一週間後の取引
一週間後。
新と皐月は、居住地区の外れにある小さな拠点を出た。
「なんだか、あっという間でしたね」
歩きながら、皐月が言う。
「毎日潜ってたからな」
新は端末を確認した。
装備は更新済み。
消耗品も十分。
金も、当面困らない。
準備としては、上出来だ。
「今日は、あの情報屋さんですよね?」
「ああ」
「ちゃんと来てくれますかね?」
「来る」
新は即答した。
⸻
《ハニーメイト》。
甘ったるい香りは、相変わらずだ。
「またここ……」
皐月は苦笑しつつも、
自然と一番奥のソファー席へ向かう。
指定席。
指定位置。
パンケーキが運ばれ、
皐月が三口ほど食べた頃だった。
「いやー、
ちゃんと来てくれて嬉しいよ」
聞き覚えのある声。
気づけばテーブルの向かいに、
可愛らしい少年が腰掛けていた。
「……こんにちは?」
皐月は首を傾げる。
「はじめまして、だっけ?」
少年は笑う。
「まあ、そんな感じでいいよ」
新が口を開く。
「約束通りだな、メイト」
「やっぱり覚えてるよね」
少年——真田メイトは、
楽しそうに笑った。
⸻
「で?」
新が促す。
「精霊の話だ」
「せっかちだなあ」
そう言いながらも、
メイトは声を落とした。
「まず前提」
指を一本立てる。
「精霊は、
“探して見つかる存在”じゃない」
皐月が身を乗り出す。
「え?
じゃあ、どうやって……?」
「条件」
メイトは即答した。
「場所と、時間と、状態」
「状態?」
「プレイヤー側の、ね」
曖昧な言い方。
「具体的には?」
新が聞く。
「ダンジョンでも街でもない場所」
メイトは続ける。
「管理が甘くて、
でも完全に放棄されてないエリア」
新はすぐに思い当たる。
「……旧生活区画」
「正解」
メイトは頷いた。
「特に、
人が寄りつかなくなった公園や緑地」
皐月の目が輝く。
「じゃあ、
行けば会えるんですか?」
「“会える可能性が出る”」
メイトは言い直した。
「必ずじゃない」
⸻
「それで?」
新は続ける。
「契約の条件は?」
「基本は、向こう次第」
メイトは肩をすくめる。
「話しかけられるか、
無視されるか」
「運?」
「半分」
にやりと笑う。
「もう半分は、
そのジョブとの相性」
皐月は自分の手を見る。
「ジョブとの相性……」
(それは、皐月のジョブ的に問題ないな)
⸻
「対価は?」
新が確認する。
「金貨百枚――」
その言葉に、新はわずかに眉を動かした。
今まで何度もメイトから情報を買ってきたが、
これは明らかに法外だ。
「……と、言いたいところだけど」
メイトはにやにやと笑い、新を見る。
「君には僕のスキルも効いてないみたいだしね」
新は身を乗り出し、
声を落とした。
「お前が喉から手が出るほど欲しい情報を、
俺は知ってる」
メイトの笑顔が、消えた。
「……どんな情報だい?」
「お前の師匠、生きてるぞ」
一瞬。
メイトの目に、
憎悪の炎が灯る。
「デタラメ言うな!」
「そう思いたいなら、それでいい」
「どこにいる!
あいつは!?」
「ここからは金貨百枚だ」
メイトは、やさぐれたように笑った。
「……いいよ。
今回の質問代金は、それでチャラに――」
「違う」
新は即座に遮る。
「質問代金をチャラにして、
なおかつ金貨百枚だ」
「そんなの払えるわけ――!」
「なら諦めろ」
新は淡々と言う。
「質問代金は払う。
それで終わりだ」
メイトは黙り込み、
深く息を吐いた。
そして、また笑顔に戻る。
「……全く。
負けたよ」
「君の言う通りにする」
「ただし、
金貨百枚を渡すのは、
師匠を見つけた後でもいいかな?」
「ああ」
「――地下だよ」
「地下?」
「ああ。
この居住地区の地下で、
ネズミみたいに生きてる」
メイトは立ち上がり、
煙のように消えた。
⸻
新は、静かに息を吐く。
(……師匠を、殺しに行ったか)
それでも。
必要な情報は、手に入った。
「……あれ?」
皐月が、きょろきょろと周囲を見回す。
「今、誰かいました?」
「いた」
新は即答した。
「ですよね……?」
首を傾げつつも、
皐月はパンケーキの最後の一口を口に運ぶ。
甘い香りだけが、そこに残っていた。
⸻
店を出て、
二人は並んで歩く。
居住地区の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
「旧生活区画、ですか」
「ああ」
「ちょっと、楽しそうですね」
「油断するな」
新は、釘を刺すように言った。
「効率は悪い。
でも、情報通りなら無駄じゃない」
「了解です」
皐月は素直に頷く。
「次は、そこに行くんですね」
「ああ」
新は地図を開く。
「精霊がいるかどうかは、
行ってみないと分からない」
「でも」
皐月は、小さく笑った。
「一緒なら、
なんとかなりそうな気がします」
「……そうだな」
二人は歩き出す。
次の目的地へ。
精霊がいるかもしれない、
管理の外れたエリアへ。




