第7話 尋問…は?模擬戦? 中編
HAHAHA!!
模擬戦にいけねー!!
おかしい…
前編後編で終わるはずだったのに…
「うへー、広いなー。まさかギルドの裏にこんな訓練場があるとは思わなかった」
部屋の中にいた五人は模擬戦を行うという訓練場に来ていた。
ここはギルドメンバーが己の技を研く場所であり、互いに高めあうために模擬戦を行う場所である。広さはというと、よくある表現で東〇ドーム1個分だぜ。
「さぁ二人共。早く準備してねぇん」
「はい」 「キモッ…」
閃…お前最低だな…。それは心の中に留めておけよ。
それはさておき、閃はどの武器を使うのかな?
「んー、どうすっかな…」
袋の中をごそごそと漁りながら決めていく。
その時中から声が、
『主様!! エレンばっかりズルいです。私のことも使ってください!! 主様の前に立ち塞がる障害を我が雷で消し去ってくれましょう!!』
『閃様、私を使ってくださらない? 私なら閃様のご期待にそえることができると思いますわ』
『ならフゥも出たいです〜。まだ全然使ってもらってないので暇なのですよぉ』
『ふざけんなっ!! 閃はまた俺を使うんだよ!!』
上から、まさに主に仕える騎士のような口ぶりの女性の声。
いいとこのお嬢様のような上品な女性の声。
間延びしたのんびりとしゃべる女の子の声。
そして、勝ち気なエレンの声。
そんな四つの声が袋から聞こえてきた。
「シーッ!! お前ら静かにしてろ。気づかれ…」
「セン、ちょっといいか? 今、女の声がしなかったか? しかも袋の中から…。しかも複数…」
いつの間にか後ろに来たレナさんに肩を掴まれた。万力のごとくものすごい力で締め付けられ、閃は額から汗がダラダラと。
何故そんなに怒っていらっしゃる?と閃は思っているようだが、それは閃が声の正体を知っているから出る疑問であり、何も知らない人から見たら袋の中に女性を複数人詰め込んでる変態野郎にしか見えません。
しかもレナさんは先程、俺の女宣言をされていますから怒り狂うのは当たり前ですね。
そんな背後に般若の見えるレナさんにビビり、閃君は話題を変えようとしたが、
「レナはスピードで相手を圧倒する闘い方だな? さっきのグランツ、だっけ? そいつに剣を向けた時とか素晴らしい速さだな」
「それはありがとう。センに褒められるとはなんと嬉しいことか。それで? さっきの声は?」
ごまかしきれなーい!!
もうここまできたらしょうがないので閃は観念してさっきの声の正体を出した。
「ハァ…、分かったよ。紹介してやる。こいつが俺の剣、<サンドルク・ド・レジス>だ」
出された剣はに金色? 黄色? そんな色の、両刃の長剣。
エレンのように刃や柄、鍔に装飾がなされているが、こっちは雷、稲妻をイメージしているようだ。全体的に鋭い印象を受ける。全長1mぐらいか、本来なら両手で扱うのだと思うが閃は片手で振り回す。
そりゃあ片手で大剣振り回してたしな…。
『<サンドルク・ド・レジス>と申す。主様からはサンと呼ばれている。よろしくお願いする』
サンは堂々とした声で自己紹介をした。
周りは剣が喋ったことに開いた口が塞がらないらしく、全員アホな顔をしているが閃はお構いなしに次の剣を取り出す。
「次はこいつだ。<アイシム・ル・コキュート>という。俺はアイシィって呼んでる」
次に出てきたのは青の長剣。
長さはサンと同様、形も似ていて、違うのは装飾か。こちらのイメージは氷? 綺麗に見えるように崩されたり簡略化されていて、雪や氷だと何となくわかる。
いやはや、閃の作る剣は綺麗だねー。
『お初にお目にかかります。私の名は<アイシム・ル・コキュート>といいますわ。閃様への無礼は許しませんから』
『ああ、それは私も同じだ。我が雷の餌食にしてくれよう』
閃君愛されてる。ここまで言ってくれる剣はなかなかいないよ。まぁ、普通はしゃべらんから当然か。
「やめろって、毎回毎回」
毎回やっているようです。
「ふぅ…。次は<エンレンガ・ラ・キュラー>。エレンって呼んでやってくれ」
『呼ぶなよ!? 絶対にその名で呼ぶな!!』
『もぅ、あなたは本当に声が大きいですわね。品がありませんわ』
『うるせーぞアイシィ!!』
『そうやってすぐ怒鳴る。もう少し上品になったらどうかしら? そんなんじゃ閃様も愛想尽かしますわよ?』
『せ、せせせ、閃は今関係ねぇだろが!! …大丈夫だし。閃はオレのことちゃんと見ててくれてるもん…』
「ん? 俺はちゃんとエレンのこと見てるぞ? 愛想尽かすわけねぇだろ」
『だ、だよな!! ほら見ろ!! 閃はそんなことしねぇよ!!』
『本当にこの子ったら…。ほら、早く自己紹介してしまいなさいな』
そんな感じで三人は漫才を終え、ちょっと機嫌が良くなったエレンは自己紹介。
『<エンレンガ・ラ・キュラー>だ。呼び方はなんでもいいが、エレンだけはやめろ』
「もうエレンでいいじゃんかー」
『よくねぇんだよ!! そんないかにも女っぽい名前は嫌だね』
「かわいいのになぁ…」
『ばばば、バカ言ってんじゃねぇよ!!』
怒鳴っているけど少し照れも入っているかな。エレンはツンデレのようで。
閃の魔剣たちは性格のバリエーションが豊富だねー。
「んで、こいつが最後だな。見ての通り鎌だ。名は<フウロク・ノ・シラベ>。フゥって呼んでる」
取りだしたのはどう見ても2mはあると思われる大きな鎌。
鎌といえば死神が持っているような禍々しい物を想像するが、この<フウロク・ノ・シラベ>は綺麗な鎌である。全体的に緑色主体で、風をイメージした装飾が施されている。そして刃は、サンやアイシィ、エレンの刃より余程美しい。
それは何故か、理由は一つしかない。
うん、使ってないからだね。
『どもー。フゥといいます。マスターはなかなかフゥを使ってくれませんねー…。フゥもドカーン、ビュオーと活躍したいのですけど』
「ごめんなー? 鎌は剣より疲れるんだよ。その分夜話してやってるだろ?」
『そうなのですがー…』
鎌は剣より疲れるようである。
なら何で鎌なんか作ったんだと問いたいところであるが、多分返ってくる答えは面白そうだったからとかそこらへんだろう。
その時その時の思いつきで生きているといってもいいぐらいの男である。自由と面白いことが大好き(あとドMのお姉さん)で、それを求めて行商人になっちゃったやつである。
「…つまらない。そうだ旅に出よう!!…でも金がない。じゃあ魔具を売ろう!!行商人とかピッタリじゃね?」
こいつバカじゃね? というわけで閃とはこんなやつなのだ。
まぁ、最近はお客さんに喜んで貰いたいっていうのが一番だろうけど、始まりはこんなもん。
閑話休題
と、閃たちの夜にお話という話題が聞き捨てならなかったのか声を荒げる者が一人。
『ちょっと待て!! フゥ、主様と毎晩密会を開いていたのか!?』
あれ? 剣も一人でいいかな…?
というかサン、密会はちょっと違くないか?
『閃様とお話なんて………ずるい!! もとい、羨ましいですわ!!』
『それを言うならフゥだって戦いたいのですよー。マスターの魔力はまだ二回しか食べてないんですからー』
『魔力なんて関係ありませんわ。閃様と毎晩話せることの方がよっぽど幸せじゃないの』
サンに加えアイシィも参戦。
閃君てばモテモテ〜♪
そしてエレンはツンデレなんで言いたくても言えません。難儀な性格である。
もっと閃みたいに正直に生きれば楽なのに………そうでもないか。正直は正直で大変だわ、多分。
「なぁ、エレン。どうすりゃいいかな?」
『オレが知るか。自分でなんとかしろよ』
「エレンは冷てーなー。俺のこと嫌いなのか?」
『い、今は関係ねぇだろ』
「そっか…、嫌いだよなー。そりゃ嫌な名前で呼ばれてんだもん。しょーがねーか…。」
『そこまで言ってねぇじゃねぇか!? わざとか? わざと落ち込んでんだろ!?』
「ごめんな。今度からはエンレンガってちゃんと呼ぶからさ。もうこれ以上、嫌いにならないでくれよな」
悲しみを滲ませた笑顔をエレンに向ける閃。偽ってませんよ?
閃君は正直者だし、人を欺いて疲れるならそんなめんどくさいことはしないだろう。
『〜〜〜っ!! …好きだよ!! 閃のこと大好きっ!! 前も離れなくないって言ったじゃん…。エレンって名前も呼んでくれてうれしかったもん!!』
………おぉ。エレンが女の子口調でめっちゃデレとる。
閃もびっくりなご様子。剣なのに顔を真っ赤にさせながら言っている姿が見えてこなくもない。
かわいいやつめ。
『だから、これからもエレンって呼んでもいいからね?』
「…本当か?」
『うん。何回も言わせないでよー』
「ありがとうエレン。あと…」
『あと?』
「今の口調が素か?」
『へ?………ふわあああ!!!!! 今のナシ!! 今の話しナシ…じゃない!! 内容はアリで、口調がナシ!! 忘れろ!!』
女の子口調がそれはもう自然に出ていたからこっちが素なんじゃねぇの?って本気で思ってしまいますね。
忘れろなんて言っているが、これはもう俺の脳内メモリーに保存するしかないわー。
「えー可愛かったのにー?」
確かに可愛かった。可愛かった。
大事なことだから二回言いました。これは所謂ギャップ萌えというやつだろう。
閃もお姉さんキャラなのにドMというギャップが堪らんのと同じ感じだと思う。
………だよね?
『う、うう、うるせえ!! 何も言うなっ!! もうオレは寝る!! 早くしまえ!!』
ふて寝ですね、わかります。寝るとストレスも減るみたいですからねー。
ふむ、ふて寝もある意味では正解だったりするな。
閃はしょーがねーなーとか何とか言っているが、口角がばっちりと上がりニヤケ顔なのはご愛敬。
いつもあの口調ならかわいいのになー。でも男勝りな口調もなかなかだし…。
結論 エレンめっさかわいい
「ねぇん。私たち空気になってないかしらん」
あ、キングまだいたんですね。そういえばここには模擬戦しに来たのになにやってるんだ?
レナさんは未だに剣が喋ったことが信じられないのか、自分の剣に話し掛けている。現実逃避中ですね。レナさん正気に戻ってー。
キングとSランク二人はぶつぶつの文句を言っている。
「なんでこの私が空気なわけぇん?」
だとか、
「マスター怒らないでください」
「せっかく綺麗な顔立ちなんですから」
だとか。なんか鬱展開のようで。
おーい話が進んでないよー。誰か話進めてー。
つかジーク、綺麗な顔って…。マジか…、ジークマジか…。もうこの世界信じられない。
「あのー、早く模擬戦なさらないんですか?」
「「「おぉ!? 誰だおまえ!!」」」
おぉ!! 素晴らしい具合にハモった!!
そしてこの妙な集団に声をかけてきたこの女性。この人はっ!!
ブサイクな受付嬢たちに混じっていながらもその美しさを損なわず、むしろ周りのブサイクどもがこの娘を際立たせてものすごく輝いていた人だ。
たぶん閃はこの人の受付しか使わないことだろう。空いてるし。
ホントにこの世界のやつらはっ!!
こんなかわいい娘がブサイクだなんて………、憎いっ!! この世界が憎いっ!!
茶色い長い髪をポニーテールにしている。目はくりくりとしていて小動物のようで、何と言うか素朴な感じの可愛らしさ。シエンちゃんやレナさんとはまた違った可愛らしさです。
「皆さんひどいですよ…。ここの管理は私なんですからいて当然なんですけど…」
「あぁ、そうだったわねん。ごめんなさぁい」
「おぅぇぇ………」
閃君あなた失礼。
そしてここ、訓練場の管理をしているのは受付の娘である。ここを使う際は使用許可をとらなければならないのだ。まぁ、一声かけて名簿に記入するだけなのだが。
「はぁ…。いくらブサイクだからって忘れるなんてひどくないですか…? …それよりも早くなさらないんですか? 模擬戦」
「そうねぇん。じゃあセン君とグランツは準備してぇん」
「はい」 「うっぷ…」
もう何も言うまい。
ただ一つだけ言っておく。
そういうのは隠さないと厄介事に巻き込まれる、絶対に!!