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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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4/7

負けイベント

それは、完全に負けイベントだった。


 路地を抜けた先、視界が開けた瞬間に——

 空気が変わった。


 敵の数。

 配置。

 逃走ルート。


 新は即座に理解する。


 ——処理できない。


 覚醒者向け中級エリア。

 今の装備。

 今の条件。


 皐月を連れたままでは、詰んでいる。


「下がれ!」


 新は叫び、前に出た。


 攻撃。

 回避。

 ……間に合わない。


 化け物の一体が、明確に皐月へと向きを変えた。


 新が踏み出した、その瞬間。


 ——銃声。


 乾いた音が二発。

 正確すぎるタイミング。


 化け物の頭部が、綺麗に吹き飛んだ。


「動くな」


 低く、落ち着いた声。


 屋根の上から、人影が降りてくる。


 金髪。

 長身。

 無駄のない装備。


 いかにも、“序盤の切り札”。


(……第一段階までは到達したな)


 男は笑った。


 余裕のある笑み。

 戦場に慣れ切った動き。


 ——トーマス。


 新は、思わず安堵の息を吐いた。

 皐月を庇いながら、ここまで来るのは正直きつかった。


 序盤に必ず一度。

 負けイベントで助けてくれるNPC。


 ここで死なないための安全装置であり、

 同時にストーリーを進めるために必要な存在。


「ついて来い。

 ここはもう、初心者が立ち入る場所じゃない」


 選択肢はない。


 トーマスは背を向け、

 当然のように先導する。


 新と皐月は、その後を追った。



 安全な拠点は、地下にあった。


 強化コンクリート。

 自動砲台。

 人の気配。


 ——生存圏。


「ほら、座れ」


 トーマスは水と簡易食料を投げて寄越す。


「初期装備で、あそこを抜けようとしたのか。

 悪くない」


 新を見て、続ける。


「反応速度もいい。

 無駄な動きがない」


 評価は即座だった。


 この男は、

 “強い覚醒者を味方にする役割”のNPCだ。


 ——ここで装備が初期装備以外だと、

 好感度が下がる仕様。


「俺のチームに来ないか?」


 来た。


 想定通りの台詞。


「前線に立てる。

 悪い扱いはしない」


 新は答えなかった。


 代わりに、トーマスの視線が皐月に向く。


「……彼女は?」


 一瞬の間。


「恋人か?」


 皐月が目を瞬かせるより早く、

 新が否定した。


「違う」


 即答。


「そうか」


 トーマスはあっさりと興味を失った。


 その視線が、

 評価を下げたときのものだと、新は理解する。


「未覚醒?」


 皐月が頷く。


「……なるほど」


 トーマスは、それ以上彼女を見ない。


 戦力外。

 物語の外。


 ——のはずだった。


「まだ、覚醒条件を満たしていなくて」


 その言葉に、

 トーマスが反応した。


「覚醒できない、じゃない。

 “できていない”だけか」


 新は、わずかに眉を動かす。


「……どういう意味だ?」


「条件付きの覚醒者は、たまにいる。

 特殊ジョブの前触れだ」


 視線が、再び皐月に戻る。


 今度は、明確な興味。


「面白いな」


 声のトーンが、ほんの少し変わった。


「君、もしかすると

 かなり厄介な存在になるかもしれない」


 皐月は困ったように笑った。


「よく分からないけど……

 褒められてる?」


「たぶんな」


 トーマスは笑い、

 それから“正しい態度”に戻る。


「覚醒条件の調査は、俺が手伝おう。新」


 名前を呼ぶ。


「君の判断は正しい。

 彼女を切らなかったことも含めてな」


 完璧な台詞。

 完璧な流れ。


 新は、胸の奥に違和感を覚えた。


 トーマスは、

 あまりにも“役割通り”だ。


 プレイヤーを

 評価し、

 選別し、

 可能性を見つけ、

 親切に振る舞う。


 重要NPCとして、

 何一つ間違えていない。


 それなのに。


 新は、無意識に皐月を見た。


 彼女は、トーマスを見ていない。


 拠点の奥。

 人の生活音。

 遠くで鳴る警報。


 ——世界そのものを見ている。


 この男は、

 “正しく物語を進める存在”。


 なら、皐月は?


 物語の鍵であることは、間違いない。


 新は、ふと確認が必要な気がして立ち上がった。


 トーマスがこちらを見る。


「何か用事か?」


「いや……」


 皐月が、不思議そうに新を見る。


「どこか行くんですか?」


「いや、待っててくれ」


 皐月は「わかった」と頷く。


 新は数メートル離れ、

 また戻る。


「何か用事か?」


 同じ声。

 同じ間。

 同じ視線。


 皐月は怪訝な顔で新を見る。


 新は、もう一度離れて、戻る。


「何か用事か?」


 トーマスは、不思議がる様子すらない。


「えっと……新さん、さっきから何を?

 てか、トーマスさんは変に思わないんですか?」


 トーマスは、

 何のことだと言わんばかりの顔をした。


 新は、皐月を見る。


「……皐月。お前は、なんなんだ?」


「へ?」


 間の抜けた声。


 普通のNPCは、

 決まった言葉しか話さない。


 重要NPCなら、

 ある程度の会話はできる。


 それでも——

 同じ行動を取れば、同じ反応を繰り返す。


 皐月には、それがない。


「青葉皐月ですけど……」


 新は、言葉を飲み込んだ。


 本当に聞きたかった言葉を、

 途中で止める。


 ——NPCか?


 聞いたところで、

 NPCが自分をNPCだと認めるはずがない。


 新はわからない事に思考を巡らせるのをやめて

 目を閉じる事にした


 なれているゲームのはずなのに

 全く違う流れだからだろうか


 新はその日あっという間に眠りについた

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