのだ」


 獣人至上主義のガイが、人間と協力という言葉を曲解した結果だった。


「じゃあ従ってもらいますかね」


「何っ」


 ガイが言い終える前に、ガイは体を大地に伏していた。

「強い者には従うんでしょう」


 ガイの前にはフリスタ王国王女のアリシア片手に抱き、静かに微笑む黒い外套を身に纏った青年がいた。


「貴様……何をした」


 ガイは自分に気付かれず、更には自分を大地に伏させたであろう青年に殺気を向ける、並の人間なら恐怖に腰が砕けるだろう。


「吼えるな猫が」


 だが青年は恐怖を感じた様子も見せず、逆にガイは再び地面に伏す事になる、今度は地面にめり込む程に。


 ガイはそこで気付かされる、青年は物理的には何もせず、ただ威圧感のみで自分を地面に伏している事に。


「今すぐこの場から去れ」


 拒否も質問も許さない圧倒的命令、ガイもガイの部下である獣人の兵士たちも、まるで自国の王の命令を聞いたように逃げ出す。


 体を動かしていたのは頭ではなく、死にたくないという生存本能だった事を気付くのは青年の視界から逃げきってからだった。


「イクス……」


 アリシアが不安げにイクスを見上げる、そんなアリシアにイクスは無邪気に微笑み。


「僕は魔王であって勇者なんかじゃない、だけど僕は君を救う、約束はしましたからね」



【フリスタ王国・フリスタ城謁見の間】



「そ、それでそなたが三獣将を退けてくれたのだな」


「まあ、そうですねえ」


「そ、そうかそれには感謝する」


「勿体ないお言葉で」


 イクスはそう言いゆったりとした動きで一礼し。


「それよりもフリスタ王」


「な、なにかな」


「別に何もしないので、いい加減玉座の後ろから出てきてもらえませんか?」



 イクスは呆れた様子でフリスタ王、アルバート・フリスタを見てから周りを見渡す。


 衛兵たちは逃げ出したそうに足を震わせ、大臣は泡を吹いて倒れ、王は豪奢な玉座の裏に隠れる、王妃だけが微笑みイクスを見ている。



「アリシア、フリスタ王国っていつもこんな感じなんですか?」


 イクスは自分の傍らでこめかみに人差し指を当て、軽く唸りながら悩むアリシアに聞く。


「そうだとしたらどれだけ国として脆弱なの、イクスが自分の名を名乗った時に何て言ったかしら?」


「お初にお目にかかります。貴国の王女、アリシア・フリスタの願いにより呼び出された『魔王』イクスフォリニアです」


 一瞬その場が凍り付く。


「この世界では『魔王』は恐怖の最たる象徴なの、イクスが思う以上にイクスは恐れられているのよ」


「そういうもんですか、その割にアリシアは僕を恐れて無いですね」


「この世界の『魔王』を倒してくれるんでしょ? ダバロウの獣人たちもお願い通り傷つけずに追い返してくれたし、これでまだ疑っていたら一国の王女として、イクスの召喚者として、イクスに失礼でしょ?」




 イクスはガイたちを捕捉した瞬間、遠距離からの攻撃で一気に潰す気だった。


 しかしそうする直前に、アリシアから出来る限り傷つけないで欲しいと頼まれる。


「駄目なんですか?」


「駄目じゃないけど、傷つけない方が色々都合が良いのよ」


 結果、凶悪な殺気を叩きつけて追い返すに至った。




「ともかくお父様、フリスタの代表は彼です。確かに魔王だけど世界を救ってくれると約束してくれました」


「そ、そうではあるが……」


「良いではないですか」


 話をまとめようとするアリシアと踏ん切りのつかないアルバート、そんな平行線を見かねてなのか、口を開いたのは王妃、エルシア・フリスタだった。


「イクスフォリニア様」


「イクスで構いませんよ」


「ではイクス様、単刀直入にお伺いします。貴方は娘のアリシアを助け、魔王を打倒してくださいますか?」


「ええやりますよ。アリシアと約束しましたからね」


 臆する事無く、イクスはエルシアの眼差しを真正面から受けて言いきる。


 『ライアンガルド』における魔王とは絶対恐怖の象徴、普通の人間ならば倒せるかと聞かれてもわからない、無理と答えるのが通常だ、だがイクスは魔王であり、異世界から来たからこそ簡単に言い切れた。


 エルシアは十秒ほどイクスを見つめていたが、顔に微笑みを浮かべ。


「ではお願い致しますね」


「え、エルシア!」


 アルバートがエルシアに何か言おうする、だがエルシアはそれを手で制する。


「言葉で言い合っていても解決を招きません。受け入れ信じる事も必要ですよ。ねえ皆さん」


 全てはエルシアの言葉で終わった。


 誰も異論を唱える事もなく、フリスタは『魔王』を受け入れる事になった。

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