レギュラートギルドと取引
翌日。
新と皐月は、レギュラートギルド本部の前に立っていた。
白を基調とした石造りの建物。
無駄のない直線的な構造。
門前には武装した隊員が静かに立ち、周囲を警戒している。
「……思ったより、大きいし厳重ですね」
皐月が小声で言う。
「秩序を掲げる場所だからな。いつ悪党どもに狙われてもおかしくない」
装飾は少ない。
威圧も過剰ではない。
だが――隙がない。
ここは力を誇示する場所ではなく、
力を管理する場所だ。
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「御用件を」
門番の視線が向く。
「ギルド長・相良に話がある。昨日の件だ」
隊員は一瞬だけ新を見つめ、頷いた。
「確認を取ります」
数分後。
「お通しします」
門が静かに開く。
⸻
内部は静謐だった。
足音が響く廊下。
整然と並ぶ執務室。
壁に掲げられた徽章。
どこにも無駄がない。
「なんか……緊張する」
「気を抜くなよ」
新自身も、自然と神経を研ぎ澄ませていた。
ここは力だけでは通用しない。
⸻
最奥の執務室。
「どうぞ」
中には相良がいた。
昨日と同じ、凛とした佇まい。
「来ましたか」
「話だけでもいい、という約束だったからな」
「ええ」
相良は椅子に腰掛けたまま、二人を観察する。
「まず確認します。あなた方はギルド加入を検討している」
「ああ」
「だが即決はしない」
「……賢明ですね」
相良の表情はほとんど動かない。
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「昨日の暴走、どう思いましたか?」
「出力が異常だった」
即答。
相良の瞳が細くなる。
「やはり」
机の上に資料が滑らされる。
暴走者の記録。
発生地点。
共通点。
「最近、類似事例が増えています」
「外部からの干渉を疑っています」
皐月が息を呑む。
「干渉って……?」
「薬物、思想誘導、強制覚醒。可能性はいくつもある」
新の脳裏に、天宮の笑みが浮かぶ。
だが、口にはしない。
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「あなたの剣」
相良の視線が白珠へ向く。
「珍しいですね」
「ただの刀だ」
「いいえ」
即座に否定。
「昨日の太刀筋。あれは訓練だけで到達できる域ではありません」
測っている。
力量。
思想。
危険性。
「我々は力ある者を管理する責任があります」
「管理、か」
「恐れる必要はありません。ただ、秩序の枠内からはみ出さなければいいのです」
静かな圧。
⸻
「さて」
相良は指を組む。
「我がギルドに加入すれば、指定ダンジョンへのアクセスが可能です」
「レギュラート専用区域も含めて」
皐月の視線が揺れる。
新は沈黙する。
力。
安全。
だが、自由は減る。
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「即答は求めません」
相良は言う。
「ですが一つ、依頼があります」
「依頼?」
「無所属だからこそできること」
新は目を細める。
「昨日の暴走者。追跡調査を依頼したい」
「ギルドでは動けない理由があるのか」
「表向きは事故扱いにせよ、というお達しが来ています」
空気がわずかに重くなる。
レギュラートに指示を出せる存在。
この国を統べる大臣連中。
そして――その裏にいる者。
(……政治か)
「あなた方なら目立たず動ける」
試されている。
協力か、拒絶か。
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新は静かに立ち上がる。
「報酬は?」
相良の瞳がわずかに揺れる。
「……交渉ですか」
「無償奉仕のつもりはない」
「いいでしょう」
わずかに微笑む。
「成功すれば、加入時の優遇を保証します」
「加入しないと意味がないな」
「では、指定ダンジョンを二つ開放します」
「レギュラート占有ダンジョンでも?」
「一部限定で」
新は皐月を見る。
皐月は小さく頷いた。
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「引き受ける」
相良は立ち上がる。
「では暫定的な協力関係としましょう」
差し出された手。
新は一瞬だけ迷い、握る。
冷たいが、確かな強さがあった。
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廊下を出た後。
「……なんか、すごい人でしたね」
「ああ」
だが新の思考は別に向いている。
暴走。
薬。
聖火の集い。
(動いてるな)
ギルドという選択肢は、もはや加入問題ではない。
戦線は、静かに広がっている。
「まずは暴走の原因を掴む」
「うん」
二人はギルドを後にする。
秩序の門を背に。
知らず知らずのうちに、
聖火との距離は確実に縮まり始めていた。




