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19.出会い編12

 カチカチカチ。

 たくさんの時計の針の音、音、音。

 鐘の音色の次は時計の針の音と、もう訳がわからない。身体中が温かくて、ポカポカする感覚がする。なんだか心地よい湯船に浸かっているかのよう。


 イグナート様があんなに余裕がなくなるなんて、よっぽどのことだったということよね?

 まあ、でもちゃんと説明してからが良かったから、その点はしっかりと抗議しないとだわ。一方的なのは絶対に嫌だと話をして、折り合いをつける努力をお互いにする。


 どちらかが無理をする関係は、どこかで破綻してしまうもの。うん、起きたらそう話そう。


『そう冷静でいられれば、いいけれどね』

「え?」


 急な声に気付けば真っ白な部屋の豪華な椅子に座っていた。現実味のない空間で、真四角な部屋なのに、壁の端が宵闇色に染まって空間が崩れていくのが見える。夢の不思議空間……そんな感覚で周りを見回していると、ぽぽん、と植物が芽を出して人の形を作った。

 若草色の青年で、なんというか妖精のような精霊のようにも見える。

 私の夢ってこんなに想像力が豊かだったかしら?


『キミ、魔力とか全くない人だったのに、あんな最高位の魔力を受け入れたら危険だったんだよ?』

「それは、すみません」

『普通は準備とかもあって、番紋の知識とか手順を踏まないといけないのだけれど、キミは運が良かった。魔力に見合うだけの愛情があったから、数日で番紋も定着するだろう。これでキミの道筋も大きく変わった。人は小さな選択肢を積み重ねて、今を形成する。キミは【運命のツガイ】という新しい道を選んだ。それは今までの道とは異なる。その選択肢に迷いはない? 不安は? 後悔は? 【運命のツガイ】となる相手が彼で本当に大丈夫かい?』


 ペチャクチャと尋ねてくるけれど、そこに悪意はないし、興味本位とかではなく、なんというか本当にそれでいいのか? そう自分自身に問いかけられているような、そんな気がした。


 最近色々あって自分自身でも振り返りが必要だったから、夢として脳内会議的な感じってことなのかも?


「……イグナート様が可愛いのに、誰も賛同してくれないけれど、そんなことないわよね!? あんなに分かりやすくて、目を見たら何を考えているのか分かるし、翼だってすごく分かりやすい反応を見せるのよ」

『あーーーーうん、そうだった。キミってそういう魂だった。数多の可能性の中から魔王になりえる者を選ぶんだから、肝が据わってというか、なんというか』

「イグナート様はイグナート様よ。私を助けてくれたのも、私がいいと言ってくれたのもあの人だもの。まだ一緒にいる時間は短くても、この先の時間を一緒に過ごしてもいいと思えるぐらいには好きなのよ」


 人の形をした青年は「そっか」と嬉しそうだ。


『心配しなくても、その辺りは大丈夫そうかな。まあ、運命が大幅に変わって一、二回は死に戻りするかもしれないけれど、まあ、頑張ってね』

「え? 何そのいらないフラグ。やめてほしいのだけれど」

『まあまあ、僕だってキミには生きてもらわないと色々困るから、頑張ってくれ。そこは本当に。キミの子──まあいいや。それとこの空間内での記憶は目が覚めたら消えて忘れてしまうから、ごめんね』

「はいいいい!?」


 重要なことなのに覚えて居られないなんて、すんごく困るのだけれど!

 そう文句を言おうとしたが、あっという間に形が崩れて世界が崩れ落ちた。世界に亀裂が入って、何もかも万華鏡のように煌めき、体が浮遊する。


 ふわりと感じるのは、馴染みのあるイグナート様の香りだ。

 ギュッと抱きしめて、頭を撫でる。ああ、馬車でうたた寝をしてしまったのだわ。なんだか色々あったような気がするけれど、なんだったかしら?

 うんうん、唸っている間に私の意識は浮上し、そしてとんでもない現実と直面する。



***



「ピイ?」


 変な声が出た。自分が発したとは思えない声。

 おかしいと思って「あ、あ、あー」と声を出してみたが全て「ピ、ピ、ピィー」となる。どうして?


 声が変。

 視界もなんだかおかしいような?

 というかここはどこ?

 私はナタリア。うん、自分のことは覚えている。気絶している間に一体何が──!?


 目の前にすやすや眠る黒髪の、イグナート様がドアップでいる。しかもバスローブ姿で鎖骨とか見えてしまっているわ。

 どうして添い寝!?

 とりあえず、イグナート様を起こして……。


 そう起き上がった私の視界の高さがおかしい。さっきとあんまり変わらない。顎に手を置いて考えようとした瞬間。黄色い羽根が目に入った。


「ピ、ピイイイイ(え? えええええええええ!?)」

「──っ、ナタリア!?」

「ピイイーーー!(イグナート様ぁああ!?)」

 

 飛び起きたイグナート様に、思わず飛びついた。この訳の分からない状況をなんとかしてくれる。そんな期待を込めて、腕に縋り付く。

 私的には危機的状況なのに、イグナート様はいつになくご機嫌だった。


「自分から抱きついて来て、なんて可愛いんだ。ふわふわで柔らかくて、温かい」

「ピ?(イグナート様?)」

「なんだい? ナタリア」

「ピィピ?(私の今の状況って、どうなっているのでしょう?)」

「番紋を施したから、今は体に馴染ませる段階だな。その影響で、愛くるしいアヒルの子供の姿になっている」

「ピ?(段階……?)」


 小首を傾げる私に、目がキラキラして機嫌も良かった顔が一瞬で凍りつく。いや固まっている。


「……ナタリア、【運命のツガイ】の知識はあるのだよな」

「ピ!(はい!)」

「手を挙げて可愛い……。じゃなくて、では番紋を施すにあたっての知識は」

「ピイ(ないです)」

「え」

「ピピピピイ(番紋を施したら、夫婦扱いという認識ぐらいです。なので番紋を施す前に説明してほしいと言いました!)」


 プンプン、と怒っているとアピールしたがイグナート様は固まったままだ。ん? そういえばさっきアヒルの子供の姿って言ってたような?

 自分の体を見回すと全体的に黄色いし、ふわふわしている。その事実に衝撃を受けた。


「ピイイイイピイピピピィ……(にょおおおお!? これじゃあ期末テストがぁああああ! ペンも持てない……)」

「なんて可愛いんだ──じゃない! 番紋を施すのは双方の承認と知識が不可欠だ。今すぐ父上と母上に診て頂こう!」

「ピ!?」


 イグナート様は私を両手で抱き抱えると、あろうことかバスローブのまま部屋を飛び出した。流石にそれはまずいでしょう!

 ジタバタするも、イグナート様は「動きがいちいち可愛すぎる」と、人の話を聞いちゃいない!

 すれ違う使用人もいないし、そのまま豪華な部屋の扉をノックなしに蹴破った。

 なんですか! そのワイルドな入り方!?


「父上、母上。緊急事態です。ナタリアの体を見てあげてください!!」

「ほぉ」

「まあまあ」


 公爵家当主と夫人は部屋でワインを飲んでいたらしく、片手にワイングラスを持ちながら私とイグナート様を睨んだ。

 朝っぱらからワインって……。それにしても、お二人とも眼光が鋭いわ。でも……。


「なんて可愛いふわふわなんだ!? それが私たちの娘になる子か? 可愛すぎないか!」

「まあまあまあ! なんて愛くるしいのかしら。番紋の定着はしっかりしているし、意識もある。精密検査をするなら、今すぐに神官を呼びつけましょう。可愛い未来の娘のためだもの」


 言葉と声と外見のギャップがすごい。そしてご両親揃って目が、ものすごくフルフルしている。こんな形でのご義両親と対面って、なに!?

 これ普通なの!?

 番紋を施すと、みんなこんな風になるの!?

 どなたか! どなたかこの状況の説明と解説をお願いします! 期末テストまでにはなんとかなるわよね!? 


 私の悲痛な叫びは、「ピィイーーー」と愛くるしい声に変換されてしまっており、イグナート様に大変愛でられるだけでした。がっくし。


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