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16.出会い編9

 リリアナ様に偶然遭遇したあと、目的地の図書室に到着した。アンナには馬車の手配を頼んでいる間に、急いで本を借りる予定だ。


「ずっと待ち望んでいた二階……」


 平民クラスでは教科書とは別で、参考書を買うお金のない生徒が多かったため、図書室の利用は重宝していた。たとえ平民が一階までしか使用許可が降りなくても、私たちにとっては大事な場所だ。

 このたび晴れて一階から五階まである本を自由に閲覧はもちろん、貸し出しが可能となった。


 日に日に、これが本来の恩恵だったのだという喜びと同時に、よくも今まで制限してくれたな、と思わなくもない。

 もっとも今まで制限されていたからこそ、平民クラスの才能が一気に開花した。理不尽に耐え、ようやく解放と自由という起爆剤は、想像以上の成果をもたらすと思う。期末テスト対策としてクラスのみんなが、より一丸となって勉学に励むようになったし、分からないところは積極的にクラスメイト同士で声を掛け合い、講師にも質問したら解説や放課後に勉強会を開いても良いと許可を貰えた。


 平民クラスにとっては、ようやく厳しく辛い冬が終わったという感覚に近い。一部の貴族連中は分からないが、日和見主義や元々平民にも普通に接していた貴族はいつも通りだった。

 私は色んな意味で注目を浴びていたが、それも三日も過ぎれば日常化していき、周囲の視線もあまり気にならなくなったと思う。


 イグナート様との時間も増えているし、今日は図書室の後、騎士団施設に向かう予定になっている。元々、職場見学する話は出ていたのだが、イグナート様の急な招集や会議などで、延期になっていたのだ。


 今日はイグナート様が騎士団内で演習試合をすると言っていたから、絶対に試合を見に行かないと!

 幸いにも今日の午後は授業が休みになったから、応援に行けるわ。戦っているイグナート様を見たことがないから楽しみ。


 るんるんな気分で二階に上がり、参考書とは別に領地経営学や、ラリオノフ公爵領地の地図や歴史、それと大鷲族についてなど、五冊まで貸し出し可能なので見繕う。

 イグナート様に将来のことについて学んでおきたいなんて言ったら、感涙しつつ書店丸ごと送ってきそうなのよね。


 この間も学院の制服は三着のみで着回ししているって言ったら、翌日に冬用の外套も含めて十着贈ってくださって……。時々、宝石やドレスのカタログも渡してくるし……これも大鷲族の求愛(習性)らしいけれど、金額が心臓に悪い。

 それに私が贈る物は、手作り満載だから余計心苦しいわ。身分差があるとはいえ、もらいっぱなしは嫌だもの。

 この際、よく昔両親に渡していた「なんでも券」とか渡したら喜ぶかしら?


「……………」


 少し考えて、私が渡すものなら紙切れ一枚でも有り難く受けとりそうな気がした。贈りがいがあるけれど、なんか違うような?

 この間話していた刺繍入りのハンカチが完成したので、ひとまずはこれで喜んで貰えたら嬉しいわ。

 そんなことを考えつつ、梯子を使って大鷲族の本を取ろうとした時だった。色々違うことを考えていたからもあったが、梯子の踏み台の一つがバキッと嫌な音を立てて折れたのだ。


「──っ!?」


 気づけば視界に天井が映って、唐突に来る浮遊感と落下に直感的にまずい、と思った。どう考えてもこの体勢からだと、頭あるいは肩から落ちる。

 手を伸ばして梯子を掴もうとするが、空を掴む。


「イグナート様……っ」


 ふと出会った時のことが思い浮かんだ。けれどあれは本当に偶然だった。あんな奇跡的なことは起きないだろう。でも、それでも願わずにはいられない。

 痛みを覚悟したのだが、衝撃らしい感覚も訪れなかった。ドサドサッと分厚い本が床に落ちる音だけ。


「?」

「まさか女の子が降ってくるとは……。怪我は無いかな?」


 私を抱き留めたのは金髪に獅子の耳、空色の瞳を持つ──王太子殿下ガルシア様だった。国王陛下はがっしりとした体格だが、王太子殿下は王妃に似て華奢だと思っていたけれど私を軽々と受け止めるあたり、獅子の亜人族なだけはある。


「王太子殿下! す、すみません」

「気にしなくて良いよ。でも、まさか梯子の踏み台があんな風に折れるなんてね」


 あんな風な? 

 王太子殿下の視線の先を追うと、普通じゃあり得ないような切れ込みが入って、折れていた。まるで最初から鋭利な刃物で切り込みを入れていたかのよう。


「ここ最近、放課後に妙な音が聞こえてきていると苦情があったので、二階から三階の場所を生徒会で見守っていたんだ」

「あ、だから都合良く王太子殿下が……」

「うん。普段ならこの時間は生徒会室にいただろうから」


 それは本当に運が良かったのね。でも、誰がこんな嫌がらせを?


「君を狙ったか、あるいは生徒会か」

「え?」

「君はここ数週間で一躍有名になった生徒だ。やっかみや嫌がらせなど、表だって行うことは難しい。校則違反になる。……となれば事故に見せかけて」

「──っ」


 思えば先ほど取ろうとした本は、大鷲族についてだ。私が図書室で調べると考えて、準備をしていたとも考えられなくはない。


「まあ、それよりは私の暗殺や失墜を狙う輩のほうが遙かに多いだろうけれど」

「え……」

「これでも第二王子と僕とで、派閥が水面下であるからね。今のところ穏やかに見えているのは、交渉駆け引きや暗躍で収まっているからだ」


 この方は平民とは、また違ったところで命の危機に陥る場所にいるのね。常に見られ、喉元に刃を突きつけられても平然と笑う。そう言う違う場所で戦っている。

 平民には平民の、王族には王族の大変さがあるのだろう。


「それはなんとも油断できないですね」

「そうなのさ。友人を作るにも大変で、困っている。……ナタリア嬢、これも何かの縁だ。僕の友人になってくれないかい?」

「お断りします」

「即答か」


 不敬にもあたる返答だったけれど、王太子ガルシア様はお腹を押さえて笑いを堪えていた。そんなに変なことを言ったかしら?


「普通の令嬢、あるいは女性なら大抵『喜んで』と飛びつくのに、君は噂以上に変わっているし、面白い人なのだね」

「私が一体どんな人物で伝わっているのか分かりかねますが、それでなくともイグナート様とのことで目立っているので、これ以上目立ちたくなりません(あと王太子殿下と友人にでもなったら、イグナート様の過保護ぶりと溺愛ぶりが増しそう。うん、全力で友達回避!)」

「知的なところも良いね。ラリオノフ家のご子息が夢中になるのも分かる気がするな」

「はぁ……」


 なんだか最近、公爵家や王族出自の騎士団長様、王太子殿下とまで関わることがあるなんて、人生なにがあるか分からないわ。そのうち国王陛下とバッタリ会ったり──なんてないわね。ないない。


「……あの、助けて頂いたところ大変恐縮ですが、そろそろ離していただけると助かります」

「ああ、失礼。……それにしても人族はこんなに軽い物なのかい? 羽根かと思ったよ」

「人族では標準かと……」


 床に下ろしてもらったので改めて、深々と頭を下げて感謝を伝えた。「生徒会会長として当然のことをしたまでだ」と模範解答。これでさっさとこの場から離れようとしたのだが、本を拾い上げる時にガルシア様は口を開いた。


「僕はね、【運命のツガイ】っていうのは、いくつもの赤い糸がその魂に引き寄せられて、周囲に漂っている中で、時と場所と共鳴によって選ばれるんじゃないかって思うんだ。所謂ランクだよ。その出会った中で最上級のランクと結びつく。そう考えると、()()()()()()()()()()()()()()()()()、【()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「いえ。まったく」

 

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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なんて素晴らしいバッサリ具合
主人公、強い!
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