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最短ルートに、君はいなかった  作者: りな


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10/15

一週間後の取引

一週間後。


 新と皐月は、居住地区の外れにある小さな拠点を出た。


「なんだか、あっという間でしたね」


 歩きながら、皐月が言う。


「毎日潜ってたからな」


 新は端末を確認した。


 装備は更新済み。

 消耗品も十分。

 金も、当面困らない。


 準備としては、上出来だ。


「今日は、あの情報屋さんですよね?」


「ああ」


「ちゃんと来てくれますかね?」


「来る」


 新は即答した。



 《ハニーメイト》。


 甘ったるい香りは、相変わらずだ。


「またここ……」


 皐月は苦笑しつつも、

 自然と一番奥のソファー席へ向かう。


 指定席。

 指定位置。


 パンケーキが運ばれ、

 皐月が三口ほど食べた頃だった。


「いやー、

 ちゃんと来てくれて嬉しいよ」


 聞き覚えのある声。


 気づけばテーブルの向かいに、

 可愛らしい少年が腰掛けていた。


「……こんにちは?」


 皐月は首を傾げる。


「はじめまして、だっけ?」


 少年は笑う。


「まあ、そんな感じでいいよ」


 新が口を開く。


「約束通りだな、メイト」


「やっぱり覚えてるよね」


 少年——真田メイトは、

 楽しそうに笑った。



「で?」


 新が促す。


「精霊の話だ」


「せっかちだなあ」


 そう言いながらも、

 メイトは声を落とした。


「まず前提」


 指を一本立てる。


「精霊は、

 “探して見つかる存在”じゃない」


 皐月が身を乗り出す。


「え?

 じゃあ、どうやって……?」


「条件」


 メイトは即答した。


「場所と、時間と、状態」


「状態?」


「プレイヤー側の、ね」


 曖昧な言い方。


「具体的には?」


 新が聞く。


「ダンジョンでも街でもない場所」


 メイトは続ける。


「管理が甘くて、

 でも完全に放棄されてないエリア」


 新はすぐに思い当たる。


「……旧生活区画」


「正解」


 メイトは頷いた。


「特に、

 人が寄りつかなくなった公園や緑地」


 皐月の目が輝く。


「じゃあ、

 行けば会えるんですか?」


「“会える可能性が出る”」


 メイトは言い直した。


「必ずじゃない」



「それで?」


 新は続ける。


「契約の条件は?」


「基本は、向こう次第」


 メイトは肩をすくめる。


「話しかけられるか、

 無視されるか」


「運?」


「半分」


 にやりと笑う。


「もう半分は、

 そのジョブとの相性」


 皐月は自分の手を見る。


「ジョブとの相性……」


(それは、皐月のジョブ的に問題ないな)



「対価は?」


 新が確認する。


「金貨百枚――」


 その言葉に、新はわずかに眉を動かした。


 今まで何度もメイトから情報を買ってきたが、

 これは明らかに法外だ。


「……と、言いたいところだけど」


 メイトはにやにやと笑い、新を見る。


「君には僕のスキルも効いてないみたいだしね」


 新は身を乗り出し、

 声を落とした。


「お前が喉から手が出るほど欲しい情報を、

 俺は知ってる」


 メイトの笑顔が、消えた。


「……どんな情報だい?」


「お前の師匠、生きてるぞ」


 一瞬。


 メイトの目に、

 憎悪の炎が灯る。


「デタラメ言うな!」


「そう思いたいなら、それでいい」


「どこにいる!

 あいつは!?」


「ここからは金貨百枚だ」


 メイトは、やさぐれたように笑った。


「……いいよ。

 今回の質問代金は、それでチャラに――」


「違う」


 新は即座に遮る。


「質問代金をチャラにして、

 なおかつ金貨百枚だ」


「そんなの払えるわけ――!」


「なら諦めろ」


 新は淡々と言う。


「質問代金は払う。

 それで終わりだ」


 メイトは黙り込み、

 深く息を吐いた。


 そして、また笑顔に戻る。


「……全く。

 負けたよ」


「君の言う通りにする」


「ただし、

 金貨百枚を渡すのは、

 師匠を見つけた後でもいいかな?」


「ああ」


「――地下だよ」


「地下?」


「ああ。

 この居住地区の地下で、

 ネズミみたいに生きてる」


 メイトは立ち上がり、

 煙のように消えた。



 新は、静かに息を吐く。


(……師匠を、殺しに行ったか)


 それでも。


 必要な情報は、手に入った。



「……あれ?」


 皐月が、きょろきょろと周囲を見回す。


「今、誰かいました?」


「いた」


 新は即答した。


「ですよね……?」


 首を傾げつつも、

 皐月はパンケーキの最後の一口を口に運ぶ。


 甘い香りだけが、そこに残っていた。



 店を出て、

 二人は並んで歩く。


 居住地区の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。


「旧生活区画、ですか」


「ああ」


「ちょっと、楽しそうですね」


「油断するな」


 新は、釘を刺すように言った。


「効率は悪い。

 でも、情報通りなら無駄じゃない」


「了解です」


 皐月は素直に頷く。


「次は、そこに行くんですね」


「ああ」


 新は地図を開く。


「精霊がいるかどうかは、

 行ってみないと分からない」


「でも」


 皐月は、小さく笑った。


「一緒なら、

 なんとかなりそうな気がします」


「……そうだな」


 二人は歩き出す。


 次の目的地へ。


 精霊がいるかもしれない、

 管理の外れたエリアへ。


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