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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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特殊覚醒

 拠点の端で、トーマスは腕を組んでいた。


「皐月は、いつ覚醒できるか分からない。

 だからまずは、非覚醒者用の装備を買うことをおすすめするよ」


 的確な助言。

 いかにも“正解ルート”。


「あー……確かにな。

 でも、手持ちがなくてな」


 新が言うと、トーマスは一瞬も迷わず続けた。


「でしたら、低ランクダンジョンがいいでしょう。

 あそこなら、覚醒してすぐの新さんでも入場可能ですし」


 皐月を見る。


「ポーター扱いなら、

 皐月さんも一緒に入れますよ」


「……え?」


 皐月が、一歩引いた。


「私、覚醒してないんだけど。

 ダンジョンなんて、無理だよ!?」


「ダンジョンに入ることで覚醒する場合もありますしね」


 トーマスは軽く言った。


「低ランクなら危険度も低い。

 試してみる価値はありますよ」


 皐月は、不安そうに新を見る。


「……新?」


 新は一瞬だけ考え、頷いた。


「皐月、行けるよな?」


「うっ……」


 皐月は唇を噛み、

 それから小さく頷いた。


「……はい」


 それだけのやり取りなのに、

 新は妙な感覚を覚えた。


 命令じゃない。

 選択肢でもない。


 ただの、確認。



 ダンジョンへの道中、

 皐月はやけに饒舌だった。


「ダンジョンって、もっと暗くて怖いところかと思ってました」


「種類によるな」


「全部、地下なんですか?」


「地上型もある」


 どうでもいい会話。

 攻略には不要な情報。


 それなのに、新は歩調を合わせていた。


 ——昔も、こうだった。


 現実世界でも、新は孤独だった。

 誰とも深く関わらず、

 必要最低限の会話だけで生きていた。


 このゲームを始めた頃、

 新は必死だった。


 NPCとでもいい。

 絆を結びたかった。


 選択肢を選び、

 好感度を上げ、

 イベントを踏めば、

 “関係”が手に入ると思っていた。


 でも、違った。


 NPCは、システムだった。


 条件を満たせば好意を示し、

 外れれば冷たくなる。


 そこに意思はなく、

 記憶も続かない。


 新は、何度も周回するうちに悟った。


 ——これは、付き合うフリをするゲームだ。


 それ以来、

 感情を挟むのをやめた。


 最短ルートだけをなぞるようになった。


 なのに今、

 隣には皐月がいる。


 非効率で、

 未覚醒で、

 守らなければならない存在。


 それが、

 嫌じゃない。



「……ここ?」


 皐月が足を止めた。


 ダンジョンゲートを抜けた先は、

 想像よりもずっと整っていた。


 白い石畳。

 淡い光。

 天井の高い回廊。


「ダンジョンって、こんな綺麗な場所なんですか!?」


「いや。場所によって違う」


 新は周囲を警戒しながら答える。


「低レベルダンジョンは、

 基本的に閉じない。

 いつでも入れる」


「へー。他のダンジョンは違うんですか?」


「高ランクは危険度が高い。

 ボスを倒すと、すぐゲートが閉じる」


「なるほど……」


 皐月は感心したように頷き、

 次の瞬間——


「あっ、あれはなんですか?」


「ん?」


 視線の先。

 淡い光を放つ、浮遊する物体。


「おい、迂闊に触るな——」


 言い終わる前に。


 淡い光が、

 鋭い閃光へと変わった。



「皐月!」


 新は駆け寄る。


「大丈夫か!?」


「うっ……うん」


 皐月は目を瞬かせ、

 自分の身体を確かめる。


「新は?」


「……無事だ」


 新は深く息を吐いた。


「はぁ……

 今後は、ちゃんと俺の言うこと聞いてから動いてくれ」


「うん……ごめん」


 珍しく、しおらしい。


「……まあいい」


 新は周囲を見回した。


「ここは……どこだ?」


 見覚えがない。


 地図にも、

 攻略情報にも、

 存在しない場所。


 泉の中央に、

 一本の大木が立っている。


 根は水中に沈み、

 枝は光を孕んでいる。


 神殿のような、

 自然のような。


 ——知らない場所だ。


 新は、息を呑んだ。


 このゲームに、

 まだ“未知”があったことに。


 皐月が、ゆっくりと新を見る。


「あの……」


「ん?」


「信じてもらえないかもしれないけど」


 彼女は胸元を押さえた。


「システムウィンドウっていうのが見えてて……」


 新の背中が、ぞわりとした。


「それで……

 あの大木に触れろ、って」


 沈黙。


「……あの大木に?」


「うん」


 皐月は、不安そうに続ける。


「新には、分かんないよね」


 ——分かるに決まってる。


 それは、

 プレイヤーにしか見えないはずのものだ。


 新は、ゆっくり息を整えた。


「……とりあえず」


 歩き出す。


「大木まで行くぞ」


「え?」


「ここに居ても仕方ない」


 皐月の顔が、ぱっと明るくなる。


「ありがとう、新!」



 大木に触れた瞬間、

 空気が震えた。


 光が、皐月を包む。


 足元から、

 無数の粒子が舞い上がる。


 風が生まれ、

 水面が波打ち、

 光が集束する。


 ——覚醒。


 皐月は、目を見開いた。


 背後に、

 淡く輝く精霊の輪郭が浮かぶ。


 新の視界に、

 見慣れない表示が走った。


【ジョブ取得】

【精霊術師】


「……精霊、術師?」


 新は、言葉を失った。


 聞いたことがない。

 攻略サイトにも、

 周回記録にも存在しない。


 次の瞬間、

 視界が歪む。


 二人は、元のダンジョンに戻されていた。


 何事もなかったかのように。



 ダンジョンを出ると、

 トーマスが待っていた。


 腕を組み、

 いつもの表情で。


「初ダンジョンは、

 上手く行きましたかね?」


 新は答えなかった。


 皐月は、静かに頷いた。


 そして新は、確信する。


 ——こいつは、

 NPCじゃない。


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