白珠-第三条件
祭殿は、静まり返っていた。
円形の舞台。
縁を囲むのは、影。
観客席のように並ぶそれらは、
拍手も、囁きも、息遣いすらない。
ただ――
見ている。
中央には、白珠の刀。
白く、透き通り、
刃の輪郭すら曖昧なほど澄んでいる。
新は、ゆっくりと歩み寄り、
その柄に手を伸ばした。
触れた瞬間。
重さは、ない。
だが、軽くもない。
意志が、手に吸い付くような感覚。
——選ばれた。
それだけで分かった。
⸻
次の瞬間。
影が、動いた。
舞台の四方から、
魔物が現れる。
数は、五。
いずれも中型。
俊敏さ、耐久、攻撃力、すべてが高水準。
だが、強さは問題ではない。
(……評価されるのは、そこじゃない)
新は、深く息を吸う。
剣を構える。
力を込めすぎない。
肩を上げない。
視線は、舞台全体。
舞うように。
⸻
最初の一体が、踏み込む。
新は迎え撃たない。
一歩、横へ。
刃が空を切る。
その“空振り”すら、
流れるような動きだった。
返す刀。
最小限の動きで、
魔物の脚を断つ。
血飛沫は、最小。
倒れた魔物の影が、
静かに消える。
評価は、まだ始まったばかりだ。
⸻
二体目、三体目。
同時に来る。
新は、踏み込まない。
間合いを詰めさせ、
すれ違う瞬間に刃を走らせる。
一閃。
二閃。
無駄がない。
だが、急がない。
まるで、
あらかじめ決められた振り付けのように。
影が、ざわめいた。
⸻
残る二体。
距離を取る。
牽制。
隙を伺う。
(……来る)
新は、剣を低く構えた。
その瞬間。
白珠の刀が、淡く輝く。
意識せずとも、
“剣が応えた”。
新の足元に、
白い紋様が広がる。
【スキル発動条件、達成】
白い文字が、視界の端を走る。
⸻
——《白珠・剣式》
空気が、変わった。
剣が、軽くなる。
いや、違う。
自分の動きが、剣に追いついた。
新は、踏み出す。
最初の一歩。
次の一歩。
刃が、舞う。
斬撃は、派手ではない。
だが、
一切の無駄がなく、
一切の乱れがない。
魔物の攻撃を、
受け流し、
躱し、
断つ。
最後の一体が、
崩れ落ちる。
⸻
静寂。
影が、揺れた。
評価が、走る。
美しさ。
技の繋ぎ。
無駄のなさ。
姿勢。
間合い。
覚悟。
すべて——
【S】
【S】
【S】
【S】
【S】
【S】
白い光が、舞台を満たす。
⸻
白珠の刀が、
新の手の中で、はっきりと形を持った。
刃は、より澄み、
柄は、彼の手に合わせて収まる。
【白珠・刀 取得】
同時に、
新の意識に、もう一つの感覚が流れ込む。
【スキル取得】
【《白珠の剣》】
新はほっと胸をなでおろす。
⸻
影が、ゆっくりと消えていく。
祭殿は、役目を終えた。
新は、白珠の刀を静かに納める。
「……終わったな」
息を吐く。
だが、ここがゴールではない。
白珠は、
始まりだ。
(次は——)
新の脳裏に、
もう一つの名が浮かぶ。
黒烏。
相反する極。
それを手にする為に
新は、静かに歩き出した。
白珠の光を携えて。
次の分岐へ。




