拠点変更
拠点に戻ると、
トーマスはいつもの場所にいた。
壁にもたれ、
端末を操作している。
「戻ったか」
視線を上げ、
二人を見て軽く頷く。
「ダンジョンに潜っていたようだな」
「まあな」
新は短く答えた。
「低ランクを何本か」
トーマスは皐月を見る。
「……問題はなさそうですね」
「はい」
皐月は少し緊張しながらも答えた。
「新が前に立ってくれたので」
「それが正解だ」
トーマスは即座に言った。
「非覚醒者や支援寄りのジョブは、
前線に出ない方がいい」
ごく自然な助言。
いかにも“正しいNPC”。
⸻
「ただ」
トーマスは続ける。
「これからもダンジョンに潜るなら、
ここを拠点にするのは効率が悪い」
「……やっぱりか」
新は頷いた。
「人も多いし、
動きづらい」
「この拠点は、
前線攻略向けだ」
トーマスは端末を操作し、
別の地図を表示する。
「居住地区寄りの小規模拠点がある。
低〜中ランクダンジョンへのアクセスがいい」
皐月が画面を覗き込む。
「……こっちの方が、
生活エリアに近いですね」
「物資の補充もしやすい」
トーマスは淡々と説明する。
「今のお前たちには、
その方が向いている」
⸻
新は少し考え、
結論を出した。
「拠点、移そう」
「え、いいんですか?」
皐月が聞く。
「問題ない」
新は即答した。
「今の動き方なら、
その方が楽だ」
「判断が早いですね」
トーマスは小さく笑った。
「では、必要な手続きをしておきます」
⸻
荷物は多くなかった。
装備。
消耗品。
ダンジョン用の最低限の道具。
皐月は、
新しく買った冒険服を大事そうに撫でる。
「なんだか、
本格的になってきましたね」
「最初から本格的だっただろ」
「それもそうですね」
少し照れたように笑う。
⸻
新しい拠点は、
こぢんまりとしていた。
だが、無駄がない。
寝床。
簡易倉庫。
すぐ外に出られる出入口。
「……こっちの方が落ち着く」
皐月が率直に言った。
「人が少ないですし」
「慣れれば、こっちの方が動きやすい」
新は端末で、
周辺ダンジョンの一覧を確認する。
「一週間」
新は呟いた。
「情報が来るまでの準備期間だ」
「何をします?」
皐月が聞く。
「潜る」
即答。
「低〜中ランクを回して、
装備と金を固める」
「了解です」
皐月は、少しだけ気合の入った声で答えた。
⸻
その夜。
拠点の簡易ベッドで、
皐月は天井を見上げる。
「一週間って、
結構あっという間ですよね」
「ああ」
新は端末から目を離さずに答える。
「だから、
無駄にはできない」
「……ですね」
明日もダンジョン。
その次の日も。
ただ、強くなるために。
新しい拠点で、
二人の準備期間が始まった。




