第6話 尋問…は?模擬戦? 前編
「おい貴様ら!! マスターの前で何をしているっ!!」
今まで大きな口を開けて呆けていたSランクの一人が抗議の声を上げてくれた。
そりゃ目の前でラブシーンを繰り広げていたなら怒れるのも分かります。しかも美人を差し置いて、ブサイク(むっちゃキレイレナさん)とだなんて…、この世界の男は納得いかんでしょう。
イチャイチャしていたのがキングとでも怒っていただろうがね…。
ま、なんにせよよくやった!! これで話が進むぜ!!
「うるせぇな。今いいところだろうがよ…」
甘い雰囲気になっていたのを邪魔されてイラッときたのか、目を鋭くさせ睨みつける。が、ここでびっくり。
いつの間にかレナさんが抗議してきた男の傍へ移動し、首筋に剣を当てているではあーりませんか。不機嫌な閃君よりよっぽどおっかない殺気を滲ませている。
ふむ…、あのスピードからするとレナは速さが売りのようだな、と閃は一人で分析、判断。
「おいグランツ、邪魔してくれるな。センと私のいいムードが台無しだろう?」
静かな怒りを身に纏い、くだらない理由で剣を向けているレナさんは自分の立場というものを忘れていらっしゃる。
あなたはこのギルドに所属? 一応Sランクだよね?
あ、それと、男の名前はグランツというみたいです。
「まぁまぁ、グランツにレナちゃん落ち着けって。マスターの前だぜ?」
そこで今まで傍観を決め込んでた、見た目軽そうな男が間に入った。
金の長髪に、耳や指などにジャラジャラとたくさんのアクセサリー。顔はカッコイイので似合ってはいるのだが、その格好で戦えるかは疑問である。
ちなみに、グランツと呼ばれた方は頭以外の全身に鎧を纏い大剣を背負っている。茶髪を短く刈り込み、顔は爽やかなんだが、お堅い軍人風の格好なので、閃はさっきの事もあってかめんどくさい奴だろうなー、と予想。
話を戻そう。
レナさんはチャラ男を一瞥。
「レナちゃんと呼ぶな。この前みたく切り刻んでやろうか? ジーク」
「え、切り刻まれた覚えはないんですけど?」
「あぁ、そういえばあれは夢だったな」
「俺の事相当嫌い!?」
そんなコントの中でチャラ男の名前はジークということが分かった。カッコイイけど、三枚目に近そうである。
「いい加減にしなさぁい? 話が進まないじゃないのよん」
甘ったるい声が場に響く。
さすがにこの状況に我慢できなくなったようですね。モザイクの裏ではブサイクな顔をしかめて、よりブサイクになっていることでしょう。
「「「すいません…」」」
ようやく自分が何をやっているのか気付いたSランク三人はキングに謝った。
「それでいいのよん。さて、本題に入ろうかしら? 閃君といったわよねぇ?」
「…おぇ……、そうです」
この人失礼。
「ちょっと、レナ来て」
「あぁ、今行く(はぁと」
…もう何も言うまい。
勝手にイチャラブしてればいいさ!!
リア充死(自重
「すいません。私情によりレナの顔を見ながら話させていただきます」
なるほど、チャージ切れをなくそうとしているのか。こいつ本当に失礼な奴だな。
前は、人のこと見た目で差別しないって言ってたじゃん。
「限度がある」
さいですか…。
まぁ、確かにキングの顔はもはや兵器です。
ブサイクでとっても美人でとっても…。
「あらぁ、どうしてかしらん? 私の顔は見れないっていうのぉ?」
「理由は言えません。条件を呑んでくれなければ、このギルド破壊しますよ?」
「わ、わかったわん」
さすがに破壊されてはまずいと思ったのだろう。先程感知した魔力があれば、そんなことは簡単にできそうですし、顔をあわさないぐらいならどうってことない。
キングは認め、グランツとジークも不満そうだが認めたようである。
「助かります。それで聞きたいこととは?」
レナさんと見つめ合いながら聞く。
レナさんはめちゃくちゃうれしそうですね閃死ね。
「そうねぇ…。まず、あなたは何者かしらん?」
「何者か…ですか。旅人としか言えません。この街には偶然たどり着きました」
「旅人? それにしては軽装だと思うんだけどぉ?」
「道具類は全てこの袋の中にあります」
「その袋の中に? 全部入れるのには小さくないかしらん?」
「(あ、しまった! この世界には魔具はないんだった。くそっ、こうなったら…) えーっとですね、これは祖父の形見でして…。この袋は空間魔法がかかっているらしくてですね、見た目に反して大量に物が入るんです。祖父は生前冒険家をしていたらしく、様々な場所に潜っていました。その冒険の途中でこの袋を見つけたみたいですね」
乗り切ったか? と、相手の反応を待つ。
なんかベッタベタな嘘であったが大丈夫だろうか?
「そうなのねん。それじゃ中を見せてもらえる?」
乗り切れたーーー!?
意外と信じてもらえるものですな。
そして閃はほっとしながら、旅の道具を取り出しはじめた。
もともと閃は行商人ですから、こういう装備は元から持っていました。にしてもキングもうたぐり深いですな。
「ありがとう。次は…、出身はどこかしらん?」
「村です。名前はありませんでした。南の方にありまして、迷った人や居場所のない者が集まってできた所なので」
閃は次々と嘘をついていく。そしてどうすればそんなにポンポンと出てくるのか気になる。
ちなみにレナさんはうっとり中でござる。
「次は魔力についてねん。今はさっき感じた魔力程感じないのだけど、抑えてるのかしらん?」
「はい。MAXの2500万分の1程度に抑えています」
そう言った瞬間、キングとグランツ、ジークが目を見開いた。
「嘘をつくなっ!! 今お前からはAランクのメンバー相当の魔力が感じられるのだぞ!!」
グランツには信じられなかったようだ。
今の話だとAランク2500万人の魔力を持っていることになりますな。………兵器じゃね? 迅さんよりもよっぽど強いんじゃ…。
グランツが信じられないのも頷ける。
「じゃあ、無くしましょうか? 抑え」
「は?」
「ふっ」
閃が軽く息をはいた瞬間に、部屋中に重いプレッシャーがかかった。
相対する者には恐怖を、味方には畏怖を。
一般人ならば気を保つことすら難しい程の魔力が部屋中に溢れ、全員汗がダラダラと流れる。
平気なのは閃と、魔力が当たらないようにしたレナだけだ。
当たらなくとも魔力は感じられるため驚愕している。
「これでもまだ2500分の1なんですけど、MAXにしましょうか?」
「や、やめて…ください…」
なんとか立っている状態のジークが言った。
閃君、これでも2500分の1なんだー。
MAXにしたら皆戦意喪失するわ、これ。
………閃一人で一国を制圧できるんじゃね? チートすぎる…。
「センはすごいなぁ!! 流石は私の旦那様だ!! まあ、そんな物がなくとも愛しているがな…」
レナさんのはしゃぎようがすごいっす。
閃に抱き着き、胸に頬をすりすりしている。ていうか最後のは何だ。うっとりと頬を赤く染めながら言うのは綺麗だけども完全にキャラ崩壊だろ。
基本的に閃が絡むと壊れますね。
「ちょっとぉ…、もう分かったから抑えてくれないかしらん?」
ちょびっと苦しそうな声をあげるキング。
Sランク二人は顔色が悪いが、キングはなんとか持ちこたえてる、と思われる。モザイクで見えません。
「はいよ。…んっ」
全身に力を入れ、自分の中に魔力を押し戻す。結構疲れる作業みたいですね。閃も少しお疲れのご様子。
「ふぅ…。これ無理やりやるから疲れるんだよな…」
「お疲れ様。ほら水だ」
レナさんがいつの間にかコップに入ったお水を持ってきてくれていた。なかなか気が利く。ポイント高いですな。
「サンキュ」
閃は受けとった水を一気に飲み干し、お礼と共にコップを返した。
レナさんはニコニコしながら奥にある扉へ向かって行った。あそこは給湯室ですかね。
やっぱりマスターの部屋は豪華だ。
「さて、俺の扱いだけどどうなるんですか?」
「そうねぇ…」
キングは顎に手を持って行き、手はモザイクで隠れる。
なんか面白いな。
「………うん。このギルドに入りなさい」
「ちょ、マスター!? 私は反た「本当ですかぁ!?」」
グランツの言葉は給湯室から帰ってきたレナさんの声に遮られる。
「やったなセン!! これで私と一緒に依頼を受けれるぞ!!」
「おいおい、落ち着けって。そんな喜ぶことか?」
「え? だ、だって…」
急に下を向き、もじもじし始めるレナさん。
かわゆい…。
「一緒にいられる時間が…増える…だろ?」
「………………おぉふぅ」
閃選手KO!!
一発KOだぁぁぁ!!
レナ選手は上目遣い+もじもじ+一途な想い、という最強コンビネーション技を炸裂させ、閃選手を骨抜きにしたぞぉ!!
「マスター!! あのような危険なやつを置いておくことに私は反対です!!」
いちゃついている二人を無視して、グランツはキングに言う。
「危険だからこそよん。野放しにしておけないからぁ、私たちで監視するの」
「お、おぉ…、なるほど。そのようなお考えがあるとは、さすがマスター。他の人々のことも考えておられるとはお優しい。でしゃばってしまい申し訳ありませんでした」
はい、一件落着ようですな。
つか、閃はなんで指示を仰いだのが分からないすね。まぁ、当初の目的であるギルドに入ることは叶いそうだ。
「さぁ、そうと決まれば早速テストするわよん」
「えっ、テストなんかするんですか? めんど〜…」
物ぐさ閃君はテストが嫌いなようで。
「ちょっとした模擬戦するだけよん。戦えるわよねぇ?」
「ええ、まぁ」
「ならいいわ。すぐ終わるわよん。相手はグランツにやってもらうし」
Sランクが相手だからすぐ終わると思っての言葉だろう。普通ならSランクに敵うやつなんかいないから。
だが甘ーい!!
相手は規格外の男、閃。見くびってはいけないですぞ。
ま、本当にすぐ終わる可能性もあるが、グランツKOで。