3つの条件と狙う者
白珠。
それは剣士の中でも、
選ばれた者しか辿り着けない分岐だった。
新は拠点の机に端末を広げ、
過去の周回で得た情報を、頭の中で整理する。
(条件は、三つ)
一つでも欠ければ、白珠には至らない。
そして——
一つでも間違えれば、取り返しはつかない。
⸻
新は、静かに口を開いた。
「皐月。白珠ルートの条件を説明する」
皐月は、背筋を伸ばして頷いた。
⸻
【第一の条件】
「人を守るために剣を振るうと、命約すること」
「……命約?」
皐月が息を呑む。
「ああ」
新は穏やかな声で続ける。
「この契約を結んだ剣士は、
“守るべき場面”で剣を振るわなければ——」
一拍置いて。
「死ぬ」
淡々とした断言。
「見捨てた瞬間、
ゲームオーバーだ」
皐月の指が、わずかに震えた。
(逃げ道は、ない)
⸻
【第二の条件】
「剣を捨てること」
「試練の途中で、
絶対に勝てない“負けイベント”が始まる」
「その時……」
新は一度、言葉を切る。
「か弱き者のために、
剣を手放さなければならない」
「か弱き者って……?」
「分からない」
新は正直に答えた。
「幻覚みたいなものだ。
人かもしれないし、記憶かもしれない」
皐月は、新の剣を見る。
「……剣は、戻ってくるんですよね?」
新は、目を伏せた。
「捨てた剣は、
粉々に破壊される」
「……!」
皐月の喉が、小さく鳴る。
新の剣は、
何度も命を救ってきた相棒だ。
それを、完全に失う。
しかも——
失敗すれば、剣も、白珠ルートも、すべて失う。
(分かっている……)
だが、
分かっていても、重かった。
⸻
【第三の条件】
「剣士としての技が、美しくなければならない」
新は、静かに説明を続ける。
「祭殿の中央で、
白珠の刀が浮かぶ舞台が現れる」
白く、透き通る刃。
——白珠の刀。
「俺は一人でそれを手に取り、
魔物たちと戦う」
「判定基準は、ただ一つ」
「美しさ」
新は、指を折りながら列挙する。
「技の繋ぎ」
「無駄のなさ」
「姿勢」
「間合い」
「覚悟」
「すべてが、Sランクでなければならない」
「一つでも欠ければ、失格だ」
⸻
沈黙が落ちる。
皐月が、そっと新の袖を掴んだ。
「……やめましょう」
震える声。
「こんなの、リスクだらけで……
いつもの新らしくないよ」
新は、しばらく黙っていた。
そして、静かに答える。
「……そうだな」
「正気のルートじゃない」
だが、目は逸らさない。
「だからこそ、白珠を得られたら戦力になる」
新は、真っ直ぐに皐月を見る。
「俺は、お前よりこのゲームを知ってる」
「でもそれだけじゃない」
「戦いでも、
ちゃんと頼れる男でいたいんだ」
一呼吸。
「だから——
俺は進む」
短く、はっきりと。
皐月は唇を噛み、
それから、ゆっくり頷いた。
「……新なら、大丈夫だって信じてるから」
新は、皐月の頭を撫でる。
「当たり前だろ」
「待ってろ」
⸻
新は皐月を拠点に残し、
記憶に刻まれた白珠の祭殿へ向かった。
本来なら、
無数のイベントを越えて初めて辿り着く場所。
だが、新は知っていた。
⸻
半ば崩れた、古い祭殿跡。
折れた柱。
失われた屋根。
それでも中央だけは、
不自然なほど整っている。
新は、静かに言った。
「命約を結ぶ」
応えるように、
白いゲートが現れる。
【そなたは、人を助けるため、守るために剣を振るい、
善なる心を失わぬと誓うか】
天から降るような、轟く声。
「誓う」
【ならば進め。
善良なるものよ】
新は、迷いなく一歩を踏み出した。
⸻
白珠の剣を、知っているか。
美しい白い刃。
美しき者しか、手に取れぬ剣。
「……聖火の集いに、相応しいとは思いませんか?」
天宮 翼の声が響く。
信者たちは、足元を見ていない。
「天宮さまのおっしゃる通りです!」
頷き、祈る。
天宮の足元には、
腕を失い、悶え苦しむ信者がいた。
白い服には、
赤い血が飛び散っている。
「あぁ……服が汚れてしまいましたね」
天宮は、穏やかな笑顔でため息をつく。
「それもこれも、
白珠を得られない“善良ならざる者”のせいです」
床に転がる男を覗き込み、
優しく語りかける。
「でも、安心してください」
「あなたを導くのも、
私の仕事ですから」
そして、顔を上げた。
「……新しい剣士を、連れて来なさい」
天宮 翼は、
聖職者のような笑顔で命じた。




