突然の訪問者
夜。
拠点は静まり返っていた。
装備の手入れを終え、
皐月が水を飲もうと立ち上がった、その時——
コン、コン。
乾いたノック音。
二人の動きが、同時に止まる。
新の脳裏に、
真っ先に浮かんだのは——聖火の集いだった。
新は即座に立ち上がり、
無言で皐月の前に手を伸ばす。
「下がれ」
低く、短い声。
皐月は何も言わず、
一歩、後ろへ退いた。
新は扉の前に立ち、気配を探る。
敵意はない。
だが、安心できる要素もない。
新は、扉を開けた。
⸻
「やっほー」
場違いなほど明るい声。
「メイトだよー。
お邪魔するね!」
そこに立っていたのは、
相変わらず人懐っこい笑顔の少年だった。
皐月が、思わず目を見開く。
「……え?」
「ここが、どうして……?」
メイトは肩をすくめる。
「僕は割と凄腕の情報屋だよー。
居場所くらい、すぐ分かるって」
そう言うと、
まるで自分の部屋のように中へ入り、
テーブルに腰掛ける。
新はため息をつきながら、問いかけた。
「……何の用だ」
「お金」
即答だった。
「前に話してた代金を、払いに来たよ」
新の視線が、鋭くなる。
「……師匠を殺したか」
空気が、一瞬だけ凍りつく。
だが。
「えー!」
メイトは大げさに目を丸くした。
「そんな物騒なことのために
探してたわけじゃないよー」
ニコニコと笑う。
その笑顔に、
一切の温度はなかった。
「嘘をつけ」
新は言い切る。
「殺せなかったか、
取り逃したかのどっちかだ」
メイトは楽しそうに手を叩く。
「いやー、驚きだよ新くん」
テーブルから立ち上がり、
覗き込むように新へ近づく。
「情報屋の僕ですら知らないことを、
どうやって知ったのか……」
笑顔のまま、
目だけが冷える。
「気になるなー」
「企業秘密だ」
「残念!」
即座に、軽い笑顔に戻る。
メイトはテーブルの上に、
袋を置いた。
じゃらりと、金属の重たい音。
「お金は、ここに置いておくね」
皐月が、思わず息を呑む。
「……これ、全部?」
「うん」
メイトは軽く頷く。
「約束だから」
⸻
踵を返しながら、
メイトは振り返った。
「また情報があるときは声かけてよ」
にこやかに。
「もちろん、
欲しいときもね」
そして、ほんの少しだけ声を落とす。
「友人割引、してあげるから」
扉が閉まる。
気配が、完全に消えた。
⸻
沈黙。
しばらくして、
皐月がようやく口を開く。
「……今の人」
「情報屋だ」
新は短く答えた。
「信用していいんですか?」
「するな」
即答だった。
「だが、使える」
新はテーブルの金袋を見る。
「敵でも味方でもない」
少し間を置いて、付け加える。
「……俺が、
あいつの欲しい情報を持っているうちは平気だ」
皐月は、
静かに頷いた。
拠点には、
金属の重さと、
言葉にできない不穏だけが残っていた。




