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ヒマワリの誓い~郵便猫ルカの配達日誌~  作者: 咲晴


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8/8

森の夕食会

「いやあ、最高じゃった。お茶は、飲めば夏の暑さを和らげてくれるし、見れば待ち遠しい秋を連想させる。ケーキもしっとりとしていて、ハチミツの甘さが口に広がっていく――ミナさん、ありがとう」


 お茶とケーキをたっぷりと堪能したクルミは、満足そうに言いました。

 

「いえいえ。気に入ってもらえて嬉しいわ――そうだ、クルミさん。よろしかったらこの後、お夕食も食べていかない?」

「いやいや、夕食までご厄介になるわけには――明日までの修理もあるしの」

「……というか、食べて行って欲しいの。後から来るお客さんにきっと用があると思うから。一人……いいえ二人かしらね」


 ミナは、ニッコリと微笑みながらいいました。

 クルミは、『はて?』と首をかしげています。

 

 その様子を見て、ミナはまた笑いました。


 ◆


 郵便局は、閉店時間ギリギリまでお客さんが訪れていました。

 

 こんなに忙しかったのは、いつぶりだろう――。

 

 ルカは、充実感を覚えながら片付けもそこそこに、帰り支度を始めました。

 素早く局内の点検を済ますと、鍵をかけました。

 

 ルカはまず、クルミの家に向かいました。

 しかし、玄関をノックしてもクルミはいませんでした。


「まだ、ミナさんのところかな? それとも別の用事かもしれない……」


 ルカは迷いましたが、ミナにもお礼を言いたいと思ったので、ミナの家まで足を運ぶことにしました。


 町を出ると、草原から森へ続く道を、風を切って駆けていきます。

 太陽も沈みかけ、森から穏やかで涼しい風が吹いていたので、ルカは少しも暑くありませんでした。

 まるで森から『いらっしゃい』と言われているような風に、ルカは案外ミナからのメッセージかもしれないな、と思いました。


 

 遠くにぽおっと、暖かい光が見えてきました。

 ミナの家までもうすぐです。

 ルカは疲れていましたが、力いっぱい走りました。

 

 ◆

 

「最初のお客様が、いらしたみたいね」


 ミナは、そう言って立ち上がり、玄関のドアを開けました。

 玄関から少し離れた所に、走って乱れた服を直すルカの姿がありました。


「いらっしゃい。待っていたわよ。どうぞ入って」

「突然の訪問ですみません。でもやっぱり、僕が来ること分かっていたんですね」


 ミナは、微笑みながらルカを家に招き入れました。

 そこには、クルミの姿もありました。


「クルミさん、こんばんは。やっぱりこちらにいらしたんですね」

「なるほどの……ルカ、ご苦労様。いやあ、ミナさんに引き留められての」


 クルミは、ホッホッホッと笑いました。


「まずは、夕食にしましょう」


 ミナは、料理をテーブルに運び始めました。


「わあ、美味しそう……そういえば今日は忙しくて、朝、ノンノばあちゃんのパンを食べたきりでした。もうお腹ペコペコ……」

「ふふっ、たくさん食べていってね」


 燻製肉と根菜を使ったポトフ、少し硬めのパン、ベリーがちりばめられたサラダ――どれも森の恵みがたくさん使われていて、素朴ながらも豊かな料理が、テーブルを彩りました。


 ルカは、勧められた椅子に座ると、手早くお祈りをして森に感謝を伝えました。

 そして、どれから食べようか迷ってから、ポトフから頂くことにしました。


 燻製肉は、スプーンでほぐれるほど柔らかく、臭みも気になりません。代わりにハーブの香りがスッと鼻に抜けます。

 根菜も柔らかく煮込まれていて、野菜のほのかな甘さが口の中いっぱいに広がります。

 

 ルカは、パンに手を伸ばしました。

 焼き立ての少し硬めのパンをちぎると、湯気とともにハーブのいい香りが広がり、ルカの鼻をくすぐりました。

 ルカは、少しお行儀が悪いと思いながらも、パンをポトフに浸して口へ運びます。

 パンに練りこまれたハーブが、スープをさらに際立たせます。


「ん~! ミナさん、とっても美味しいです!」

「ホッホッホッ、いい顔をしよるわい」

「ホントに……ルカ、サラダもどうぞ。クルミさんもたくさん召し上がって」

「ホホーッ! この燻製肉はなかなか――」


 いつも森の近くに独りで暮らしているミナにとっては、こんなに賑やかな夕食会は久しぶりのことでした。

 

 丁寧に作られたミナの食事は、ルカの心と体を温かく満たしました。

 

 

「ふう……クルミさん、ミナさん、今日はご協力頂きありがとうございました」


 お腹が満たされたルカは、一息ついてから姿勢を正し、二人にお礼を言いました。

 

「それで、あの手紙は?」


 二人の返事を待つことなく、ルカは気になっていた手紙のことを二人に聞きました。

 

「まず、ミミじゃが……ミナさんが森の向こうの町へ行った折に、ミミを見かけたそうなんじゃ。んで、町の門番さんが、ミナさんの友人じゃそうでな。彼に手紙を託したんじゃ……風でぴゅうぃっとな」

「町に住んでいる確証はなかったけれど……大丈夫。あの手紙は、ミミに届くわ。たくさんの人が繋いでいるのですもの」

 

 ミナの言葉は少し不安げでしたが、自分に向けられたまっすぐな目が『きっと届く』と言っている気がして、ルカは静かに大きく頷きました。


 その様子を満足げに見届けたクルミは、『ああ、そうじゃ……』と言って、お茶会で出されたお茶とケーキの感想をルカに話し始めました。

 二人の会話を楽しそうに聞きながら、ミナは食後のお茶の準備を始めました。

 

 すると突然、窓がガタガタと音を立て始めました。


 ルカとクルミが音のする方へ目を向けると、なにやら四角くて白いものが窓に張り付いていました。


「あら……思ったよりも早かったわね」


 ミナは窓を静かに開けると、涼しい夜風が吹き込んできました。

 白いものは、夜風に乗ってふわっと家の中に入ってきて、ゆっくりと床へ着地しました。

 それをミナが拾い上げ、二人に見せました。


「二人目のお客様よ」

「……なるほど! これが二人目の客人じゃったか!」


 クルミは驚き、ルカは訳が分からず二人を交互に見ました。


「これはね、ミミからの手紙よ」

「ええ?」

「ということは、無事に届いたんじゃな!いやあ、よかったよかった」

「お茶を飲みながら読んでみましょう」


 ミナも嬉しそうに微笑んでいました。


 ◆


 ミナが食後に用意してくれたお茶は、ラベンダーの入ったお茶でした。

 

 ルカは、手紙の内容にドキドキしていましたが、お茶の効果でとてもリラックスした気分になりました。


「じゃあ、読むわね」


 ミナが手紙を朗読してくれました。

 

 初めに手紙のお礼。


 自分ひとりでは届けられなかった手紙が――あのヒマワリ色の手紙が、たくさんの人の手によってミミに届いた――。

 ルカは、協力してくれた人たちに感謝しました。もちろん、風にも。

 そして、一人では不可能なことも、周りの人の助けがあれば解決できることもある、とルカは学びました。


 あのウサギの青年は、今頃どうしているのだろう?

 手紙が届いたことを教えてあげたい――。


 ルカは、ウサギの青年にも思いを馳せました。


 次に、花屋で働いていて、充実した毎日を過ごしていること。

 花屋の2階に住んでいること。

 明日、町へ遊びにいくこと――。


「明日!? もう、ミミさん急だなあ……」

「変わっとらんのお~。ホッホッホッ」

「ふふふっ」


 ミミの相変わらずのそそっかしさに、三人で笑いました。


「でも、明日遊びに来るんですね。町のみんなびっくりしますよ!……でも、時間書いてないですね」

「本当じゃ!」


 楽しい笑い声とともに、森の夜は更けていきました。

 

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