役割分担
低ランクダンジョン。
新にとっては、
何度も周回してきた見慣れた場所だった。
「ここなら問題ない」
皐月は少し緊張した様子で、周囲を見回す。
「……昨日より敵、多くないですか?」
「誤差だな。
この程度なら想定内だ」
新は前に出る。
⸻
モンスターが一体、跳びかかってきた。
新は、
あえて回避しなかった。
鋭い爪が肩を裂く。
「新っ!?」
皐月が慌てて声を上げる。
「落ち着け」
新は距離を取り、肩の傷を押さえた。
「今のダメージ量、覚えてるか?」
「え……?」
「ライフ・ツリーを試す。
使ってみろ」
皐月は一瞬、戸惑った。
「で、でも……」
「大丈夫だ。
即死ラインじゃない」
新は冷静だった。
「今のうちに性能を確認しておきたい」
皐月は意を決して、スキル名を口にする。
「《ライフ・ツリー》」
次の瞬間。
淡い光を帯びた根が地面から伸び、
新の身体を包み込んだ。
温かい感覚が広がり、
裂けた傷が一気に塞がっていく。
「……治ってる」
新は自分の肩を確認した。
HPバーは、
一気に最大まで回復している。
「すごい……!」
だが。
「……あっ」
皐月が、ふらりと体勢を崩す。
「どうした?」
「MP……ほとんどなくなってる」
慌ててウィンドウを見る皐月。
「……9割以上、減ってる」
新は静かに息を吐いた。
「なるほどな」
納得したように頷く。
「回復量はかなり高い。
その代わり、消費が重すぎる」
「ご、ごめん……」
「謝るな」
新は即座に言った。
「性能が分かっただけで十分だ」
⸻
新はインベントリを開き、
回復薬を数本取り出す。
「これ、持ってろ」
「え? 新が使うんじゃ……」
「基本は、俺が前に出る」
淡々と指示を出す。
「軽いダメージは回復薬で対応する」
皐月を見る。
「ライフ・ツリーは、
本当に危ない時だけ使え」
「……うん」
「MP切れたら、
その後の戦闘が一気にきつくなる」
皐月は回復薬をしっかり握りしめた。
「分かりました」
⸻
それ以降の戦闘は、
自然と形が決まった。
前線で戦うのは、新。
敵を引き受けるのも、新。
皐月は後方で、
HPとMPを確認し続ける。
必要な時だけ回復薬を渡し、
最後の切り札としてライフ・ツリーを温存する。
「……こうやって見ると」
戦闘の合間に、皐月が言った。
「ちゃんと役割分担できてますね」
「まあな」
新は短く答える。
「回復役は重要だ。
ただし、無理はするな」
「はい」
皐月は、少しだけ自信のある声で答えた。
⸻
新はモンスターを狩り、
皐月は倒れた敵のドロップアイテムを拾い集める。
初期装備のマジックバッグが、
アイテムでぱんぱんになる頃には、
区切りとして十分だった。
「よし、出るぞ」
⸻
「いらっしゃい」
いかにも無骨な店主が、
こちらを一瞥する。
「買取を」
「ものを出しな」
新は手に入れたアイテムをすべて並べた。
店主は黙って鑑定し、
カウンターに金貨袋を置く。
「……二百万だ」
「ありがとうございます!」
皐月が思わず声を上げる。
「二百万!?
このゲームでの価値って……」
「まあ、そこそこ金持ちって感じだな」
「そうなんだ!
今から何買うんですか?」
わくわくした表情の皐月を連れて、
二人は装備屋へ向かった。
⸻
「好きな装備を選べ」
「いいんですか!?」
「ああ」
皐月が選んだのは、
軽やかさと上品さを併せ持つ冒険服だった。
白と淡い青を基調にした衣装。
薄手の布が幾重にも重なり、
動くたびに柔らかく揺れる。
肩から羽織る外衣は袖が大きく開き、
腕の動きを妨げない。
胸元には青い宝石の装飾。
同系色の装身具が首元や手首に控えめに施されている。
腰回りはすっきりとまとめられ、
短めのパンツと細身のベルトが実用性を感じさせた。
華奢で繊細。
だが、戦うための服だと一目で分かる。
「これ!
魔力増強に、シールド機能もあるんです!」
「いいな」
(魔力増強は必須。
シールド付きなら、雑魚相手に精霊術を使わずに済む)
「着たまま帰ります」
「ありがとうございました」
店員は満足そうに頭を下げた。
⸻
「次はどこに?」
「飯だな」
「え!?」
皐月は歓喜の声を上げ、
早く行こうと新の袖を引く。
新は苦笑しながら、歩き出した。




