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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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13/20

地下潜入

トーマスのいるギルド拠点。


 昼間にもかかわらず、

 内部はどこか薄暗かった。


 掲示板にはクエストが並び、

 覚醒者たちが忙しなく行き交っている。


 その中を、新と皐月は進んでいた。


「……ここ、落ち着かないですね」


 皐月が小声で言う。


「ギルドは基本そうだ」


 新は足を止めずに答えた。


「人も情報も、多すぎる」



 トーマスは、

 端末の前で腕を組んでいた。


 二人に気づくと、

 いつもの軽い調子で声をかけてくる。


「来たんだねー!

 もしかして加入希望かい?」


「少し、聞きたいことがある」


 新は前置きを省いた。


「旧生活区画についてだ」


 トーマスの視線が、

 一瞬だけ鋭くなる。


「……発砲の件かな?」


「ああ」


 新は頷く。


「地上で警告射撃を受けた」


 周囲のギルド員が、

 わずかにこちらを伺う。


 トーマスは声を落とした。


「ここじゃ、話しにくいんだよねー」


 そう言って、

 奥の小部屋へと二人を案内した。



「ギルドとしての結論は、

 もう出てるんだ」


 トーマスは淡々と言った。


「旧生活区画は管理外。

 被害なし。

 介入予定なし」


「……やっぱりな」


 新は小さく息を吐く。


「発砲したのは?」


「さぁな。

 確認できなかった」


 トーマスは視線を伏せる。


「ギルド内では、

 “聖火の集い”の名前が出た」


 皐月が、息を呑む。


「……危険、なんですか?」


「危険かどうかは、

 状況次第……かな」


 トーマスは言葉を選ぶ。


「表向きはね。

 非覚醒者への支援や保護を惜しまない、

 素晴らしい団体だよ」


 ——【表向きは】。


 つまり、

 裏があると分かっていても動けない。


「要するに」


 新が言う。


「確かな証拠がないから、

 ギルドは手を出せないってことだろ?」


「そういうこと!!」


 トーマスは、

 正解!と言わんばかりに笑った。



「地下の存在は?」


 新が聞く。


 トーマスは、

 一瞬だけ沈黙する。


「公式には、

 何もないことになってるよー」


 だが、すぐに続けた。


「でも旧生活区画の地下は、

 昔、居住区画として使われてた」


「生活インフラも?」


「あるはずだよ」


「……なるほど」


 新は、それ以上聞かなかった。


 ここが、限界だ。



「深入りするのは、

 オススメしないよ」


 トーマスははっきり言った。


「そこは、

 ギルドの守備範囲外だからね」


「分かってる」


 新は答える。


「だから、

 俺たちで行く」


 トーマスは小さく息を吐いた。


「……無事で戻ってくるんだよ」


 新は返事の代わりに頷き、

 皐月と共に部屋を出た。



 旧生活区画。


 地上の管理事務所の裏手で、

 新は足を止めた。


「……ここだ」


 崩れたフェンスの奥。

 雑草に覆われたマンホール。


 蓋には、

 最近動かされた跡がある。


「誰か、

 使ってますね……」


 皐月が言う。


「ああ」


 新は頷いた。


「隠す気もない」


 蓋をずらす。


 冷たい空気が、

 下から吹き上げてきた。


 生活の匂いが、

 はっきりと混じっている。



 地下。


 コンクリートの通路は、

 思ったより整っていた。


 壊れていない照明。

 補修された配線。


「……人、

 住んでますね」


「間違いない」


 新は周囲を見渡す。


 簡易ベッド。

 空の食料箱。

 乾いた水の容器。


 放棄された跡じゃない。


 続いている生活だ。



「これ……」


 皐月が足元を指す。


 床に残った、

 複数の靴跡。


「人間の、

 しかも最近の痕跡だ」


 新は低く言う。


「人数も、かなり多い」


「……組織」


「ああ」


 新は思考を整理する。


「見張り、生活、移動。

 即席じゃない」


「かなり昔から、

 ここを使ってる可能性が高いな」



 通路の奥。


 壁に描かれた、

 歪な紋様。


 むせ返るような血の匂い。


 焼き付けられた跡。

 壁に固定された拘束具。


 新の足が、止まる。


 皐月は思わず目を逸らし、

 口を押さえた。


(……間違いない)


 何度も周回した末、

 一度だけ辿り着いたルート。


 人を人とも思わず、

 他人を屈服させ、

 悲鳴に快楽を見出す異常者。


(あいつが……

 この先にいるのか)


「新……?」


 皐月が、不安そうに声をかける。


「……大丈夫だ」


 新は視線を逸らした。


(できることなら、

 会いたくない)



 生々しい痕跡とは裏腹に、

 地下は音一つなく静まり返っている。


 だが、

 完全な無人ではない。


 どこかに、

 気配がある。


 新は拳を握りしめた。


 ここはダンジョンじゃない。


 やり直しも、

 救済もない。


 それでも——


「……戻る?」


 皐月が小さく聞く。


「いや」


 新は一歩、前に出た。


「ここまで来た」


 低く、言う。


「俺たちの目的は精霊だ。

 このまま何もないなら、進む」


 地下の奥で、

 何かが軋む音がした。


 敵か、味方か。


 判断は、まだできない。


 それでも。


 新と皐月は、

 奥へと進み続けた。


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