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ヒマワリの誓い~郵便猫ルカの配達日誌~  作者: 咲晴


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ミミの夢

 子どもの頃、私は湖の向こうの村に暮らしていた。

 村には農家が多く、周りには広い麦畑が広がっていた。

 私は友達と一緒に、畑の間を縫うように張り巡らされた道を、いつも駆け回って遊んでいた。

 

「ミミー!待ってよー!」

 

 幼馴染のリオの声が、後ろから聞こえていた。

 

 畑を抜けた先にある丘は、夏になるとたくさんのヒマワリが咲いた。

 見上げると、黄色く大きな花の向こうに青空が広がっている――そんな景色が好きだった。

 

 家の庭には、野菜を育てる小さな畑があった。父は、珍しい野菜を育てるのが好きだった。

 母は、ハーブや色とりどりの季節の花を育て、家の周りをいつも彩っていた。

 私も見よう見まねで手伝ううちに、自然と野菜や草花に詳しくなった。

 育てるのも、食べるのも好きだったから、大きくなったら私もここで色々な作物を育てて静かに暮らしていくのだろう、と思っていた。


 ◆

 

 数年前、学校を卒業したお祝いに、家族で森の向こうの町まで小旅行をした。

 

 普段は、大切に育てている作物が心配で家を空けられない。

 近くではあるが、初めての旅行だった。

 

 私は、湖の向こうの世界を知らなかった。

 

 湖を抜けると、草原が広がっていた。青々とした匂いの混じった風が吹いていた。

 

 少し自分の世界を抜け出しただけで、こんなにも違う世界が広がっていたなんて――私には目に写るもの全てが新鮮だった。

 

 草原の先には、小さいが静かで雰囲気の良さそうな町があった。

 

 こんな町に住んでみたい――と思いながら通りすぎた。

 

 やがて、森が見えてきた。

 森の中の小径は綺麗に整えられ、木漏れ日が降り注いでいた。薄暗く怖い所かと思っていたが、どこかホッとする心地よい所だった。

 

 やがて森を抜けると、目的地の町が見えた。

 

 低い城壁に囲まれていて、色とりどりの屋根が顔を覗かせていた。

 町へ入る時、優しそうな門番が立っていた。緊張したが、挨拶をするとにこやかに中へ入れてくれた。

 

 森の向こうの町は、風見の町よりももっと都会だった。

 町全体が、石畳の道で張り巡らされ、行き交う人もとても多かった。「お祭りでもあるの?」と父に聞いたが、彼は笑って「いつもだよ」と教えてくれた。

 私は、きょろきょろと見回りながら、父の背中についていった。

 

 大きな通りにはいくつもの店が立ち並んでいた。どの店もお客さんで賑わっている。


「さあ、ここだよ、好きなものを選びなさい」

 

 両親がまず連れてきてくれたのは、洋服屋だった。

 ピンク色の可愛らしい屋根の店の中には、カラフルで可愛いデザインの服が、所狭しと並べられていた。

 洋服を選ぶのが、こんなにも楽しいだなんて。このお店なら何時間でもいられそうだ。

 気付けば、すっかり夢中になっていた。


「そろそろ、決めてちょうだい」

 

 と、少し困った顔をした母が言う。

 実はもう決めていた。ヒマワリ色のエプロンドレスだ。

 裾には小さなクローバーのラインが刺繍されている。

 

「ごめんなさい。これにします」


 私は、すぐに母の元へ持っていった。


 それから、私たちは食堂へ向かった。

 

 その途中で、私は見つけてしまった。落ち着きのある深緑色の屋根の花屋だった。店先にある鉢植えは葉が青々と繁り、店内には色とりどりの花が並んでいる。

 

 一目見て、『ここだ!ここで働きたい!』と思った。

 

 その時は高ぶる気持ちを、両親に知られたくなくて隠そうと必死だった。私が家を出たいと言ったら、2人はどんな顔をするだろう。

 おしゃれな料理の味も、食事中の会話も上の空で覚えていなかった。

 

 宿屋に着いて、ベッドに潜り込むと今日あったことを思い出した。

 あの花屋で働きたい以外にも、やりたいことがどんどん溢れてきて、その日はなかなか眠れなかった。


 ◆

 

 次の日、私たちは家路についた。

 町を出る時も、昨日の優しそうな門番が立っていて「またおいで」と声をかけてくれた。

 

 私は、歩きながら自分のやりたいことを整理することにした。

 あの花屋で働いてみたい。

 途中で見かけた、雰囲気の良い町に住んでみたい。

 一人暮らしもしてみたい。

 両親の力を借りずに、自分で草花を育てられるか挑戦してみたい。

 まずは、昨日買ってもらったエプロンドレスを着てみたい!

 

 私は、居ても立っても居られず、家に着くなり父と母にやりたいことをすべて話した。

 黙って私の話を聞いてくれた両親は、少し困った顔で顔を見合わせた。

 そして、少し小声で相談すると、静かにこう言った。


「……やってみなさい」

 

 それからは、早かった。

 

 父と母から草花のことだけでなく、生活に必要なことを出来る限り教えてもらいながら、風見の町へ何度か足を運んだ。

 そこで見つけたのは、日当たりのいい小さい庭がついている緑色の屋根をした家だった。

 あの花屋の屋根に似た家を、私は一目で気に入った。

 


 1つ季節が過ぎて、私は風見の町で花を育てながら独り暮らしを始めた。

 しばらくして育てた花を広場で売り始めた。

 最初は不安だったが、少しずつお客さんが増えるごとに自信がついた。

 

 風見の家には、時々両親が遊びに来てくれた。

 自分で育てたハーブを使ってお茶を出すと、二人とも嬉しそうに美味しいと飲んでくれた。

 

 時間ができると、森の向こうの町の花屋へ何度も通った。

 通ううちに、優しそうな門番――オルソンとも顔見知りになった。

 

 店主である、ビーバーのオリバーとも仲良くなった。

 手先が器用なオリバーから花束やリースの作り方を学ぶようになった。

 


 数年経った頃、実家へ帰った時に幼馴染のリオと久しぶりに会った。

 彼は、学校を卒業してから村を離れていた。大きな町へ行って先生になる勉強をしていたらしい。新学期から村の学校で先生として赴任するようだ。

 『またヒマワリの丘に行きたいね』と、小さい頃を懐かしむように話をして、それっきりだった。

 

 春頃、オリバーが体調を崩してしまった。

 初老だったこともあり、1人で店を切り盛りするには忙しかった。

 

「ミミちゃんが良ければ、うちで働かないかい?」

 

 お見舞いに行った時、提案してもらってとても嬉しかった。もちろん、二つ返事でOKした。

 オリバーの体調を考えると、少しでも早く引っ越した方が良いと思った。

 引っ越し先を早く見つけないと――。

 すると、オリバーがすぐさま答えをくれた。

 

「店の2階の部屋を使ってくれてかまわないよ」


 風見の町へ戻ると慌てて家を引き払い、大きな荷物を抱えて、風見の町から出てきてしまった。

 後から、誰にも事情を話していないことに気づいた。

 両親には、『引っ越します』とだけ書いた手紙を送った。

 

 きっと、みんな心配しているかもしれない。

 落ち着いたら、みんなに会いに行こう。

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