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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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9/12

拠点変更

 拠点に戻ると、

 トーマスはいつもの場所にいた。


 壁にもたれ、

 端末を操作している。


「戻ったか」


 視線を上げ、

 二人を見て軽く頷く。


「ダンジョンに潜っていたようだな」


「まあな」


 新は短く答えた。


「低ランクを何本か」


 トーマスは皐月を見る。


「……問題はなさそうですね」


「はい」


 皐月は少し緊張しながらも答えた。


「新が前に立ってくれたので」


「それが正解だ」


 トーマスは即座に言った。


「非覚醒者や支援寄りのジョブは、

 前線に出ない方がいい」


 ごく自然な助言。

 いかにも“正しいNPC”。



「ただ」


 トーマスは続ける。


「これからもダンジョンに潜るなら、

 ここを拠点にするのは効率が悪い」


「……やっぱりか」


 新は頷いた。


「人も多いし、

 動きづらい」


「この拠点は、

 前線攻略向けだ」


 トーマスは端末を操作し、

 別の地図を表示する。


「居住地区寄りの小規模拠点がある。

 低〜中ランクダンジョンへのアクセスがいい」


 皐月が画面を覗き込む。


「……こっちの方が、

 生活エリアに近いですね」


「物資の補充もしやすい」


 トーマスは淡々と説明する。


「今のお前たちには、

 その方が向いている」



 新は少し考え、

 結論を出した。


「拠点、移そう」


「え、いいんですか?」


 皐月が聞く。


「問題ない」


 新は即答した。


「今の動き方なら、

 その方が楽だ」


「判断が早いですね」


 トーマスは小さく笑った。


「では、必要な手続きをしておきます」



 荷物は多くなかった。


 装備。

 消耗品。

 ダンジョン用の最低限の道具。


 皐月は、

 新しく買った冒険服を大事そうに撫でる。


「なんだか、

 本格的になってきましたね」


「最初から本格的だっただろ」


「それもそうですね」


 少し照れたように笑う。



 新しい拠点は、

 こぢんまりとしていた。


 だが、無駄がない。


 寝床。

 簡易倉庫。

 すぐ外に出られる出入口。


「……こっちの方が落ち着く」


 皐月が率直に言った。


「人が少ないですし」


「慣れれば、こっちの方が動きやすい」


 新は端末で、

 周辺ダンジョンの一覧を確認する。


「一週間」


 新は呟いた。


「情報が来るまでの準備期間だ」


「何をします?」


 皐月が聞く。


「潜る」


 即答。


「低〜中ランクを回して、

 装備と金を固める」


「了解です」


 皐月は、少しだけ気合の入った声で答えた。



 その夜。


 拠点の簡易ベッドで、

 皐月は天井を見上げる。


「一週間って、

 結構あっという間ですよね」


「ああ」


 新は端末から目を離さずに答える。


「だから、

 無駄にはできない」


「……ですね」


 明日もダンジョン。

 その次の日も。


 ただ、強くなるために。


 新しい拠点で、

 二人の準備期間が始まった。


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