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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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3/7

初陣

 覚醒者施設の外は、相変わらず騒がしかった。


 高層ビルの残骸。

 補強された街路。

 上空を横切るドローンの影。


 文明は壊れていない。

 ただ、安全じゃないだけだ。


 新は、外に出た瞬間に状況を把握した。


 遮蔽物の位置。

 逃走ルート。

 出現ポイント。


 このエリアは低ランク。

 チュートリアル戦闘用の区画。


 ——つまり、危険はない。


 ……はずだった。


「うわ」


 隣で、皐月が声を漏らした。


 視線の先。

 瓦礫の影から、化け物が姿を現す。


 人型に近いが、関節の位置がずれている。

 皮膚の代わりに、黒い殻。

 低い唸り声。


 新は、すぐに前に出た。


 武器を構える。

 身体が勝手に動く。


 初期戦闘。

 攻撃パターンは単純。

 タイミングを見て、一撃。


 ——終わり。


 化け物は崩れ、光の粒子になって消えた。


 新は、反射的に経験値表示を探す。


 ……。


やっぱこの程度ではレベル上げにもならないか。


 代わりに、背後から声がした。


「すご……」


 振り返ると、

 皐月が少し呆然とした顔で立っていた。


「今の、一瞬だったね」


「まぁ雑魚だったしな」


 新は淡々と答えた。


「覚醒してれば、誰でもできる」


「覚醒、してないけど……」


 皐月は、自分の手を見つめる。


 そこには、

 スキルアイコンも、

 能力表示もない。


 新は、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。


 普通なら、この時点で——

 彼女は死んでいる。


 未覚醒の状態で、

 NPCがこのエリアに出れば即食われてゲームオーバーだ。


 今は俺がいるとはいえ、、、


「平気?」


 新が聞く。


「……うん。怖いけど」


 皐月は笑った。


 無理に作った笑顔じゃない。

 震えてもいない。


 恐怖を理解した上で、立っている。


 新は視線を逸らした。


 効率が悪い。

 想定外が多すぎる。


 このNPCは、

 戦力にならない。


 足手まといだ。


 ——なのに。


「次、どっち行くの?」


 皐月が聞いてくる。


 新は、地図を思い浮かべた。


 最短ルートなら、

 右の路地を抜けて、

 覚醒者登録所へ向かう。


 でも。


 右の路地は、

 敵の出現頻度が高い。


 未覚醒の彼女を、

 そこに連れて行くのは——


「……左」


 口から出た答えに、

 新自身が一瞬、戸惑った。


 左は遠回りだ。

 安全だが、時間がかかる。


 皐月は何も言わず、

 ただ頷いてついてくる。


 歩きながら、

 新は気づいた。


 自分が、

 常に彼女の位置を確認していることに。


 背後か。

 隣か。

 遅れていないか。


 そんな確認、

 今まで一度もしたことがない。


「ねえ新」


 皐月が言う。


「私さ、役に立たないよね」


 新は即答しなかった。


 役に立つ。

 立たない。


 その判断基準は、

 このゲームでは単純だ。


 火力。

 スキル。

 効率。


「……今はな」


 そう答えると、

 皐月は少しだけ笑った。


「そっか」


 それだけ。


 不満も、落胆もない。


 新は、胸の奥に

 説明できない違和感を覚えた。


 このNPCは、

 評価を求めていない。


 役割を与えられるのを、

 待っていない。


 ただ、ここにいる。


 次の角を曲がった瞬間、

 また化け物が現れる。


 今度は二体。


 新は即座に前に出た。


 攻撃。

 回避。

 処理。


 終わる。


 振り返る。


 皐月は、少し後ろで立っていた。


 目を逸らさず、

 戦闘を最後まで見ていた。


「……慣れてるね」


「何度もやってる」


 嘘ではない。


 皐月は、少し考えてから言った。


「新ってさ」


「ん?」


「守る側、向いてると思う」


 新は、足を止めた。


 守る。


 このゲームに、

 そんな役割はない。


 あるのは、

 倒すか、作るか、生き延びるか。


 守るなんて、

 効率の悪い行為だ。


 でも。


 新は、彼女を見た。


 未覚醒。

 スキルなし。

 戦えない。


 それでも、

 ここに立っている。


「……そういうジョブはない」


 新が言うと、

 皐月は肩をすくめた。


「そっか。残念」


 でも、

 本当に残念そうではなかった。


 新は歩き出す。


 遠回りの道を、

 彼女と一緒に。


 この時、

 新はまだ知らない。


 自分がすでに、

 最短ルートから外れていることを。


 そしてそれを、

 少しだけ——

 悪くないと思い始めていることを。


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