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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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2/7

覚醒イベント


 覚醒者施設の受付は、相変わらず無駄に広かった。


 天井が高く、床は光沢のある素材で、足音がやけに反響する。

 奥に伸びるカウンターの向こうで、受付NPCたちが等間隔に立っている。


 全員、同じ姿勢。

 同じ笑顔。

 同じ瞬きの頻度。


 新は歩きながら、隣をちらりと見た。


 彼女は、視線を忙しなく動かしている。

 カウンター。

 掲示モニター。

 床に表示された誘導ライン。


 初見プレイヤーの動きとしては、完璧すぎるほど自然だった。


 ——自然すぎる。


「ここで申請?」


 彼女が小声で聞いてくる。


「ああ。覚醒申請。番号札は要らない」


「へえ……」


 感心の仕方が、芝居じゃない。


 新は一瞬だけ、歩調を落とした。


 覚醒申請は、このゲームで最初に“選択”を与えられる場面だ。

 ジョブ、スキル傾向、初期補正。


 本来なら、プレイヤーは迷う。

 画面を何度も見直す。

 説明文を読む。


 でも新は違う。


 もう、答えを知っている。


 ——のに。


 受付カウンターの前で、彼女は立ち止まった。


 ほんの一瞬、躊躇ったように見えた。


「……あのさ」


「ん?」


「覚醒って、痛い?」


 新は、答えに詰まった。


 そんな質問をするNPCは、今までいなかった。


「……いや。別に」


 事実だ。

 覚醒演出は派手だが、痛覚はない。


「そっか」


 彼女は、少し安心したように息を吐いた。


 その仕草を見て、新は確信する。


 ——こいつ、覚醒イベントを“知らない”。


 受付NPCが、いつもの声で話しかけてくる。


「覚醒申請を行いますか?」


 淡々とした台詞。

 画面の端に、選択肢が表示される。


 ▶ 覚醒申請を行う

 ▶ 後で行う


 新は迷わず、最初の選択肢を選ぶ。


 光が走る。

 演出が始まる。


 床の紋様が淡く発光し、空気が震える。

 覚醒者である証が、数値と文字で可視化されていく。


 ——のはずだった。


「……あれ?」


 隣から、声がした。


 新は、視線を向ける。


 彼女の前には、何も表示されていない。


 覚醒演出も、

 スキル選択画面も、

 ジョブウィンドウも。


 ただ、彼女自身だけが、そこに立っている。


「何も、出ないんだけど」


 困惑した声。


 新は、画面を確認する。


 ——彼女のステータスが、見えない。


 対象未登録。

 覚醒条件:未達成。


 こんな表示、初めて見た。


「……受付に話しかけた?」


「うん。でも」


 彼女は首を傾げる。


「“対象を認識できません”って言われた」


 新の背中に、冷たいものが走った。


 そんな台詞、

 このゲームには存在しない。


 受付NPCは、いつも通りの笑顔で立っている。

 エラーも、再試行も、表示されない。


 まるで——

 最初から、想定されていない存在みたいに。


 新は、彼女を見た。


「……名前は?」


「あ」


 一拍置いてから、彼女は言った。


「青葉。皐月」


 名前が、するりと落ちた。


 その瞬間、

 新の視界の端で、小さく何かが揺れた。


 ——フラグ更新。


 見慣れない表示。

 でも、すぐに消える。


 新は、思考を切り替えた。


 重要キャラだ。

 覚醒条件が特殊なだけ。


 隠しエンディング専用NPCなら、

 仕様が違ってもおかしくない。


「一旦、外出よう」


 新は言った。


「え、いいの?」


「覚醒はいつでもできる。

 条件満たしてからの方が早い」


「条件?」


「……たぶん、世界に出ることだ」


 半分は推測だった。

 半分は、願望に近い。


 皐月は少し考えてから、頷いた。


「じゃあ、ついてく」


 軽い言い方だった。

 でも、迷いはなかった。


 二人は並んで、出口へ向かう。


 自動ドアの前で、

 新は一瞬だけ足を止めた。


 いつもなら、

 この先で戦闘が始まる。


 覚醒者としての初陣。

 チュートリアル戦闘。


 ——でも今回は。


「新」


 皐月が、名前を呼んだ。


 呼ばれる理由が、分からなかった。


「ありがとね」


 何に対しての礼かも、分からない。


 新は、ただ頷いた。


 ドアが開く。


 外の光が、二人を包む。


 その瞬間、

 新ははっきりと理解した。


 このNPCは、

 最短ルートに存在しない。


 それでも、

 自分は今、

 最短じゃない選択をしている。


 それが何を意味するのか、

 まだ分からないまま。


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