25. 平民を甘くみないでいただきたい
何が一体どうなっているのか。とりあえず私は張り紙の見える場所まで近づくことのした。言い合っているのはクラスメイトであり幼馴染のアーサーだ。
そして対立しているのは第二王子ノーランド様と、イグナート様の従妹リリアナ様を含む貴族の子息令嬢たち。おそらくこの原因は張り紙の順位表だろう。
私の予想通り、1位がアーサーとノーランド王子で499点。私はなんと5位にランクインしている。
(やった!! 5位──って喜ぶのはあと!)
よく見れば4位、8位も平民クラスで、みんな50位以内に入っている。
この1年間の努力を考えれば当然の結果だろう。ただその事実を受け入れられないのが、彼らだということ。
「アンナ、講師と校長、理事長を呼んできてくれる?」
「ご安心ください。すでに生徒が呼びに行きました」
(よく見ているわ。すごい!)
「また私はナタリア様から離れないようにイグナート様から厳命を受けております」
(デスヨネ)
ともあれアーサーが渦中にいるのなら、面倒だけれど加勢に行くしかない。
「何を騒いでいるのですか?」
「ナタリア!」
「ナタリア・エイムズ!」
「はい。そうですがなにか?」
アーサーたちはホッとした顔で迎えてくれた。一方第二王子ノーランド様は、獅子の耳をピンと立てて睨んでくる。イグナート様の猛禽類のような鋭い眼差しと比べるとなんだか子猫が「しゃー」と威嚇しているよう。ノーランド様は今年12歳なのだが、飛び級で私たちと同じ学年の生徒だ。
正義感が強いのか、あるいは周りに唆されたのか。分からないが、先に仕掛けてきた。
「お前も不正を行ったの」
「証拠は?」
「え?」
相手の話を最後まで聞いて主導権を渡す気はない。間髪入れずに反撃に出る。
「そもそも今までのテストは前校長及び一部の講師が平民クラスにのみ圧政を強いていました。今までは八百長だったのですよ」
「そんな話は──」
「聞いているはずっすよね。国王陛下も学院の運営状況を知って、校長や講師を一掃したのですから。耳の早い貴族様や第二王子が知らないはずないでしょう」
「当然よ」
「あ、当たり前だ」
知っているという証言ありがとうございます。リリアナ様は前回の失敗を何も学んでいないようだ。
「でしたらその結果、今回から私たち平民は本来の実力を発揮する機会を得ましたこともご存知でしょう?」
「嘘をつ」
「ですが悲しいことに、いきなり成績が上がったと結果だけ見れば、不正したようにも見える。だから今回の期末テストの件について、騎士団長経由で国王陛下に頼み事をしましたの」
「「「「!?」」」」
第二王子を始めとした貴族連中の顔色が変わった。今さら気付いてももう遅い。彼ら貴族は自分の利益を得るため虎視眈々と獲物を狙う。けれど社交界にいる紳士淑女ほど老獪ではない。それにこれは、調べればすぐに分かることだ。
情報収集を怠ったこと、そしてこの程度のことを考えて無策でテストを受けるわけが無いでしょうに。散々辛酸を嘗めてきたのだから、このぐらいの強かさがないと2年まで生き残れないもの。
「皆様のように不審がる者が絶対に出る、そしてやっていない証明は難しい。悪魔の証明のようなものですもの。で・す・の・で・事前に王城から選りすぐりの魔法使い、諜報員、監察官を動かして不正を働かないか監視を付けて貰うように頼みました。結果、貴族側で不正をした生徒は謹慎処分になっていますが……ご存知なかったのですか?」
ざわめきが一気に広がる。そして動揺を見せた彼らに追い打ちを掛ける。
「それで話が戻りますが……『私たち平民クラスが不正をした』とか言っていましたけれど……証拠。あるんですよね?」
にっこりと微笑んだ。もちろん、校則では身分を笠にしないことはもちろん、証拠もないのに糾弾することは校則違反となる。
「(今も魔導具で音声録画中なのは言わなくてもいいか)……誰一人、言い逃れも見逃しもしませんわ。皆様も誉れ高き尊き血を引き付いた貴族様ですもの、家名に懸けて言うだけの覚悟があったのでしょう?」
「ぐっ……」
第二王子ノーランド様は黙った。他の子息令嬢も悔しそうな顔をしているが、言い返しては来なかった。言い返したら有責カウンターがグルグル回ると分かっているのだ。そこまでは馬鹿ではないらしい。
(これで沈静化したかしら。それにしても証拠もなしに言いがかりするなんて、誰が煽動したのかしら?)
「ナタリア・エイムズ!! それが何だって言うの! こっちにはノーランド様がいるのよ」
「「「「!????」」」
その場にいた全員が硬直した。事態の収拾が付いたと思った矢先、誰も得しない──むしろノーランド様がさらに恥を掻く行為を嬉々として行うのは、イグナート様の従妹リリアナ様だ。なんだろう、すごく頭が痛くなってきた。
「ここにいるノーランド様が一番偉いのよ! その方が不正と言ったら不正になる! そんなこともわからないの!?」
(うわぁ。……この人本気でそう思っているのかしら)
思わずノーランド様や他の貴族に意見を求めようと視線を向けると、全力で首を横に振った。良かった。他の子息令嬢はそこまで馬鹿ではないらしい。
「ノーランド様! 言ってやってください!」
「いや……」
「リリアナ様、この中で一番偉いのは法ですよ。学院では校則です。それを破ったら王太子だろうと、王子だろうと罰則になります」
「あああああ! もう、うるさいわね! 平民のくせに! イグナート様のツガイになったからっていい気になって!」
以前あったよりも冷静さが欠けている。なにより感情的すぎるのが気になったが、もう少し付き合ってみることにした。
「ここでイグナート様は関係ありませんわ。ただ降りかかる火の粉に対して、適切に対応しているだけです。この国は法治国家であり、法があるからこそ秩序が生まれて安全に暮らしていけるのですよ。授業でも習ったのを覚えていないのですか?」
「煩い、煩い。授業? 法よりも王侯貴族の言うことが全てよ。私たちが黒と言えば白いものが黒になるんだから。だから平民は大人しく貴族の言うことを聞いていれば良いの」
あまりにも屑な貴族らしい発言に、苦笑してしまった。
「第二王子ノーランド様、霊星歴1430年ジェントリ王国滅亡となった原因って、なんだか分かりますか?」
「え、ジェントリ王国?」
「アーサーは分かる?」
「もちろん、特権階級および絶対王政に対して市民と農奴が蜂起。理由は自由と平等と政治介入の権利を求めて革命起こす。それにより絶対王政が消えて、ジェントリ王国は現在、自由貿易都市ルミリアとして市民投票から都市の代表者を決定している」
「正解。他にも歴史を紐解けば、革命なら幾つもあったわ。その根源は国王や特権階級による圧政なの。虐げられる人たちの怒りと憎しみは膨れ上がって爆発したら、国を簡単に滅ぼすだけの力を持つ。だからこそ階級にそれぞれの役割と責務を持たせ、それらを法という番人を置くことでまとめ上げる。法こそが国を結び、円滑にする潤滑油であり、誰であろうと罰することができる弱者にとっての盾であり槍。力を持ち、上に立つ者は血塗られた歴史を繰り返さぬよう忘れずに、歴史を深く読み解く──そうですわ、皆様」
これは公爵夫人から教わったことだ。それを知ってイグナート様の実家が好きになったし、そういう矜持を持っている公爵も夫人も素敵だと思った。
いつか私がイグナート様の隣に立っても恥ずかしくないように、色々教えてくださったのが今役にたっている。
(ありがとうございます、公爵夫人!)
「知らない間に俺の幼馴染が超絶パワーアップしている」
「公爵家で色々あったんだろうな」
アーサーたちクラスメイトは、なぜか労るような視線を向けてくる。対して第二王子ノーランド様やリリアナ様は悔しそうな顔で言い返したそうだが、黙って睨んでいた。
「そこまでだ」と、校長の到着でようやく状況は完全に沈静化した。双方の意見を聞き、最終的に平民クラスに「不正だ」と言った王侯貴族の子息令嬢たちは、校則違反となり内申書の評価が下がったこと、また王家とそれぞれの実家に、今回の一件と罰則内容を送られることで決着。
罰則は謹慎や宿題などだ。それは平民だろうと貴族だろうと関係なく、等しく振り分けられた。最後まで抵抗していたのはリリアナ様ぐらいか。ノーランド様は言い返せずに苛立っていたが、自分が不利だということは分かっていた。
(思い切りしゃしゃり出てしまったけれど……幸いにも今の私には他のクラスメイトよりは後ろ盾がある。アーサーたちがターゲットになるよりは、私が矢面に立ったほうがマシなはず)
口ではああ言ったが老獪な貴族であれば、法の抜け道やリリアナ様の言うようにお金に物を言わせて嫌がらせや難癖を付ける、急な商談の白紙──エトセトラを実家の商会にネチネチとやってきたのだ。そのやり口もえげつないものだったし、火事にだってあった。
今でも貴族に思うところがないわけでもない。ただそれでも、そうじゃない本物の貴族を知ったから、だから私は違うことは違うということにしたのだ。
(イグナート様がいるから大きく出たけれど……うーん。虎の威を借る狐的な感じでイグナート様に嫌われないかしら?)
「全く問題ないかと」
「あ、アンナ!? 心を読まないで!」
「むしろ頼られまくったほうが喜ぶと思います」
「う、うん……。そうね」
昼時間で会うときに相談してみようと、商談する気持ちで報告書を書こうとしたらアーサーに「それは辞めてあげて差し上げろ」と止められた。何故に。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
次回以降は週一ペースでは更新頑張ろうと思います(о´∀`о)
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