約束の場所
オルソンの「早く読んだ方がよい」というアドバイスが気になったミミは、急いで閉店作業を行いました。
そして、奥で植物図鑑を見ているオリバーに、店じまいの報告をしました。
「オリバーさん、閉店作業終わりました」
「ありがとう。もうそんな時間か。おや? 今日は少し早いね」
「ええ。今日はお客さんも落ち着いてたので」
「そうかい。今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます。オリバーさん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
◆
オリバーに挨拶を済ませると、ミミは足早に店の二階に間借りしている自分の部屋へ戻りました。
ミミは、夕食は後回しにして冷たいハーブティーだけ用意すると、早速手紙を読み始めました。
ハーブティーにしたのは、ミナを思い出したからでした。
いつも飲んでいるお茶なのに、一口飲むとなんだかとても懐かしい気持ちになりました。
封筒を開けると、ミナからの手紙と空の封筒、そしてヒマワリ色の封筒が入っていました。
ヒマワリ色の封筒にも、『ミミへ』と自分の名前が宛名に書かれていました。
ミミは、ミナの手紙から読むことにしました。
『ミミへ
元気にしていますか?
突然あなたが引っ越して連絡もないので、風見の町のみんなが今も心配しています。
空の封筒に手紙を入れると、風が私の元に手紙を運んでくれます。
近況を教えてください。
時間ができたら、風見の町のみんなに顔を見せてあげて。
それから、ヒマワリ色の手紙です。
あなた宛てのこの封筒が風見の町のポストに入っていたそうです。
でも引っ越し先が分からず、届けることができませんでした。
森の向こうの町であなたを見かけたことがあったから、ルカから手紙を預かり、友人のオルソンに手紙を託しました。
無事にヒマワリ色の手紙が、あなたに届いていますように。
風の恵みがあらんことを。
ミナ』
ミミは、読み進めていくうちに懐かしさを覚えました。同時に、風見の町のみんなに心配させてしまったことに胸を痛めました。
空の封筒を見つめながら、ミミは思いました。
「ダメだわ……私って、いつもそそっかしくて。この封筒のように、ミナさんの心遣いを見習わなきゃ」
ミミは後でミナへ手紙を書こう、と決めました。
空の封筒の代わりに、ヒマワリ色の封筒を手に取ります。
裏を返すと、差出人には『リオ』と書かれていました。
「まあ……リオからだわ」
少し前に偶然会ったきりで、彼にも連絡をしていませんでした。
ヒマワリ色の封筒は、『またヒマワリの丘に行きたいね』というリオとの約束を思い出させました。
封筒を開けると、そこにはたった一行だけ書かれた便せんが入っていました。
『日曜日、約束の場所で待っています』
ミミは、とても困惑しました。
「日曜日……明日なの? もうリオったら、これじゃ、いつの日曜か分からないじゃない。……どうしましょう」
ミミは、すぐさま部屋を飛び出して階段を駆け下り、オリバーの元へ向かいました。
答えが出るよりも先に体が動いていました。
◆
トントントン――。
「はい。ミミちゃん、どうしたんだい?」
「お休みのところすみません、オリバーさん。それと急で申し訳ないのですが、お願いがありまして――」
オリバーは、『とりあえず、中へお入り』と、快くミミを迎えてくれました。
椅子に座ると、ミミは困り顔で言いました。
「本当に急ですみません。明日お休みをいただけないでしょうか。友達から手紙が来て、会えないかと。それが、明日みたいで――」
「店のことは気にせず、いっておいで。大丈夫だから。そういえば、お休みらしいお休みをあげられてなかったね。休みのはずなのに、ミミちゃん手伝ってくれるから」
オリバーは、にっこりと微笑んで言いました。
オリバーの返事を聞いて、ミミの顔はパッと花が咲いたように明るくなりました。
「ありがとうございます」
「楽しんでおいで」
ミミは、もう一度『おやすみなさい』と声をかけ、部屋を後にしました。
階段を上がる足取りは、軽やかでした。
「そうだったわ、忘れないうちに、手紙を書きましょう」
ミミは、可愛らしい花柄の便箋を引き出しから持ってきて、ミナへ手紙を書き始めました。
ミミは、手紙を届けてくれたお礼、近況と明日風見の町へ遊びに行くことを書きました。
風見の町へは、ヒマワリの丘からの帰りに寄ろうと考えていました。
書き終わると、ミナが同封してくれた空の封筒に手紙を入れます。
すると、不思議なことに封筒はふわり、ふわりと浮かび上がり、窓に向かって飛び始めました。
しかし、窓は閉まっていて、手紙は何度も窓にぶつかっていました。
「ふふふっ」
ミミは、なんだかその様子がおかしくて、笑ってしまいました。
『よろしくね』とそっと手紙に声をかけ、窓を開けると手紙はぴゅうと空高く飛んで行きました。
ミミは、しばらく手紙が飛んで行った方を眺めていました。
涼しい風と共に、虫の声が聞こえてきました。




