表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/32

薬と対峙


 暴走者の足取りを追うのは、思ったより難しくなかった。


 問題は――

 辿り着ける場所が、必ず途中で途切れることだった。



「またここで止まってる」


 皐月が眉を寄せる。


 狭い裏路地。

 古びた建物。

 そして、地面に散らばる小瓶。


 中身は空。


 だが、残った匂いで分かる。


「薬だな」


 新は瓶を拾い、指で軽く回した。


「昨日の暴走者も、これを使った可能性が高い」


「でも……」


 皐月は首を傾げる。


「この薬、どこから入手してるんでしょう……」


「……」


 足取りを追えはしたものの、見つかるのは使用した痕跡のある空瓶のみ。


 それも作りが雑だ。

 瓶の封印は甘く、ラベルもない。


 粗悪品。


 新は眉をひそめる。


(あいつらまで辿り着くのは難しいかもな)


 聖火の集いが関わっているなら、

 もっと完成度の高い薬を使うはずだ。


 これは――


 模倣品。


 聖火の集いが作っていた薬が秘密裏に広がり始め、

 それを真似た粗悪な模造品が増えた。


 結果として、聖火の集いは手を汚す必要がなくなり、

 裏から手を引いたのだろう。


(まずは模造品を作る連中を見つけるしかない)



 数時間後。


 二人は小さな倉庫に辿り着いた。


 扉の向こうから、下品な笑い声が聞こえる。


「昨日のやつ、すげぇ暴れたらしいぜ」


「マジかよ!」


「まぁ俺らは儲かりまくりだし関係ないけどな」


 新と皐月は目を合わせた。


 間違いない。


 ここだ。



 扉を蹴り開ける。


「なっ……!」


 中には、粗野な男たち。


 机の上には瓶と薬草。


「覚醒者か!?」


「ちっ、面倒な客だ!」


 男たちは武器を取る。


 だが――


 数秒後。


 床には全員転がっていた。


 皐月が軽く息を吐く。


「弱いですね」


「ただのチンピラだ」


 新は机の上の薬を手に取る。


 匂い。

 色。

 粘度。


 暴走を誘発する薬。


 だが精度が低い。


(やはり模倣)


「これ、お前達が開発したのか?」


 倒れた男の胸ぐらを掴む。


「し、知らねぇ!」


「レシピが出回ってるだけだ!」


「裏市場だよ!誰でも作れる!」


 新は手を離した。


 つまり――


 出所はさらに上にある。



 倉庫を出た時。


「おや」


 声がした。


 二人が振り向く。


 そこには、一人の青年が立っていた。


 柔らかな笑み。

 整った顔立ち。

 白い服。


「貴方達は、ここで何を?」


 天宮翼だった。



「……誰だ?」


 新はあえて知らないふりをする。


「失礼。名乗り遅れました」


 天宮は穏やかに頭を下げる。


「天宮翼と申します」


「ただの慈善団体の者ですよ」


 皐月が小さく警戒する。


 だが天宮は気にせず、床の男たちを見る。


「なるほど」


「薬を追っていたのですね」


 新は答えない。


 天宮は微笑む。


「安心してください。私も同じ目的です」


「この薬は危険すぎる」


「街を壊します」


 真剣な声。


 だが新は内心で冷静だった。


(白々しい)


 この男こそが、その元凶に間違いない。


 だが証拠はない。


 敵対すれば、逃げられる。



「あなた方は覚醒者でしょう?」


 天宮は優しく言う。


「ならば、この薬を根絶するため協力しませんか」


 皐月が新を見る。


 新は少しだけ考えるふりをした。


「……いいだろう」


 短く答える。


 天宮の瞳がわずかに輝いた。


「それは心強い」


 だがその笑顔の奥にあるものを、新は見逃さない。


(探りに来たな)


 白珠の剣士を探しに来たのか。

 それとも、薬を追うレギュラート側を警戒しているのか。


 だが新もまた、探っている。



「まずは情報交換からですね」


 天宮は言う。


「最近、この薬が急激に出回っていて……我々の信者の中にも被害が出ています」


 そして床の男たちを見る。


「レシピが出回っているらしい」


「彼らだけでなく、別の者たちも模倣しているようです」


 それは事実だった。


 だから厄介だ。


 本物の影が、隠れてしまう。


「あなた方も調査しているなら」


「きっと良い協力関係になれるでしょう」


 天宮は微笑む。


 穏やかに。


 まるで善人のように。



 だが新は知っている。


 この男は、


 笑顔のまま人を壊すタイプだ。


「そうだな」


 新は静かに答える。


 敵でも味方でもない顔で。


 その裏で思う。


(聖火の集い)


(お前らは必ず潰す)


 だが今は――


 まだ踏み込まない。



 天宮もまた思っていた。


(必ず君を手に入れるよ)


(白珠の剣士)


 互いに正体を知りながら、


 互いに知らないふりをする。


 静かな駆け引きが、始まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ