表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒマワリの誓い~郵便猫ルカの配達日誌~  作者: 咲晴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

お茶会

 時計を見るなり慌てて出ていくトゥーリの背中を、クルミは愉快そうに見送りました。

 

「おかみさんも案外せっかちじゃな……さて、わしも出かけるとしよう」

 

 クルミは、ルカから託された封筒を大切に鞄へしまうと、ふと気付きました。

 

「わしも、今日は郵便屋じゃのお」

 

 ホッホッホッと笑うと、クルミは、森の入り口にあるミナの家へ飛び立ちました。

 

 ◆

 

 その頃、森の中から籠を抱えたミナが出てきました。

 籠の中にはブラックベリーやラズベリーがたくさん入っています。

 

 暑いので爽やかなミントティーを出そう――ミナはそう考えました。ミントティーは飲むとスッと暑さが引いていきます。

 そこに今摘んできたラズベリーを加えることにしました。

 

 甘酸っぱさが足されて飲みやすく、ほんのりと赤みを帯びたお茶は、次の季節を連想させます。


 昨日のうちに作っておいたハチミツのパウンドケーキとも相性がよさそうだと、ミナは思いました。

 

 この時期の森で採れたハチミツは、ベリーの花を中心としたもので爽やかでとても香りが良いものでした。


 考え事をしながら、ミナは井戸から水をくみ上げました。ひんやりとした水で優しく転がすようにベリーを洗い、丁寧に水気をふき取るとボウルに移していきました。

 

 ベリーでいっぱいになったボウルを抱えて、ミナは家に入りました。

 時計を確認すると、そろそろクルミが訪ねてくる頃でした。

 

 ミナは、お湯を沸かしながら、ボウルからお茶に使う分のラズベリーを取り分けました。

 お湯が沸くのを待つ間、ミナはテーブルに肘をつき、組んだ手の上に顎を預け、そっと目を閉じました。

 やかんが、次第にシュンシュンと音を立て始めます。ミナは、この音を静かに聞くのが好きでした。

 

「そろそろね」

 

 ミナは、ポットにラズベリーを入れ、お湯を注ぎました。


 お湯の中でラズベリーがクルクルと回り、ゆっくりと赤い色に染まっていきます。

 甘酸っぱい匂いが広がってきたところで、ミナは、ミントを少し多めに入れました。

 ポットを丁寧に布で包むと、ミナは、また外の井戸へ向かいました。

 そして、桶を冷たい井戸水で満たすと、その中にポットをゆっくりと沈めました。

 井戸水でお茶を冷やすのです。


 ミナが、冷やし終えたポットを桶から取り出した頃でした。

 

「すまん、すまん。少し遅れたかの?」

 

 クルミが約束の時間より少し遅れて到着しました。

「いらっしゃい、クルミさん。ちょうどお茶が冷えたところよ。暑かったでしょ。さあ、中へどうぞ」

 

 ミナは、冷えたポットを抱えて、クルミを家へ招きました。

 クルミに椅子を勧めると、ミナは、ハチミツのパウンドケーキと一緒に、冷たいミントティーを出しました。

 

「ほっほう、これはまた綺麗じゃ。では早速頂くかの――これはこれは、体の中から涼しいのお」

 

 大満足の様子のクルミに、ミナは嬉しそうに微笑みました。

 

「それで、時間に正確なクルミさんが遅れたのは、何かあったんでしょ?町の方の風も少し騒がしかったし」

「さすが、お見通しじゃな」

 

 クルミは、羽で顎を撫でながらニヤリと笑いました。

 

「実はわし、今日は郵便屋代行も兼ねおってな――これ、ルカからミナさんへ手紙じゃ」

 

 クルミは、鞄から手紙を取り出し、ミナへ渡しました。

 

「ルカ、郵便送れないの?……具合でも悪いとか?」

 

 ミナは、封筒を受け取りました。

 

「ルカは、心配いらんよ。今日は、郵便局が大盛況でな、魔法使う余裕がないんじゃ」

 

 ミナは、封筒を開けると、中から手紙とヒマワリ色の封筒を取り出しました。

 ヒマワリ色の封筒には、『ミミへ』と書かれています。

 ミナは、何故ここにあるのだろうと、不思議に思いながら便箋を開きました。

 

 そこには、慌てて書いたことがよく分かる字で、こう書かれていました。

 

『僕の力では、届けられない手紙です。どうしても届けたいので、力を貸してください』

 

 ミナは、何も言わず、便箋をクルミに見せました。


「ホッホッホッ、ルカは相当慌てていたようじゃ。どれ、事情はわしから説明するとしようか」

 

 クルミは、お茶を飲んで一息ついてから、ルカから聞いた話をミナへ伝えました。ウサギの青年のこと、ルカがこの手紙から感じ取ったことを。

 そして、ミミが森の向こうの町へ向かった姿を見たことも付け加えました。

 

 

 ミナは、お茶を飲みながら、時おり目を閉じ、静かに話を聞いていました。

 

「なるほど……」

 

 話を聞き終えたミナは、小さく呟きました。

 そして静かに立ち上がると、キャビネットから少し大きめの封筒と便箋を数セット取り出し、テーブルへ戻ってきました。

 

 ミナは、1枚の封筒を手に持つと、念じるように目を閉じました。そして、その封筒には『ミナへ』と宛名に自分の名前を書きました。

 次に、便箋へサラサラとペンを走らせます。

 

 クルミは、ミナの様子を眺めながら、パウンドケーキに舌鼓を打ち、お茶で喉を潤しました。何を始めたのかと尋ねることもなく、ゆっくりとミナの作業が終わるのを待っています。

 

 ミナは、書いた手紙とヒマワリ色の封筒、そして自分宛の空っぽの封筒を、『ミミへ』と宛名を書いた封筒に入れました。

 それから、もう一枚の便箋を書き始めました。今度は少し長めの内容のようでした。

 ミナは書き終わると、『オルソンへ』と書かれた封筒に、便箋とミミ宛の封筒を入れました。

 ヒマワリ色の封筒は、また新たな封筒の中へ大切に包まれました。

 

「お待たせしました」

 

 手紙を準備し終えたミナは、クルミに声をかけました。

 

「わしのことは気にせんでええよ。それで、ミミに手紙を届けられるのかい?」

「確実はと言えないけれど……」

 

 ミナは、少し控えめに笑いました。


「春を過ぎた頃だったかしら――私、森の向こうの町にも森の恵みを卸しに行っているんだけど、そこでお花を抱えて走り去るミミを見かけたわ」

 

 それを聞いて、クルミは驚いたように目を丸くしました。

 

「やはり、あの子は森の向こうの町にいたんじゃな」

「ええ。それで、オルソン――あの町の門番さんとは知り合いでね、彼にミミへ手紙を届けてくれるように頼もうと思って」


 

 ミナは、一息ついて続けました。

 

「彼のところまでは、森の風たちが運んでくれるわ」

「なるほど、なるほど。それはいい……」

 

 クルミは、目を細めて顎を撫でながら、大きくうなずきました。

 

「私ができるのはここまで。あとは風まかせ――かしら。さあ、この手紙を運んでもらいましょう」

 

 ミナとクルミは、外へ移動しました。


 

 ミナは、封筒を両手に乗せ、空へ差し出すようにして、目を閉じました。

 

 しばらくすると、どこからか風が吹いてきてふわりと封筒を浮かばせたと思うと、ぴゅうと森の向こうへ運んでいきました。

 

「無事に届くとよいの」

 

 クルミは、風の吹いていった方向を見ながら呟きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ