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24. 思いを言葉と態度に

 この方は時々不安になる。あれは内緒話であって仲が良いとかではないと思うのだが。でもそれは人族()の感覚であって、イグナート様は違うのだろう。


「ピピ、ピイピイ(素敵な婚約者が付き添ってくれたので、労ったらどうかと勧められたのです)」

「そ、そうなのか」


 イグナート様は頬が赤くなって、羽根がバサバサと揺れた。どうしてこんなにイグナート様は不安になるのか。番紋もあるのですっかり安心したと思うのだけれど、これは結婚前のマリッジブルー的な心境に近いのかもしれない。

 幸せなはずなのに無性に不安になる、落ち込みやすくなるなどなど。


『……ツガイ療法とは、完治するまではできる限り傍にいること、スキンシップをなるべく多く取ることで、自然治癒力が増幅して早期回復を促します』

『こう言う時にツガイが傍にいることでツガイを守るという本能が強まり、免疫力や耐性を向上させるのです!!』


 ふと医師の言葉を思い出す。もしかしたら、毒の副作用でイグナート様の心がよわよわで不安になりやすいのかもしれない。イグナート様はデリケートで、心配性で、過保護だから。

 よし、と気持ちを改める。婚約者としてイグナート様が不安になるのなら、今まで以上にスキンシップや愛情表現を大袈裟と思うほどやっていこう。これならイグナート様も喜ぶはず。


 まずはイグナート様と手を繋ぐ。ここでは恋人繋ぎをいきなりして、少し歩きにくいが引っ付く。


「な、ナタリア?」

「ピ、ピィピピ(イグナート様、大好きです。特に黄金のキラキラした瞳とか、いつも真剣なところとか、照れてしまうところも可愛くて好きです)」

「!?」

「ピピピ(私はイグナート様の手も、声も、ハグした時の安心感や温もりも大好きなのですよ)」


 イグナート様が固まってしまったが、こんなのは序の口なのだ。背伸びをして頬に触れる程度のキスをする。


「ピピィ(これでちょっとは不安が消えましたか?)」

「ナタリア」


 ギギギギギ、と油の切れたブリキの人形のように首をゆっくりと動かす。羽根は困惑しているのかふるふると震えている。


「もしかして無理をしたせいで熱が?」

「ピ?(はい?)」

「それとも試験で疲れたから知恵熱が出たか?」

「ピ!?(え!?)」


 イグナート様は私を抱き上げると、一目散に馬車に向かってしまう。ああ、途中のカフェテリアで期間限定のメニューを見て「今度一緒に行こうとか話をしよう」と思ったのに計画が頓挫した。

 馬車に乗り込み、そのまま屋敷に戻るように指示を出してしまう。

 なんとも上手くいかない。愛情の伝え方は種族によって異なるので、もっと勉強すべきだろうか。悶々と悩んでいると馬車が走り出したようで、振動が感じられた。


「ナタリア、気分は? 欲しいものは?」

(どうしよう。今度は違う心配をかけてしまっている……)


 イグナート様の両頬に触れる。少しひんやりしているが心地よい。


「ピピピィイピ(熱はないですよ。医師に言われた言葉を思い出して、これからはもっとイグナート様を好いている気持ちをお伝えしようって思ったのです)」


 羽根がぶわり、と広がって私を隠してしまう。ふわふかで温かい。でもどうして狭い馬車の中で羽根を広げて私を隠したのだろう。


「そういう愛情表現を公衆の面前でしては、他の男がナタリアに惚れてしまうだろう」

(そんなことないと思うのだけれど)

「だから。そういうのは馬車の中か家ですべきだ」


 イグナート様はぐっと顔を近づけて、私の唇に触れる。それは触れるような優しいものだったけれど、あっという間に深いキスになっていく。

 煽ってしまったのだと後悔するも、すでに遅かった。



 ***



 その日からイグナート様のスキンシップとキスが増えた。特にキスは今までの比ではないくらに長くて濃厚で、甘々な感じだ。イグナート様もマリッジブルー的な落ち込み具合が消えて、毎日嬉しそうなのは私も嬉しい。

 そしてようやく私の「ピ」語から解放された。


「やったーーーーー!」

「私とだけ会話が通じる期間がもっと長かったら、もっと一緒に居られたのに……」


 イグナート様は今日から騎士団の仕事に復帰する。ただまだ副作用の影響が残っている可能性があるので、勤務時間は私の授業が終わるまでらしい。


 今日も朝からイグナート様は私に甘々で、キスを求めてくる。よくよく思い返してみると、初めてのハグをしてからしばらくの間は、抱擁の時間がもの凄く長かった気がする。つまりこれはいつものアレだ。


(加減を知らないイグナート様なりの愛情表現!)

「ナタリア。唇が少し赤くなっているが大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃないです! イグナート様がいっぱいキスするから赤くなっちゃったんですよ!」

「なっ、それはすまない。……ナタリアが可愛すぎて……小さな口でとても柔らかかったが、そうか皮膚が弱いとこうなってしまうのだな。本当にすまない……」

(ああ……)


 分かりやすくヘニャリと羽根が萎れてしまうし、金色の瞳も潤んでいる。罪悪感が途端に膨れ上がった。


「で、でもリップを塗っておけばすぐに直りますけど、長めのキスは禁止です」

「…………」

「治るまで禁止です」

「………………………」

「唇以外のキスならいいですよ? 私からは治るまで出来ませんが」

「…………わかった」


 その日、イグナート様が神官様を呼ぼうとしたので全力で止めた。全然わかってない!

 帰りに寄り道デートを提案したら、喜んでくれたので良しとしよう。そうしよう。


(今日は刺繡屋に行って、それからレストランで食事。期末テストの結果次第でイグナート様と夏の予定を詰めよう)


 位50位以内に入ると、夏休みに理事長の別荘で一ヵ月自由研究という名の息抜きができる。それ以外にも色々と報償が与えられるのだが、今回はかなり上位に食い込んでいるだろうから、ちょっと期待してしまう。


(あーでも理事長の別荘に泊まりになるかもしれないって話したら、イグナート様……絶対に付いてくる気しかない)


 絶対に行かないでほしい、なんてイグナート様は言わない。私のことを考えて相談して、一緒に決めてくれる。優しくて、温かくて、分かりやすくて可愛い人。可愛い人は未だに誰からも「そうだね」とは言って貰えず眼科か脳外科を勧められる。解せぬ。


「ナタリア」


 いつものように予鈴ギリギリまでイグナート様にぎゅうううっと抱きしめられて、羽根で隠されている。唇のキスは約束通り守ってくれているが、頬とか額とか色んなところへのキスは止まらない。


「イグナート様、お仕事頑張ってきてくださいね」

「──っ、今日もナタリアが可愛い」

「今日は私からキスが出来ないので、お手紙を書いておきました。馬車の中で見てくださいね」

「ナタリアからの手紙」


 金色の瞳がキラキラして、羽根がバサッーーと広がった。分かりやすく喜んでいるので、嬉しくなる。

 予鈴が鳴ったので名残惜しそうにイグナート様は私を手放す。傍に控えていたアンナは鞄を持っているので、このあとダッシュするのを想定して持ってくれているのだろう。とっても有り難い。


「イグナート様、それではまたお昼休みに」

「ああ。何があっても迎えに行くので待っていてくれ」

「はい(何があっても……うん、深く考えないようにしよう)」


 イグナート様を乗せた馬車が走り出したところで、私とアンナもダッシュで教室に向かう。予鈴が鳴っても通常であれば十分に間に合うのだが、今日は期末テストの結果が張り出されているのだ。何位だったのか。自己採点では15位以内は確実だと思っている。


(10位以内かが気になる。今回はイグナート様にもみっちり勉強を教えて貰ったし、アーサーたちから授業内容のノートも貸して貰えたんだもの。過去最高得点を叩き出したはず!)


 期末テストではいつも違う意味で緊迫していた。目立たず、中間を狙っていたのだ。でも今回は正真正銘、自分の全力を出し切った。


(何位かなぁ──)

「カンニングだ!」

「そうだ、絶対に不正に決まっている!」


 期末テスト順位発表の場所で、騒ぐ声が聞こえてきた。しかも貴族と平民の生徒同士で、言い争っている状態だ。


(なにこの状態!? 本当なに!?)

久しぶりの更新です・:*+.\(( °ω° ))/.:+

お待たせしました(*´-`)

ようやくピ語から解放された矢先に……面倒なことに。果たしてナタリアは無事にイグナート様と昼食が迎えられるか。お楽しみにいただけたら何よりです。


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

お読みいただきありがとうございます⸜(●˙꒳˙●)⸝!


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