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17.出会い編10

 思わず即答してしまった。

 でも本心だ。


「面白い推測だと思いますが、私が出会ったのはイグナート様です。それが答えで、私はそれが嬉しく思っています」

「うん。清々しいほど真っ直ぐな言葉だ。……この仮説で面白いのは、番紋を結ぶ前なら奪い去ることも出来るのではないか──と」

「!?」


 ガルシア様は、先ほどの王子様らしい笑顔を削ぎ落とし、真顔かつ低い声で呟いた。

 婚約はした。それは契約書を取り交わしたものであって、番紋は施していない。

 なので亜人族側からすれば、【運命のツガイ】とはみなされないと言うことなのだろうか。現在友人以上恋人……ぐらいには進展しているけれど、それでも「隙があるように見える」と言うことを示唆している?


「なんて考える輩もいること、君自身の価値が今とても高くなっている。そのことを忘れないでいたほうがいい」

「ご忠告ありがとうございます」

「うん。怖いことを言ってごめんね。少しでもこの情報が役に立ったのなら、僕と友人に」

「それは謹んで辞退します」

「即答か。まあ、そんな風に扱われるのも存外悪くない新鮮な感覚だ」

「その感覚は是非ともこの場で、三千世界にポイしちゃってください」

「それは嫌だな」


 ガルシア様は普通の青年と同じような口調で、楽しげに笑った。おそらく私がイグナート様の【運命のツガイ】になって、自分なりに態度を改めたからこそ、王太子殿下の目に留まったのだろう。


 私がイグナート様と出会い、偶々、学院の実態を騎士団長たちに話して、事実を白日の元に晒したから。王太子殿下も独自で調べていたが、巧妙に隠されていたため証拠を得るのは難しかった。

 自分には見つけ出せなかったからこそ、私に興味を持っただけ。でもこの件を、王太子殿下が口にすることはないだろう。


 それこそ第二王子派閥にとって、王太子殿下の失敗は美味しい話なのだから。それとも私と殿下が仲良くすれば、政治的な意味で私が王太子殿下の傘下、つまりはイグナート様公爵家を後ろ盾にすることで、今回の一連の事件を自分側の功績にしようとしている?


 うーん。旦那様の公爵家陣営や政治的なことは噂程度だから、私には判断できないわ。とりあえず、何も知らないままで通す。


「助けて頂いてありがとうございます。それでは失礼します」

「うん……」


 何か言いかけそうな気配がしたので、足早にその場所を離れた。



 ***



 アンナと共に、騎士団施設の窓口で入館手続きを行い、演習場を案内してもらった。


 演習場は円状のコロシアムに似た作りになっていて感動した。王都にある闘技場は入場料が、そこそこ高いのだ。

 騎士同士の戦いが間近で見られるなんて、楽しみだわ。そう思って演習場に出ると、華やかなドレス姿に身を包んだ令嬢の黄色い歓声が聞こえてきた。大賑わいなようで、すごい熱気だ。


「きゃーーーーー、団長様よ」

「騎士様ーーー」

「エディ様ーー、頑張ってくださいませ!」


 なんだか場違いな空間に来てしまった気がする。しかも制服のままだし……悪目立ちしそう。うーん、でもイグナート様の戦いぶりはみたい……。見に行くと約束もしたもの、約束を違えたら、きっと悲しんでしまうわ。


「そこの貴女」

「は、はい!?」


 唐突に声をかけてきたのは、猫耳のご令嬢だった。声や雰囲気から悪い感じはしなかったので、少しホッとした。


「見ない顔ね。推しによって見えやすい席に座れるようにしているのだけれど、貴女は誰を見にきたのかしら?」


 すごく優しい人だった!

 しかも推し……応援する騎士様の近くで観戦ができるなんて、なんて親切なのかしら。一瞬身構えてしまったのが、申し訳ないわ。


「副団長のイグナート様を見にきました」

「!?」


 黄色い声が一瞬で消え、令嬢全員の視線が私に向く。なんで!?


「え、あの魔王の!?」

「魔王の傍だなんて、命知らずだわ」

「死にたいの!?」

「早まらないで!」

「そうよ。不用意に死神と目が合っただけで、三日は寝込んだんだから」


 魔王……死神?

 とんでもなく物騒な呼び名が付けられている!?

 確かに騎士の黒衣姿はかっこいいですが、それなら黒衣の騎士とか、もっとかっこいいのは良い……って、今は二つ名は置いておいて。


「落ち着いてください。イグナート様はとても可愛らしい方で、魔王や死神とは違います!」


 沈黙。

 その場の全員の息が一瞬止まった。


「わ、わたくしが良い医者を紹介しますわ!!」

「目に良い薬草なら私も多少知識が……!」

「新たな被害者が出てしまうなんて……」

「あるいは呪いかしら……なんて酷い……」

「あのぅ……、私は」

「そこまで!」


 訂正しようとしたところで、先程声を掛けてきたご令嬢が言葉を被せてきた。


「わたくしも声を荒げてしまいましたが、もしかしたら彼女は、副団長のような特殊な方がドストライクなのかもしれまんせんわ!」

「まあ、なんてニッチな……」

「でもあり得なくはない……かしら?」

「でも……タイミングが悪かったわね。イグナート様はつい最近、【運命のツガイ】を見つけたらしくて、その方を落とすために朝の出迎えに、一緒の昼食、夕方の送り迎えと甲斐甲斐しく世話を焼いているの。……おそらく勝ち目は……ないわ」

「ツガイになった方が、健やかであれば良いのですが……」


 それ私なのですが……。毎日お迎えしてくださって、一緒に美味しいご飯……控えめに言って最高なライフを送っているので、ご安心ください。

 それにしても、ここにいらっしゃるご令嬢は、ツガイとなった私側の心配をするなんて意外だわ。学院にいる貴族令嬢って、なんというか傲慢だったけど……。


「あの、そのイグナート様の婚約者様は平民だと聞いたのですが、それでも心配を?」

「当然ですわ。ツガイに選ばれることは名誉なことですが、一方的な形での結婚はどうしてもねぇ」

「ええ。私たちは一族のためにも良縁のある殿方と婚姻を結びますけれど、できれば心も通じ合わせたいですから」

「政略結婚も最近は、両家と当人同士の意向も汲んでくれることが増えているのよ」


 令嬢たちの声は明るくて、心から思って言っている言葉だとわかる。

 殆どの貴族が平民を見下していると思っていたけれど、そんことなかったのね。


「そうなのですね」


 ザワッ。

 ふと演習場の空気が変わった。今までは緊張感があったが、それが一瞬で凍りついたのだ。演習場に視線を戻すと、イグナート様の姿があった。

 見慣れた騎士服なのだが、何故か漆黒の鉄仮面を付けている。額から鼻までで口元は晒していた。いつも私と一緒の時は素顔だったので、これはこれで新鮮だわ。


「皆様、副団長よ。速やかに魔眼対策用眼鏡あるいは傘を使って各々被害を出さないように」

「ええ」

「もちろんですわ」


 イグナート様と目が合うと倒れてしまうから、対策も必須なのですね。確かに倒れられるよりは良いけれど、目が合わないっていうのは寂しいわ。

 ご令嬢の座る場所もできるだけ離れていたけれど、私は最前列に向かった。


 もっと近くの観客席でイグナート様の雄姿を見なきゃ、と円上の演習場に向かって手を振る。


「イグナート様! 頑張ってくださいね!」

「!?」


 イグナート様は私に気づいたらしく、大きな翼を広げて、バッサバッサと連れていた。あ、思っていた以上に上機嫌だわ。

 その後の戦いはとても素晴らしい──というか一方的な戦いだった。瞬殺という言葉がピッタリで、反撃の隙を与えない。


「ちょ、まっ」


 痺れるほど容赦ない剣戟と旋風の応酬。戦闘力が本当に高いのね!

 本来は力が拮抗して、双方がぶつかり合い駆け引きにあるらしいけれど、イグナート様の一方的な貴重な騎士の戦い(?)を楽しんだ。



 ***



 演習が終わった後、イグナート様は颯爽と私に駆け寄って、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「ナタリア!」

「イグナート様。お疲れ様でした」

「……!」


 一瞬だけイグナート様の体が、硬直したような?

 そのまま私を抱き上げてしまう。ご令嬢たちの視線を感じるが挨拶して帰ったほうがいいわよね。でも私から声をかけてもいいのかしら。ううん。


「ナタリア様でしたか、私は団長の妹ルーシャと申します。是非また見学にいらしてくださいませ」

「え、あ(あの団長様の妹!)はい、ありがとうございます。ルーシャ様」


 イグナート様に抱き抱えられているので、ちゃんと挨拶できていなかったのは申し訳ない。次に会ったら、ご挨拶しよう。

 そんな呑気なことを考えていられたのは、馬車に入るまでだった。


 馬車の中、つまりは二人っきりになった途端、イグナート様が私をぎゅうーーーっと抱きしめて動かなくなった。


「ナタリア嬢……、聞きたいことがある」

「イグナート様?」

「ナタリアは……私に飽きてしまったのだろうか?」

「いえ、まったく」


更新お待たせしました♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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