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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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26/32

手にした者と狙う者

 白い光が静かに消え、

 新の足元に現実の重みが戻る。


 祭殿は跡形もなく消えていた。


 残ったのは、

 新の腰に収まる一振りの刀。


 ——白珠。


 澄んだ刃は、夜明け前の空のように静かだった。


(……戻るか)


 深く息を吐き、

 新は拠点へと足を向けた。



 拠点の扉を開けた瞬間。


「——新!」


 皐月が勢いよく立ち上がる。


 駆け寄ってきて、

 無事を確かめるように新の腕や肩に触れる。


「怪我は!? 大丈夫!? 成功したの!?」


「落ち着け」


 新は小さく笑った。


「ちゃんと戻ってきただろ」


 皐月はほっと息を吐き、

 それでもどこか誇らしげに言う。


「信じてた」


 その一言に、

 新の胸がわずかに温かくなる。



 皐月の視線が、新の腰へ落ちる。


 白い柄。

 白い鞘。


 気づいた瞬間、目がぱあっと輝いた。


「……白珠の刀?」


「ああ」


「さすが新!! すごいよ!!」


 見たそうに身を乗り出す皐月に、

 新は苦笑しながら鞘から刀を抜く。


 白い刃が、淡く光を反射する。


 静かで、透明で、

 どこか神聖な気配。


 皐月は思わず息を呑んだ。


「綺麗……。なんか、冷たいのに優しい感じがする」


 刃に触れないよう、そっと覗き込む。


「新、振ってみて!」


「おい、室内だぞ」


「ちょっとだけ!」


 仕方なく、新は軽く構える。


 呼吸を整え、

 最小限の動きで斬る。


 ヒュン、と空気が裂ける。


 だが音は荒くない。

 水面をなぞるように、静かだった。


「……わ」


 皐月の目が丸くなる。


「新……なんか、綺麗」


「なんだそれ」


 新は刀を納める。


「スキルは?」


「《白珠の剣》」


 短く答える。


「発動中は、技の完成度がそのまま威力に直結する」


「つまり……?」


「雑に振れば弱い。

 完璧に振れば、最大火力だ」


 皐月はぱっと笑った。


「新向きだよ!」


「……どうだかな」


「今だってすごく綺麗だったもん!」


 まっすぐな言葉に、

 新は少しだけ視線を逸らす。


「ねえ、もう一回だけ見せて!」


「明日な」


「えー!」


 拠点に、久しぶりの軽い笑いが広がった。



 一方、その頃。


 白い祭壇の奥の部屋。


 白衣を纏った信者が、静かに跪いていた。


「報告します」


 その前に立つのは、

 柔らかな笑みを浮かべる青年。


 天宮翼。


「白珠の試練への接続が、確認できません」


「……ほう?」


「これまで反応があった祭殿が、完全に閉じました。

 内部への侵入も、不可能です」


 天宮はしばらく沈黙する。


 やがて、ゆっくりと微笑んだ。


「なるほど」


 優しい声だった。


「誰かが、到達したんですね」


 信者は息を呑む。


「では……」


「ええ」


 天宮の瞳が細まる。

 その奥に、愉悦が滲む。


「白珠は、誰かの手に渡った」


 口角がわずかに上がる。


「素晴らしい」


 まるで祝福するかのように。


「導かれし者が現れたということです」


 だが、次の言葉は冷たい。


「探しなさい」


 信者が顔を上げる。


「白い刃を持つ剣士を」


 天宮は穏やかに続ける。


「その刀は、聖火に捧げられるべきものです」


 声は優しい。

 だが拒絶は許されない響き。


「その剣士を見つけ次第、徹底的に調べなさい」


 微笑みは崩れない。


「そして——」


 白い衣が静かに揺れる。


「彼が聖火の集いに献身を捧げるお手伝いをしましょう」


 夜の街に、

 目に見えない網が張り巡らされ始めていた。



 拠点では。


「……なんか、外ちょっと騒がしくないですか?」


 皐月が窓の外を見やる。


「気のせいだろ」


 新は短く答えた。


 だが。


 胸の奥に、わずかなざわめきが残る。


 白珠は手に入れた。


 だが——まだ足りない。


 新は静かに刀へ触れる。


(俺は、今までのどのルートの俺よりも——)


 圧倒的に、強くなる。


 皐月を守るために。


 そして、来るべき敵に備えるために。


 静かな決意が、

 夜の中で揺らめいていた。

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