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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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17/25

バッドエンド

 このゲームには、

 いくつものエンディングが存在する。


 英雄になる結末。

 世界を救う結末。

 何事もなかったように日常へ戻る結末。


 新は、そのほとんどを見てきた。


 だが——

 自分から踏み込まなければ、決して辿り着けない結末がある。



 バッドエンド。


 力不足で死ぬことでも、

 選択を誤って失敗することでもない。


 自分の意思で、倫理を捨てなければ見えないルート。


 新は、攻略のためにそれを選んだ。


 ——多少の罪悪感はあった。


 だが当時の新は、

 それを「ゲームだから」と押し殺していた。



 聖火の集い。


 その中心にいたのが、

 **天宮あまみや つばさ**だった。


 初めて会った時、

 彼は驚くほど優しかった。


「怖かったね」


 震える非覚醒者の肩に、

 そっと手を置く。


「君は、何も悪くない」


 穏やかな声。

 柔らかな笑顔。


「この世界が、君を傷つけたんだ」


 人は、その言葉だけで泣いた。

 そして、疑うことをやめた。



「君は、僕の手足になってくれる?」


 天宮は、新にそう言った。


「正しい世界を作るには、強い人が必要なんだ」


 迷いのない瞳。


 新は頷いた。


 エピソード条件を満たすため。

 それだけの理由だった。


 ——そう、思っていた。



 裏切り者が出た。


 疑問を口にしただけの信者。


「迷ってるだけだよ」


 天宮は、楽しそうに言った。


「どうしようか?」


 まるで、

 壊れたおもちゃを見つけた子供のように。



 地下の一室。


 壁は白かった。

 正確には、白かったはずだった。


 何度も洗われ、

 何度も拭われ、

 それでも染みついた色が消えない。


 男は拘束され、

 床に座らされていた。


「大丈夫」


 天宮はしゃがみ込み、

 男と目線を合わせる。


「君は悪くない」


 次の瞬間。


 鈍い音。


 男の身体が、

 不自然な方向に跳ねた。


 悲鳴は途中で潰れ、

 喉から空気が漏れる音だけが残った。


「ほら、見て」


 天宮は新を見る。


「人って、壊れる時が一番正直だ」



 指が、一本。


 ゆっくりと、

 ありえない方向へ曲がる。


 骨が鳴る。


 男の目から、

 涙と涎が同時に落ちた。


「やめ……」


「大丈夫だよ」


 即座に被せる。


「これは浄化だから」


 その言葉に、

 男の身体が小さく震えた。


 拒絶ではない。

 理解しようとする震えだった。



「新くん」


 天宮が振り返る。


「彼は、救われるべきだと思う?」


 攻略条件。


 肯定。


「……はい」


 天宮は、満足そうに頷いた。


「だよね」



 次は、時間だった。


 殴らない。

 蹴らない。


 水を与えず、

 眠らせず、

 暗闇に置く。


 時折、灯りをつけて笑いかける。


「頑張ってるね」

「もう少しだよ」


 男は、

 何が正解なのか分からなくなった。


 痛みよりも、

 期待に応えられない恐怖が勝った。



「……お願い、します」


 ついに、男が言った。


「……殺してください」


 天宮は、

 一瞬だけ驚いた顔をして。


 すぐに、

 嬉しそうに微笑んだ。


「よく言えたね」


 両手を包むように握る。


「君は、ちゃんと辿り着いた」



 苦痛は、なかった。


 それが、

 一番異常だった。


 男は、

 涙を流しながら笑った。


「……ありがとう、ございます」


 そう言って、

 静かに息を引き取った。



 血に濡れた床の上で、

 天宮翼は立ち上がる。


 服も、

 手も、

 顔も、赤い。


 それでも。


 その笑顔は、

 聖職者そのものだった。


「ほら」


 新を見る。


「救われた」


 疑いのない声。


 新は、その場で理解した。


(……こいつは、楽しんでいる)


 支配でもない。

 目的でもない。


 人が壊れる過程そのものを、娯楽としている。


 ゲームだと、

 分かっているのに。


 それでも。


 本物の恐怖が、

 新の背中を這い上がった。



 それでも新は、

 最後まで天宮翼の右腕であり続けた。


 攻略のために。

 エンディングを見るために。


 そして——

 世界は燃えた。


 街は消え、

 信者は祈り続け、

 誰も救われなかった。


 それが、

 聖火の集いルートの結末だった。



(……だから、分かる)


 新は、現在へ意識を戻す。


 あの笑顔が、

 どれほど危険か。


 あの善意が、

 どれほど人を壊すか。


 今回は、違う。


 今回は、

 皐月がいる。


 そして新は、

 もう“右腕”を選ばない。


 聖火の集い。

 天宮翼。


 ——あいつの結末を、

 今回は辿らせない。


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