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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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18/25

善意の接近

 その日は、

 何の変哲もない一日になるはずだった。


 新と皐月は、

 いつも通り低ランクダンジョンを周回し、

 装備の調整と経験値稼ぎをしていた。


「魔物の視界、遮断します」


 皐月が《ミスト・ヴェール》を展開する。


「無理するな。MP管理優先だ」


「はい」


 やり取りは、

 すっかり“いつもの”ものになっていた。



 拠点へ戻る途中。


 居住地区の外縁、

 人通りの多い通りに差しかかった時だった。


「……あれ?」


 皐月が足を止める。


「どうした?」


「買い忘れ、気づいちゃいました」


「仕方ない。戻るか?」


「大丈夫!買ってくるから待ってて!」


 そう言って、

 皐月は先ほどの店の方へ駆けていった。



「買い忘れOK!

 全部買えたし、新の所にはやく戻ろ♪」


 通りを曲がった、その先。


 皐月の視界に、

 腰を落とした老婆が入った。


 重そうな荷物。

 植木鉢に腰掛け、息を整えている。


「お婆さん、大丈夫?」


 声をかけた、その瞬間。


「大丈夫ですか?」


 重なる声。


 振り返ると、

 優しい目をした好青年が立っていた。


「あ、すみません」


「いえ。こちらこそ、声が被ってしまって」


 申し訳なさそうにはにかむ笑顔に、

 一瞬、見惚れそうになり——

 皐月は慌てて首を振った。


「僕、この辺でよくボランティアをしていて。

 お婆さんとも顔馴染みなんです」


 青年は、穏やかに続ける。


「ここは、僕に任せてください」


「じゃあ、お願いします!」


「ええ。では、また」


 皐月は軽く会釈し、

 新の元へと急いだ。



 皐月が去った後。


「じゃあ、お婆さん。行きましょうか」


「ありがとうねぇ」


「いえ。

 聖火の集いは、皆の味方ですから」


「あら。

 聖火の集いの方には、掃除やら色々お世話になってますよ」


 青年は微笑みながら頷く。


 そして、

 皐月が向かった方向へ、ほんの一瞬だけ視線を送った。


 その一瞬、

 笑顔がわずかに歪んだことに、

 誰も気づかなかった。



「新!お待たせ!!」


「別に大丈夫だ。

 忘れ物は買えたか?」


「うん!」


 それから、少し楽しそうに続ける。


「あ、そういえばさっきね。

 お婆さんが困ってて」


「助けようとしたら、同じタイミングで

 すごいイケメンの好青年も声かけててさ」


「すっごくいい人だったなー」


 その言葉に、

 新の足が止まる。


「……新?」


「あ、ヤキモチ?」


 皐月が、にやにやしながら覗き込む。


「違う」


 即答だった。


「でも、次からは一緒に行こう」


 新の脳裏に、

 天宮翼の笑顔が浮かぶ。


「えー。

 やっぱりヤキモチじゃないですかー」


 冗談めかして続ける。


「確かにNPCと恋愛可能なゲームですけど、

 私的には新くんの方が——」


「違うって」


 新は遮る。


「ふざけてないで、行くぞ」


「はーい」


 不満そうにしながらも、

 皐月は素直に頷いた。



 通りは賑やかで、

 善意に満ちている。


 誰もが、

 それを疑わない。


 だが新は知っている。


 最も危険なのは、

 正しさを疑わない善意だ。


 天宮翼は、

 すでにこの街にいる。


 そして——

 皐月のすぐ近くまで、来ていた。


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