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14.出会い編7

 最高の昼食を終えて食後のお茶を飲んでいる頃、キースさんが目を覚ます。クロエさんの料理を見損なったせいで、世界の終わりかのように絶望に打ちひしがれていた。あまりにも落ち込んでいるので、昼食時に考えていた提案を話してみる。


「そのクロエさんの料理、とても美味しかったです」

「ありがとうございます。将来の奥方様は、とても人が良さそうな方で私も安心しました。坊ちゃまも幸せそうで、屋敷務めている者としても大変喜ばしく思っています」

「坊ちゃまは止めろ」

「嫌ですね」

「あの……私も、菓子や軽食なら作れるのですが……イグナート様に作って差し上げたいと思っていまして……。その時々で構いませんので、調理指導をお願いすることは可能でしょうか?」

「!?」


 イグナート様は翼をバサバサ揺らして「手作り」と嬉しそうだ。今朝渡したフィナンシェのことはクロエさんにも伝わっているのか、ニヤニヤしている。


「坊ちゃまのために、と言われると断れないな。つまり定期的に学院の調理室で、私の料理方法を学びたい、と」

「できるのなら、お願いしたいです」

「……定期的に……ハッ!」


 そこで泣きじゃくっていたキースさんが顔を上げる。定期的に食堂の調理室に訪れて料理を作る。弟子入りは果たせないだろうけれど、クロエさんの料理作りに居合わせることができるという寸法だ。学院では料理室を利用する際に、学院内の料理人の立ち会いが必須だったりする。それを利用させてもらった。


「ナタリア嬢ちゃん! 感謝する」

「いえいえ。去年の聖樹祭の時、私たちクラス(平民)に、シュトーレンと鶏モモたっぷりのシチューを用意してくださっていたでしょう。特にシュトーレンは携帯食料として長持ちができるからって、かなりの量を贈ってくださった。その恩をお返ししただけです」


 実際に提案しただけで、恩返しにはほど遠いかもしれないけれど。でも本心だ。あの時、煌びやかなパーティー会場で楽しそうにしていたのは、亜人族や貴族の方々だけで、私たちは強制不参加だった。

 当時の理事長や校長の指示で、私たちはあの空間に入ることすら許されなかった。その悲しい思い出を、変えてくれたのはシュトーレンというご馳走だった。


 平民だけれど、私たちを助けてくれた人はたくさんいた。それに気づかせてくれたのも、そうできるように思えたのも、イグナート様と出会ってからだ。

 それまでは自分のことで精一杯で、手を伸ばす範囲もギリギリだった。

 今まで退学していったクラスメイトのことをもっと気にかけていたら、もっと何か違っていただろうか。でもそんなことを考えるのは、傲慢な気がする。


「ナタリア。この場を借りた理由として、騎士団長からの伝言がある」

「伝言……?」

「今回理事長を含め学院上層部で、非道な行いをしてきたのが明るみになった。そのための補填として在学中の生徒はもちろん、在学していた生徒も全員調べて、補填及び復学希望者は期末テスト後に戻れるように手配を進めている」

「イグナート様っ!」


 昼食を食べるためだけではなく、こちらの話が本題だったのだろう。私たちだけ運が良かった。そう思う反面、居なくなってしまったクラスメイトたちのことで、胸が痛んでいたことに気づいてくれていたなんて……。


「学業とは本来、国の未来を支える有能な若者を発掘し、育て、学び、切磋琢磨して高めていく場所であり、そこで種族や階級関係なく学ぶ場として、この学院は創設されたと聞いている。だからこそ今回の件は国王陛下及び王妃もご立腹で、人事室室長が徹夜で対応してくれた。もっともその彼も平民出身だったから、相当ブチ切れていたようだ」

「人事室室長が平民出身……。知りませんでした」

「王城では平民出身も多い。何せ国王陛下と王太子殿下は完全実力主義だから、能力第一で採用不採用を決めている。貴族によるコネもあるけれど、仕事上はかなりシビアだ。だからこそ近年、王国魔導学院の質が落ちたことで国王陛下は疑念を抱いており、王太子殿下に調査を依頼していたらしい」

「え」

「しかし三年間上手く隠していたようで、特に平民専用クラスを優遇しているとかの計画書まで出してきて、一週間ほどそのクラスで過ごしたけれど問題ないと報告が入っていた」


 そういえば平民クラスで、一時期扱いが豪華になったという話を聞いたことがあったけれど、あれは王太子が参加していたから……。そこまで徹底的に隠していたのね。

 三年になれば平均でも有能な者が出てくるし、総体的に卒業する生徒に平民もいれば、その過程を軽視したりになる。もし早い段階で退学者の多さに気づいたら……。


「ちなみに平民の登録数も、丁寧に隠蔽してあった。それと退学者には金貨五枚ほど口止めとして渡していたそうだ。将来的にこの国を滅ぼす気なのか、と思わずにはいられない」

「イグナート様。……その、よく私の考えていることが分かりましたね。その退学者のこと……」


 自分のことのように怒ってくれるイグナート様に、好感度が爆上がりしつつ、私は疑問をぶつけてみた。


「ナタリアだって、私の心を読むのが上手だろう? 私はナタリアの表情を余すことなく見ていて気づいたらだけだ。いろんな表情を見せる君はとても可愛らしい」

「イグナート様……。イグナート様も素敵で、可愛らしい方ですわ」

「「「それはない」」」


 クロエさん、キースさん、そしてイグナート様にまで否定されてしまいました。どうしてイグナート様の可愛さが伝わらないのか。疎外感……。

 ちょうど別の仕事で席を外していたアンナが戻ったが、同じ反応だった。

 ちょっぴり残念な気持ちを抱えつつ、昼食は終わった。その日もいろんなことがありすぎて、リリアナ様のことなどすっかり頭から抜け落ちていたにだが、それは私だけのようだった。



 ***



 二週間後、そろそろ期末テストの準備をしようと図書室に向かう途中、バッタリとリリアナ様と鉢合わせした。可愛らしい顔なのに私を見た瞬間、敵だと言わんばかりに睨んだ。

 ただ睨まれても凄みがないので、全く怖くはない。


「ナタリア・エイムズ! 私は絶対にお前を認めない。今度の期末テストでお前よりも私が有能だと思い知らしめてやるのだから、今に見ていなさい!」

「はぁ」

「すました顔しちゃって! 今まで中の下にいたド底辺が今に見てなさいよ!」


 私の後ろに居たアンナに気づいてか、あるいはこれ以上は校則違反になると感じたのか、足早に去って行った。

 平民クラスの実力が本当に、今までのテストの成績だと思っている貴族が多いのかもしれないわね。でも普通なら三年で急に実力を台頭してくることに、気づかない?

 まあ、気づかない人多いってことよね。


 このリリアナ様の発言が平民クラスに広まり、闘志に火を付けることになるとは、このときの私は気づきもしなかった。というのもこの後向かった図書室での一件でイグナート様と色々あったので、それどころではなかったのだ。








楽しんでいただけたのなら幸いです。

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