新たな精霊と新の決意
神殿の内部は、外観から想像していたよりも、はるかに広かった。
天井は高く、崩落の痕跡はない。
円状に並ぶ石柱。
床一面に刻まれた紋様が、淡い橙色の光を帯び、ゆっくりと脈動している。
「……あったかい」
皐月が、ぽつりと呟いた。
火の熱ではない。
だが、冷たさとも違う。
包み込むような、重みのある温度だった。
新は剣から手を離し、周囲を見渡す。
「……大地系上位精霊の領域だな」
その直後だった。
床の中央が、ずんと沈む。
石が割れ、土が盛り上がり、
まるで大地そのものが立ち上がるかのように——
そこから、人の形をした存在が現れた。
背は高く、がっしりとした輪郭。
服のように見えるそれも、よく見れば岩と土が自然に形作ったものだ。
そして——
橙色の瞳。
太陽を閉じ込めたような、明るい光。
「おっ、来た来た!」
軽い声だった。
場違いなほど、陽気で、楽しそうで。
「いやあ久しぶりだなあ! 人間がここまで来るの!」
大地の上位精霊は、両手を広げて笑った。
「ようこそ、神殿へ!」
皐月が目を瞬かせる。
「……え、えっと……?」
「そんな警戒しなくていいって!」
精霊は朗らかに笑う。
「ここまで来れた時点で、資格は十分!
ほら、もっと胸張って!」
その雰囲気に、皐月の肩から自然と力が抜けた。
「……大地の、精霊さん?」
「そ! 正解!」
精霊は誇らしげに胸を張る。
「大地の上位精霊!
まあ、名前はまだだけどな!」
新が一歩前に出る。
「契約の意思があるから、姿を現したんだな」
「おお、話が早い!」
精霊は満足そうに頷いた。
「君たち、いい目してるよ。
特に——そっちの君」
橙色の瞳が、皐月を捉える。
「支える力を持ちながら、前に出たいって顔だ」
皐月は、はっと息を呑む。
「……私」
「うん。
守るだけじゃ、物足りなくなってきただろ?」
図星だった。
皐月は、ぎゅっと拳を握る。
「……はい」
「よし!」
精霊は満足そうに笑った。
「じゃあ、試してみるか!」
次の瞬間。
神殿の床が、うねった。
ゴゴゴゴ——ッ!!
地面が割れ、無数の岩と土が、槍のように鋭く突き出す。
一直線ではない。
放射状に、明確な意志をもって。
圧倒的な質量。
制圧する力。
「……っ!」
皐月の視界に、スキルウィンドウが走る。
【新規スキル獲得】
【《アース・スパイク》】
「……攻撃、スキル」
息を呑む。
初めて得た、純粋な攻撃能力。
「いい反応だ!」
精霊は大きく頷く。
「大地は守るだけじゃない。
踏み抜く力でもある!」
床が元に戻り、神殿に静寂が戻る。
「これで、君は支援役だけじゃない」
橙色の瞳が、力強く輝いた。
「前に出る選択肢を得たんだ」
「……!」
皐月の胸が、熱くなる。
「ありがとうございます!」
「ははっ、いい返事!」
精霊は満足そうに笑い、視線を新へ移した。
「さて」
空気が、少しだけ変わる。
「皐月。
俺に名前を授けろ。
それが完了してこそ、契約は成立する」
皐月は、迷いなく頷いた。
「サンストーンは、勝利に導いてくれる石です」
胸に手を当て、まっすぐに精霊を見る。
「情熱と勇気、自信に満ちたあなたにぴったりだと思うから——」
少しだけ照れながら、はっきりと告げる。
「サン、にします。
あなたは……サンです!」
「サンな! わかった!」
精霊は豪快に笑った。
「いい名前だ!」
そのやり取りを眺めながら、
新の脳裏に、過去の周回がよぎる。
これまで様々なジョブを選んできた。
だが、後半の周回では、必ず剣士を選んだ。
剣が、自分に一番合っていたからだ。
そして、知っている。
剣士には、相反する二つの到達点がある。
——黒烏。
——白珠。
影のように殺す剣。
光のように断つ剣。
どちらも、剣士の最高峰。
(……二刀流)
一瞬、思考がよぎる。
だが、すぐに否定した。
危険。
無防備。
効率が悪い。
それでも。
(俺には、知識がある)
誰よりも周回し、
誰よりも失敗を見てきた。
(それを、活かす)
新は、静かに拳を握る。
「……俺は」
視線を上げる。
サンと、目が合った。
精霊は、楽しそうに笑っている。
「俺は、俺の極める道を決めた」
それは、誰に向けたものでもない。
自分自身への、決意表明だった。
皐月は一瞬きょとんとし、
それから、ぱっと笑顔になる。
「ついていくからね!」
「いいねぇ!」
サンは声を上げて笑う。
「俺、そういう人間、大好きだ!」
神殿の奥で、低く、重い音が鳴った。
——まだ先がある。
「とりあえず、このダンジョンを攻略しないとな」
新が言うと、皐月は力強く頷いた。
「はい!」
二人は神殿を後にし、
最深部——ラスボスの待つ場所へと向かう。
だが確かに。
二人は、ダンジョン攻略を前に、
次の段階へと踏み込んでいた。
新は、心の中で誓う。
(必ず、ものにする)
これまでの知識も、失敗も、すべて使って。
——俺だけの剣を。




