手にした者と狙う者
白い光が静かに消え、
新の足元に現実の重みが戻る。
祭殿は跡形もなく消えていた。
残ったのは、
新の腰に収まる一振りの刀。
——白珠。
澄んだ刃は、夜明け前の空のように静かだった。
(……戻るか)
深く息を吐き、
新は拠点へと足を向けた。
⸻
拠点の扉を開けた瞬間。
「——新!」
皐月が勢いよく立ち上がる。
駆け寄ってきて、
無事を確かめるように新の腕や肩に触れる。
「怪我は!? 大丈夫!? 成功したの!?」
「落ち着け」
新は小さく笑った。
「ちゃんと戻ってきただろ」
皐月はほっと息を吐き、
それでもどこか誇らしげに言う。
「信じてた」
その一言に、
新の胸がわずかに温かくなる。
⸻
皐月の視線が、新の腰へ落ちる。
白い柄。
白い鞘。
気づいた瞬間、目がぱあっと輝いた。
「……白珠の刀?」
「ああ」
「さすが新!! すごいよ!!」
見たそうに身を乗り出す皐月に、
新は苦笑しながら鞘から刀を抜く。
白い刃が、淡く光を反射する。
静かで、透明で、
どこか神聖な気配。
皐月は思わず息を呑んだ。
「綺麗……。なんか、冷たいのに優しい感じがする」
刃に触れないよう、そっと覗き込む。
「新、振ってみて!」
「おい、室内だぞ」
「ちょっとだけ!」
仕方なく、新は軽く構える。
呼吸を整え、
最小限の動きで斬る。
ヒュン、と空気が裂ける。
だが音は荒くない。
水面をなぞるように、静かだった。
「……わ」
皐月の目が丸くなる。
「新……なんか、綺麗」
「なんだそれ」
新は刀を納める。
「スキルは?」
「《白珠の剣》」
短く答える。
「発動中は、技の完成度がそのまま威力に直結する」
「つまり……?」
「雑に振れば弱い。
完璧に振れば、最大火力だ」
皐月はぱっと笑った。
「新向きだよ!」
「……どうだかな」
「今だってすごく綺麗だったもん!」
まっすぐな言葉に、
新は少しだけ視線を逸らす。
「ねえ、もう一回だけ見せて!」
「明日な」
「えー!」
拠点に、久しぶりの軽い笑いが広がった。
⸻
一方、その頃。
白い祭壇の奥の部屋。
白衣を纏った信者が、静かに跪いていた。
「報告します」
その前に立つのは、
柔らかな笑みを浮かべる青年。
天宮翼。
「白珠の試練への接続が、確認できません」
「……ほう?」
「これまで反応があった祭殿が、完全に閉じました。
内部への侵入も、不可能です」
天宮はしばらく沈黙する。
やがて、ゆっくりと微笑んだ。
「なるほど」
優しい声だった。
「誰かが、到達したんですね」
信者は息を呑む。
「では……」
「ええ」
天宮の瞳が細まる。
その奥に、愉悦が滲む。
「白珠は、誰かの手に渡った」
口角がわずかに上がる。
「素晴らしい」
まるで祝福するかのように。
「導かれし者が現れたということです」
だが、次の言葉は冷たい。
「探しなさい」
信者が顔を上げる。
「白い刃を持つ剣士を」
天宮は穏やかに続ける。
「その刀は、聖火に捧げられるべきものです」
声は優しい。
だが拒絶は許されない響き。
「その剣士を見つけ次第、徹底的に調べなさい」
微笑みは崩れない。
「そして——」
白い衣が静かに揺れる。
「彼が聖火の集いに献身を捧げるお手伝いをしましょう」
夜の街に、
目に見えない網が張り巡らされ始めていた。
⸻
拠点では。
「……なんか、外ちょっと騒がしくないですか?」
皐月が窓の外を見やる。
「気のせいだろ」
新は短く答えた。
だが。
胸の奥に、わずかなざわめきが残る。
白珠は手に入れた。
だが——まだ足りない。
新は静かに刀へ触れる。
(俺は、今までのどのルートの俺よりも——)
圧倒的に、強くなる。
皐月を守るために。
そして、来るべき敵に備えるために。
静かな決意が、
夜の中で揺らめいていた。




