第4話 魔剣の力…いや、閃の力?
なんか展開がものすごく早い気がする…。
「で? 勝負内容はどうする? いくらなんでも街中で魔法ぶっ放すわけにはいかんだろ」
閃が顔をひくつかせながら男に聞いた。未だに怒りが治まらないようで若干睨み気味なのご愛敬。
「そうだな…。お前、炎の魔法は使えるか?」
考え出して少ししてからニヤリと笑い提案してきた。
自信がありげということは炎の魔法が得意なんだろーなー、と相手に知らせているようなものである。
勝負なのだからもう少し隠したほうが良くないか? と思うのは俺だけではないはず。
「まぁ、多少は」
「なら話しは早い。どっちが大きい炎の球を作れるか、で勝負だ。お前が買ったらすぐに列を譲ってやる。負けたら、アイスを奢ってもらおう。それでどうだ?」
すぐにも何も、こんな勝負をするより大人しく並んでればもっと早かったんじゃね?
「あぁ、かまわんよ」
「受けたな馬鹿がっ!! あらかじめ教えといてやるが俺はギルドランクBのエースだぜ? お前に万に一つも勝ち目はねぇよぉ!! ハーハッハッハッ!!」
見下すように笑い続ける男は本当に嬉しそうだった。大方、こんなガキに負けるわけねぇ!! アイス代は浮くし、彼女にはカッコイイとこ見せられるし、一石二鳥だぜ!! 俺頭いい! とでも思っているのだろう。
周りもBランクと聞いて、すげぇとか言ってるからそれなりらしい。
前の世界とシステムが同じだったらまぁまぁなのだが、この世界はまだわからない。
油断大敵、ってね。
「大丈夫なんですかそんなことして!? 相手はBランクなんですよ!?」
いつの間に暴走が止まっていたのか、瞳を潤ませながら女の子が心配してくれた。一つ言っとくと、男の子はこれだけで頑張れるもんなんだぜ?
「大丈夫大丈夫。うちのエレンはすげぇんだから。それよりちょっと離れてなよ」
「へ? エレン?」
女の子は意味がわからないらしく、こてんと頭を傾ける。まぁそれもそうである。連れなどいないのだから、不思議に思われても仕方ないだろう。
それにしてもすごいカワイイ。100点だ!!
ちなみに10点満点です。
「じゃあいくぜぇ!!『火よ集え 眼前の敵を焼き払わん ファイアーボール』!!」
詠唱をして魔法を発動し始めると、男がはめていた指輪が光りだした。
あれが媒介なのだろう。
目の前に現れた炎の球はどんどん大きくなり、5メートルほどの球になった!!
………あれ? 前に作った炎の竜の方がでかくね?
「どうだこの大きさ!! 早くお前もやってみろよ!! おっきく作れるといいですね? ハーハッハッハッ!!」
イラッ
「見てろよボケぇ…。すげぇの作ってやるからよぉ…」
ぶつぶつと呪詛のような悪口を言いながら移動をし、背負っていたエレンをおろす。片手で馬鹿でかい大剣を持つものだから周りが騒ぎだした。
「エレン、ちょいとばかし本気で魔力流すからな」
『おう。閃の魔力はうまいから好きなんだよなー。あとその名で呼ぶな!!』
そんなあほなこと言いながら魔力を流しはじめる。ちなみに魔剣にとって魔力を流されるのは、人の間でいう食事をとっている状態らしい。質の良い閃の魔力はご馳走っていうわけ。
そんな魔力を、いつも抑えている分まで少し解放して流す。
閃の体から溢れんばかりの魔力が感じられ、男は今更顔を真っ青にして後悔し始めるのだった。
閃が、生まれた炎を球にしていく。見る見るうちに大きくなっていき、街の上空に30メートルほどの炎の球ができた。ちなみにこの間2秒。
え? 太陽ですか?
「………やりすぎちゃった☆」
もう、閃君はお茶目だなぁ。これ軍でも出てくるんじゃなかろうか。
一瞬で街中が騒がしくなり閃はものすごく、とてつもなくいたたまれなくなった。
『はぁ…。閃の魔力はうめーなー。閃、もっとぉ…』
エレンが普段の勝ち気な声からは想像できないほどに、甘えた声を出してくる。こんな声も出るんですね。そんなエレンにため息をはきながら炎を消し、みっともなく尻餅をついている男に向き直る。
「んで? 俺の勝ちなんだけど。いろいろ謝ってもらおうかぁ負け犬君?」
それはもう恐ろしい笑顔で迫る閃の後ろには心なしか修羅の姿が見えますね。さっきの魔法とこの修羅で、とてつもなく恐ろしい化け物に男には見えたようで、
「う、うひぃぃいい!! すいませんでしたぁ!!」
情けなっ!! 男カッコ悪すぎるだろ。
ブサイク女を連れて、それはもう目にも止まらぬ速さで逃げ出しましたとさ。
めでたしめでたし。
「あいつダメだな。ダメダメだな。ハァ…」
やれやれといった感じで首を振り、女の子の方へ歩いていく。
「つーことで、終わったぜ? お嬢さん」
太陽みたいな炎の球を見たせいか、口を大きく開けて呆けている女の子に話し掛ける。こりゃまたそんな顔も可愛らしいことで。
そして閃の声は聞こえてないようでスルー。
「おーい」
「………え? あっ! ごめんなさい。本当に助かりました。ありがとうございます!」
顔の前で手を振ってようやく気付いた彼女は顔を赤らめてお礼を言ってきた。
「いいっていいって。美人さんのためならなんとやらだ」
「もぉ、褒めたって結婚ぐらいしかしてあげられませんよ?」
「いやいや、別にそんなつもりで……って結婚?」
「はい。御傍であなたを支えて差し上げることぐらいしか」
「…………」
やはりこの女の子はいろいろ先走る子のようで、閃がビックリした今も、子供は二人ぐらいですかね? でも作るなら新婚生活を楽しんだ後で〜やらなんやら。頬に手を当てながら悶えてる様を見るかぎり、発想力も豊かみたいですね。
「はははっ。なんかこの子おもしれーな」
そんな事を閃は呟いて女の子を微笑みながら見守っていると、大きな叫び声が聞こえてきた。
「全員動くな!! 私はギルドの者である!!」
そんな事を言われたため、気になって振り返ってみればまた硬直。なぜならまたまた美人さんが現れたからだ。
鮮やかな朱い髪をポニーテールにした、勝ち気な顔付きの人だ。
目の色も朱色で釣り上がっており、それは可愛らしいよりも凛々しくカッコイイ感じである。スタイルもハンパない。はちきれんばかりですよ? ………いやいや、何がとは言うまい。
でも、この世界ではブサイクなんだよね…。
もったいないったらない。
服装は動きやすさ重視なのか少しゆったりとしたパンツにジャケット、そして膝下まであるブーツ。
長剣を二本腰に挿しており、朱い髪によく合う紅のマントを身につけている。
なんていうか、偉いんだろうな〜っていう格好です。
「この場は私、レナ・リースルーが仕切らせて頂く」
そう言った瞬間周りがざわつきはじめた。
「おい、<炎帝>が出てきたぞ!!」
「俺初めて見た…。すげぇブサ……うおっ!!」
今ブサイクと言おうとした男の足元に、火の玉がすごい速さで飛んでいく。この人容赦ねー。
そして、新たな情報が一つ。
二つ名持ちということだ。
さっきも魔法の詠唱破棄を楽々とやってみせたし、相当な実力者だろう。
「先程強大な魔力と共に、30m程の炎の球が確認された。出したのはどこのどいつだ? 名乗り出ろ!!」
ビシッ!!
一斉に全員が閃を指差す。
「えぇっ!? 何その統率力!? 訓練でもしてんのかよ!?」
「お前があの炎を?」
ここまで来たら黙ってるわけにもいかず、渋々名乗り出た。
「はい…、俺っすけど。どうかしました?」
「どうかしたかではない!! あんな強大な魔力を持つ者を放っておけるわけないだろ!! ちょっと来てもらおうか」
「お断りしまっぐひっ!!」
その言葉から察して、まためんどくさいことになりそうだと思い逃げようとしたが、襟首を掴まれ引きずりだした。
そして、ここから抵抗すればよりめんどくさいことになると思った閃はされるがまま。
一人残されそうになった女の子は、慌てて閃に向かって言う。
「あ、あの! 私、シエン・ヴァンガードと申します!! あなたのお名前を聞かせてくれませんか!?」
もうすっかり遠く離れてしまったシエンに閃は呑気に手を振りながらニヘラと笑い言う。
「閃だ。セン・タナカ。君とはまた会いそうな気がするな」
そんなセリフをはいて、閃はズルズルと引きずられ小さくなっていった。