管理外
拠点に戻ると、
ようやく緊張が抜けた。
新は装備を外し、
簡易テーブルに端末を置く。
「……弾痕の位置」
表示されたマップに、
新は印をつけていく。
「射線、斜め上。
距離は中距離。
遮蔽物を把握した上で撃ってる」
皐月は黙って聞いていた。
「警告射撃だった」
新は断言する。
「殺す気なら、
あの距離で外さない」
「……人、ですよね」
「ああ。厳密に言うとNPCだがな」
新はため息をつく。
「しかも、慣れてるやつだ」
皐月は、少しだけ肩をすくめた。
「旧生活区画って、
誰もいない場所だと思ってました」
「“誰も管理してない”だけだ」
新は端末を閉じる。
「住んでないとは限らない」
⸻
「精霊の痕跡は?」
新が聞く。
「ありました」
皐月は即答した。
「でも、近づくと……
遮られる感じがしました」
「……だろうな」
新は、
ジョブが発動しなかった皐月の様子を思い出す。
「地上じゃ、遠すぎたんだろう」
「じゃあ……」
「地下だ」
新は言い切った。
「撃ってきたのが誰であれ、
地上では無理だった。
潜るしかない」
皐月は、少し迷ってから頷いた。
「……分かりました」
⸻
一方、その頃。
居住地区の別拠点。
トーマスは、
ギルドの共有端末の前に立っていた。
「旧生活区画?」
通信越しに、
渋い声が返ってくる。
「ええ」
トーマスは落ち着いた口調で答えた。
「探索者が近づいた際、
不審な発砲があったとの報告です」
「聖火の集いか?」
「可能性は高いです」
端末の向こうで、
短い沈黙。
「……被害は?」
「今のところ、
死者も重傷者も出ていません」
「なら、
優先度は低い」
あっさりとした判断だった。
「旧生活区画は、
元から管理外だ」
「ギルドとしても、
介入予定はなし、ということでしょうか?」
「なし」
即答。
「ギルドに特に関係しない。
報酬も、実入りもない」
トーマスは、
わずかに眉を動かした。
「……了解しました」
⸻
通信を切る。
トーマスは、
端末の画面をしばらく見つめていた。
「管理外、か」
呟く。
その言葉は、
便利でもあり、危険でもある。
誰も見ない場所。
誰も責任を持たない場所。
だからこそ、
何かが残る。
⸻
新の顔が、脳裏に浮かぶ。
理詰め。
判断が早い。
無駄な行動をしない。
(……深入りするなよ)
トーマスは、
小さく息を吐いた。
助言はできる。
だが、止める権限はない。
それが、
今の距離感だった。
⸻
夜。
新と皐月の拠点。
「トーマスに、
一度情報を探らせよう」
新は言った。
「情報を、
そんな簡単に渡すでしょうか?」
「渡すさ」
新は即答する。
「ギルドは、
旧生活区画を問題視してない」
「……ですよね」
皐月は苦笑した。
「分かりやすい危険じゃないですもんね」
「ああ」
新は立ち上がる。
「だから、
解決してくれたら万々歳。
解決しなくても、別にどうだっていい」
「……割り切ってますね」
「ギルドってのは、そういうもんだ」
⸻
「明日、
トーマスに話を聞いたら、
そのまま動く」
「地下、ですよね」
「そうだ」
新は地図を開く。
「入口は、
あの管理事務所の近くだ」
皐月は、
少し緊張した顔で頷いた。
「……明日、行きましょう」
「ああ」
新は短く答えた。
地下がどうなっているのかは分からない。
だが、安全であるはずがない。
管理されていない場所には、
管理されていない“意志”がある。
それを確かめに行くのは、
ギルドじゃない。
——自分たちだ




