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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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8/12

役割分担

 低ランクダンジョン。


 新にとっては、

 何度も周回してきた見慣れた場所だった。


「ここなら問題ない」


 皐月は少し緊張した様子で、周囲を見回す。


「……昨日より敵、多くないですか?」


「誤差だな。

 この程度なら想定内だ」


 新は前に出る。



 モンスターが一体、跳びかかってきた。


 新は、

 あえて回避しなかった。


 鋭い爪が肩を裂く。


「新っ!?」


 皐月が慌てて声を上げる。


「落ち着け」


 新は距離を取り、肩の傷を押さえた。


「今のダメージ量、覚えてるか?」


「え……?」


「ライフ・ツリーを試す。

 使ってみろ」


 皐月は一瞬、戸惑った。


「で、でも……」


「大丈夫だ。

 即死ラインじゃない」


 新は冷静だった。


「今のうちに性能を確認しておきたい」


 皐月は意を決して、スキル名を口にする。


「《ライフ・ツリー》」


 次の瞬間。


 淡い光を帯びた根が地面から伸び、

 新の身体を包み込んだ。


 温かい感覚が広がり、

 裂けた傷が一気に塞がっていく。


「……治ってる」


 新は自分の肩を確認した。


 HPバーは、

 一気に最大まで回復している。


「すごい……!」


 だが。


「……あっ」


 皐月が、ふらりと体勢を崩す。


「どうした?」


「MP……ほとんどなくなってる」


 慌ててウィンドウを見る皐月。


「……9割以上、減ってる」


 新は静かに息を吐いた。


「なるほどな」


 納得したように頷く。


「回復量はかなり高い。

 その代わり、消費が重すぎる」


「ご、ごめん……」


「謝るな」


 新は即座に言った。


「性能が分かっただけで十分だ」



 新はインベントリを開き、

 回復薬を数本取り出す。


「これ、持ってろ」


「え? 新が使うんじゃ……」


「基本は、俺が前に出る」


 淡々と指示を出す。


「軽いダメージは回復薬で対応する」


 皐月を見る。


「ライフ・ツリーは、

 本当に危ない時だけ使え」


「……うん」


「MP切れたら、

 その後の戦闘が一気にきつくなる」


 皐月は回復薬をしっかり握りしめた。


「分かりました」



 それ以降の戦闘は、

 自然と形が決まった。


 前線で戦うのは、新。

 敵を引き受けるのも、新。


 皐月は後方で、

 HPとMPを確認し続ける。


 必要な時だけ回復薬を渡し、

 最後の切り札としてライフ・ツリーを温存する。


「……こうやって見ると」


 戦闘の合間に、皐月が言った。


「ちゃんと役割分担できてますね」


「まあな」


 新は短く答える。


「回復役は重要だ。

 ただし、無理はするな」


「はい」


 皐月は、少しだけ自信のある声で答えた。



 新はモンスターを狩り、

 皐月は倒れた敵のドロップアイテムを拾い集める。


 初期装備のマジックバッグが、

 アイテムでぱんぱんになる頃には、

 区切りとして十分だった。


「よし、出るぞ」



「いらっしゃい」


 いかにも無骨な店主が、

 こちらを一瞥する。


「買取を」


「ものを出しな」


 新は手に入れたアイテムをすべて並べた。


 店主は黙って鑑定し、

 カウンターに金貨袋を置く。


「……二百万だ」


「ありがとうございます!」


 皐月が思わず声を上げる。


「二百万!?

 このゲームでの価値って……」


「まあ、そこそこ金持ちって感じだな」


「そうなんだ!

 今から何買うんですか?」


 わくわくした表情の皐月を連れて、

 二人は装備屋へ向かった。



「好きな装備を選べ」


「いいんですか!?」


「ああ」


 皐月が選んだのは、

 軽やかさと上品さを併せ持つ冒険服だった。


 白と淡い青を基調にした衣装。

 薄手の布が幾重にも重なり、

 動くたびに柔らかく揺れる。


 肩から羽織る外衣は袖が大きく開き、

 腕の動きを妨げない。


 胸元には青い宝石の装飾。

 同系色の装身具が首元や手首に控えめに施されている。


 腰回りはすっきりとまとめられ、

 短めのパンツと細身のベルトが実用性を感じさせた。


 華奢で繊細。

 だが、戦うための服だと一目で分かる。


「これ!

 魔力増強に、シールド機能もあるんです!」


「いいな」


(魔力増強は必須。

 シールド付きなら、雑魚相手に精霊術を使わずに済む)


「着たまま帰ります」


「ありがとうございました」


 店員は満足そうに頭を下げた。



「次はどこに?」


「飯だな」


「え!?」


 皐月は歓喜の声を上げ、

 早く行こうと新の袖を引く。


 新は苦笑しながら、歩き出した。


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