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20.出会い編13

「奇跡的に魂の波長が物凄くピッタリしていることと、イグナート様の重愛によって番紋が正常に動いています。……そのお姿も、イグナート様の魔力が高すぎるための余波のようなものです」

「ぴ!(どのぐらいで、元に戻りますか?)」


 手を挙げて尋ねてみたが、神官様には伝わらず……代わりにイグナート様が通訳してくれた。

 それにしても、こんな朝っぱらから神官様を呼び出すって、貴族様はすごいのね。


「ナタリアが元の姿に戻るのは、いつだ?」

「イグナート様の魔力が高いので、数日はこのままかもしれません。因みに番紋が定着するまではできるだけ、お二人は傍にいることを推奨します。特に今回のような略式での番紋を施したのですから、そのぐらいの対処が必要かと」

「ピィィーー(期末テストがぁああ)」


 私はイグナート様の腕の中で項垂れた。数日もこの姿なのも凹むけれど、何よりも学院に行けないこと、勉強が疎かになることがショックだった。

 せっかく頑張って、いい点を取ろうとしたのに……。こんな姿じゃ、ノートすら取れないわ。


「ナタリア、全て私の責任だ」

「ピィ、ピ(イグナート様、その通りです)」

「……ぐっ」

「ピィピピイピィ(イグナート様が仮番紋のせいで、焦っていたのも、不安で苦しかったのもわかってます。でも私に色々説明するのをすっ飛ばして、番紋を施したことはまだ怒っています! プンプンです)」

「本当にすまない」

「ピイピピピピィ(謝罪だけでは許しません。私が元の体に戻るまで一緒にいて、私の勉強を見てください! いいですね)」

「ナタリア……ああ、もちろんだよ」


 イグナート様が私を抱き抱えるので、モフモフされるがまま身を委ねた。スキンシップは大事ですからね。まあ、傍から見たらアヒルの子を大の大人が抱き抱えているって、結構シュールだと思う。


 もっとも、神官様は「愛ですな」と微笑ましく見守り、イグナート様のご両親は「しっかりした子を嫁に選んで……」と号泣している。


 本当は物凄く怒っているけれど、半分は私の行動がイグナート様を不安にさせてしまったせいだもの、イグナート様だけを責めるのはダメだわ。

 授業に出られないのは、すごく悲しくて辛いけれど嘆いて、いじけて、怒ったままじゃ解決しないもの。


 それに「ピイイイイ! ピィピピピイ!(イグナート様の馬鹿ぁああ、イグナート様なんて嫌い!)」って一度言ったら、絶望して回復するまで3時間かかったのよね。すっごく面倒──大変だった。

 ちなみこれは後で学んだことだが、番に嫌われることが亜人族共通の弱点らしい。今後夫婦喧嘩が必要になったとしても、話し合いで解決して感情的にならないようにしよう思った。



 ***



 翌日。イグナート様は騎士団に連絡を入れて、数日休暇を取った。私の両親には初日から伝令を送っているとかで、ホッとした。

 

 朝ご飯はイグナート様に食べさせてもらって、至れり尽くせり。この体で、お腹が空いていると力が出なくて項垂れてしまうみたいで、イグナート様が甲斐甲斐しく世話をするのも、ぐったりしている姿を見ているのが辛いからだとか。

 イグナート様は過保護だわ。サラサラの長い黒髪、整った目鼻立ち、鋭い眼光がいつもより近くにある。その眼差しは、こんなにも温かくて優しい。


「ピ!(イグナート様)」

「なんだい、ナタリア?」


 グッと顔を近づけてきたイグナート様に、嘴を何度か頬に付ける。キスをしているつもりなのだけれど、できているかしら?

 ちらっとイグナート様を見たら、ご機嫌のようだわ。その顔を見ていたら、愛おしい気持ちが湧き上がってくる。

 早く人の姿に戻って、イグナート様を抱きしめたいわ。好きだと言うのもその時に、ちゃんと伝えよう。


「ピピピイ!(でもまずは、期末テストよ! 目指せ上位10位内!)」

「ナタリアが可愛い。……しかし中間テストでは中の下ぐらいだったのに、急にそんなに高めの目標設定にしていいのかい?」

「ピッピピイ(中間テストはできるだけ目立たないような点数にしていたのですが、もうその必要もないですからね。全力で上位を狙います)」


 あはは〜と明るく言ってみたけれど、イグナート様の顔が固まり、激高するのがわかった。背中の翼もバッサーっと大きく見開いた。


「平民だからと三年生になるまでは、目立たないようにしていたのだったな」


 全くもってその通りなのですけれど、何をするつもりなのでしょう!?


「やはり関係者はみな、鳥葬……いや百舌鳥の早贄……」

「!?」


 思った以上に、とんでもないこと考えていた!?

 これは可及的速やかに、話を逸らさないと!

 あざとさを駆使して、上目遣いで頼んでみた。いやまあ、この姿だと上目遣いもなにもないけれど。


「ピィ(イグナート様、勉強を教えてください!)」

「ナタリア……! どこでそんな魅惑的な笑みを覚えたんだ」


 予想以上に効果抜群だった!?

 イグナート様、チョロすぎです。今後、こんなので大丈夫なのかしら。すごく不安だわ。

 そんなこんなでお昼まで、教科書のページを捲ってもらったり、時々オヤツを食べさせて……最高の環境での勉強になった。唯一不服があるとすると、ノートのメモが書けないことぐらいだろうか。


「ナタリアは優秀だな」

「ピピ(イグナート様の教えが上手なのです)」


 さすが公爵家。イグナート様の知識や頭の良さは、ピカイチだった。そんな感じで昼食となり、私はイグナート様に抱っこされたまま、食事の部屋に向かう。

 公爵家はとても広くて、財力の差をヒシヒシと感じられた。相変わらず住む世界が違うって、突きつけられるわ。


 別世界の光景。

 そして食事の部屋も、色んな意味で別世界の光景が広がっていた。たくさんのワインボトルがテーブルに置かれているのだ。何事!?


「ピ(今日はワインの品評会かなにかですか?)」

「いや? そんなはずはないが」

「ああ、イグナートか」


 ワイングラスを片手に、公爵様と夫人が奥の席で座っていた。義両親はワインが好きなのかしら?


「どうしたのですか? こんなにワインを開けて」

「今年のワインの出来があまり良くないのよ。でもいつも取引をしている商会なのだけれど、今年は不作でこのワインもかなり安く買い叩くしかないって……」

「だがこの味では、パーティーの客人に出せず悩んでいたのだ」

「ピィピ?(パーティーがあるのですか?)」


 コテンと小首を傾げていると、全員の視線が痛い。


「娘となる君を紹介するためのパーティを考えていてね! せっかくだから、夏の収穫祭もかけて盛大にしようと思っていたのさ!」

「そうよ! やっと会えたのだから、華やかにしたいわ。それなのに……冬のワインのできがねぇ」


 この国では四季によって、様々なブドウが実る。去年の冬に取れたブドウは、今頃飲める時期になるのだが、冬のブドウのできはできるだけ寒い期間に収穫できたかによって、旨みが異なるのだ。

 しかも氷に似て温度が高くなると、旨みが薄れてしまい味も落ちてしまう。そもそもここ数年で商品化したワインでもある。


「ピ、ピピイピピ!(普通のワインよりも味が劣るのでしたら、サングリアにしたり、ワイン風呂など美容に良いと聞きます。ワイン塩などは料理に取り入れるだけで香りを楽しめますし、貴族様的には好きな方もいるのではないでしょうか)」


 いつもの商人の感覚で案を出してみただけなのだが、イグナート様を含めた全員の目付きが変わった。な、なにか変なことを言ったかしら?

 それとも貴族様的に、なにか気に障った?


「ナタリアは、本当に凄い着眼点を持っている」

「サングリアは見栄えもいいな。ワイン塩もワイン好きなら流行るな」

「なんて凄いの!? まさに金のガチョウだわ」


 いえ、今の姿はどう見てもアヒルの子どもです──って、そういう意味じゃなかった。ちなみにアヒルさんはマイペースらしいから、私らしい気がする?

 こうして私はあっさりと、本当にごく自然に公爵家に受け入れられた。もっとも、私のことを良く思わない人にとっては、面白くないことだったのだろう。

 パーティー当日、事件は起こった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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