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ヒマワリの誓い~郵便猫ルカの配達日誌~  作者: 咲晴


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手紙の行方

 今日は、昼からの仕事だった。

 外に出ると暑かったが、仕事場は森の近くで涼しい風が吹き、意外と快適だ。

 冬場は、逆にとても冷える職場だが……まあ、今は早く行って涼もう。

 

「ご苦労様、交代の時間です」

「オルソンさん、お疲れ様です。今日も暑くなりましたね。昼番お願いします」

 

 朝番だった後輩から、引き継ぎをしてもらう。

 門番といっても、それほど仕事が多いわけではない。出入りする人のチェックだ。

 町へやってきた人と挨拶を交わし、少し話をする。特徴や話をした内容をメモしておく。帰って行く時は、メモを見ながらチェックをするだけだ。

 

 森側の門は、交通量も少ないからのんびりとしたものだった。町の反対側に配属されると、他領からの商人や旅人が多くて大変だという。

 そんな同僚には申し訳ないが、人の出入りがほぼない昼の時間は、城壁に寄りかかりながら読書をして過ごせた。


 今日もこの時間、人の出入りはないようだ。

 

 僕は、ポケットから本を取り出し、城壁に身を預けながら読み始めた。

 背中から感じる、城壁のひんやりとした冷たさが心地よかった。

 少し読み進めたところで、森の方から強い風が吹いてきた。

 風が通り過ぎて、細めていた目を開けると足元に封筒が舞い降りた。

 

 宛名には『オルソンへ』と書かれていた。随分と分厚い封筒だ。僕は、封筒を拾い上げた。

 風を使って手紙を運ぶことができるのは、ミナだ。差出人を確認しなくても分かる。

 一応、差出人を確認する。やはり、ミナだった。

 

 ミナは、森の向こう側に住んでいて、時々ハーブやジャムを売りにやってくるキツネの女性だ。

 何度も世間話をしていたこともあるが、ある時読書をしているところを見られてしまった。

 慌てて隠したが、ミナは「私もその小説好きなの」と笑った。

 

 それ以来、彼女とは小説の情報交換をする仲となった。

 非番の日にミナの家へ遊びに行って、彼女が淹れてくれるお茶を飲みながら、二人で静かに読書に耽ることもある。

 

 僕は、本をポケットにしまい封筒を開けた。

 封筒の中には、僕宛ての手紙とまた封筒が入っていた。

 

 『オルソンへ――お願いがあります』

 

 お願い――ミナが火急の用事で手紙を寄越すのは初めてだった。

 ウサギのミミという子に手紙を届けて欲しい、という内容だった。花屋で働いている可能性が高いということも書かれていた。


 『この手紙には、とても大切な想いが込められています。なるべく早く届けてあげたい。力を貸してください』


 最後の文章から、ミナの強い思いが込められていることが伝わった。

 

 花屋のミミ――ああ、あの子か。いつも花屋に通っていた子だ。

 ところが春頃、大きな荷物を抱えてやってきた。聞くと、花屋の店主オリバーの体調が優れず、住み込みで働くのだとまっすぐな目で話していた。

 きっと花屋へ行けば、この手紙を渡せるだろう。

 

 しかし、まだ勤務中だ。すぐには届けられない。

 僕は、『ミミへ』と書かれた封筒を見つめた。

 

 どうしようか考えていると、少しずつ人通りが増えてきてしまった。

 気付けば、夕方も近づき始めていた。とりあえず、今は任務に集中しなければ……。

 

「せんぱ~い、お疲れ様です。聞いてくださいよ~」

 

 人通りも落ち着いてきた頃に、夜番担当の後輩がやってきた。まだ交代には時間があるはずだった。

 

「お疲れ様。どうしたんだい?」

「彼女に振られてきました……。仕事と私どっちが大事かって……」

 

 交代の多い門番の仕事は、女性に寂しい思いをさせてしまうことがままある。よく聞く話だ。

 

「……残念だったな。順調だと思ってたんだが」

「そうなんですよ。もう少しで――」

 

 僕は、後輩の話を聞いていて思いついた。

 

「愚痴りたいことすまない。ちょうどいいところに来た。ちょっと早いが、交代してくれないか?今度、僕のおごりで話をきいてやるから」

「ええ、いいですよ。僕は仕事一筋になるんで。でも、どうしたんですか?」

「ちょっと、野暮用を頼まれてな。じゃあこれ、引継ぎの書類だ。助かったよ、ありがとう」

 

 僕は、手紙をポケットにしまい、花屋へ駆け出した。


 ◆

 

 そろそろ、閉店作業を始めようと思っていたところでした。

 

「……間に合った」

 

 駆け込んできたのは、門番のオルソンでした。

 

「あら、いらっしゃい。」

 

 オルソンは息を切らしていて、とても急いで来たようでした。

 

「そんなに急いでどうしたの?もしかして大切な日でも忘れてたとか?急いでブーケ作りましょうか?」

「ああ、いや。そんなんじゃないんだ。今日は君に渡すものが……すまないが、先に水を一杯くれないか?」

 

 ミミは、自分に渡すものとはなんだろうと不思議に思いながら、オルソンに水を一杯差し出しました。


「お水です。どうぞ」

「はあ……ありがとう。一息つけたよ」

 

 オルソンは続けて話し始めました。

 

「君は確か、以前風見の町に住んでいたんだろう?じゃあ、ミナさんは知っているね?」

「ええ、そうです。ミナさんのこともよく知っていますが……どうして?」

 

 ミミとミナは、風見の町の広場で露店を開いていた時、よく一緒になりました。森に自生するハーブについて教えてくれたり、初めて店を開く時に色々と助けてくれたりしたのもミナでした。


「やっぱり、君で合っていたんだな。これ、ミナさんから君への手紙だ」

 

 オルソンは、ポケットから手紙を取り出し、ミミへ渡しました。

 

「ありがとうございます」

「じゃあ、僕はこれで……ああ、おそらくだが、早めに中身を確認した方がいい。それじゃあね」

「わざわざ、ありがとうございました。気を付けて」

 

 手紙を渡す役目を終えたオルソンは、片手を上げて帰っていきました。

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