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12.出会い編5

 

「ナタリア様ですね。イグナート様が食堂でお待ちです」

「ひゃう!?」


 唐突に背後に立たれたので、思わず変な声が出てしまった。振り返ると黒の侍女服を纏った女性が佇んでいて、腕章には公爵家の紋章がある。

 学院内では上流貴族のみ、専属の侍女の付き添いを許可されていると聞いたことがあったけれど、まさか本当に私に侍女が付くなんて……。


 焦茶色の髪をキッチリと結い上げて、姿勢も平民の私たちとは違う。品にある佇まいだわ。

 近くの席にいたアーサーなんか固まっているし。


「はい。私がナタリアです。ええっと……」

「申し遅れました。本日付でナタリア様のお世話兼護衛兼教育係に就きましたアンナと申します」

「アンナ……さん?」

「私に敬称は不要です。イグナート様をお待たせする訳にもいきません」

「は、はい」


 教室を出て食堂に向かうまで周囲の視線は、羨望、嫉妬、好奇心、苛立ち様々だ。

 でも私に何か言う人はいない。たぶんアンナがいるからだ。公爵家は私を次期公爵夫人として認め、学院側もそれを理解した上で侍女を付けることを許可した。


 平民だからと、ここで嫌がらせをすればどうなるのか分かっているのだろう。私としても穏便に過ごしたいので、突っかかって来ないのなら嬉しいわ。そう思っていた矢先に廊下を塞ぐような形で、ご令嬢とそのお付きの侍女数名がが立っていた。


「ちょっと、いつから平民が我が物顔で、廊下の真ん中を歩くようになったのかしら?」


 立ち塞がったのは、黒髪縦ロールの美女だ。愛くるしい翼は黒褐色でちまっとある。

 こういう時、何か言えば身分が上の者から話しかける前に喋るな、と言われる。かと言って無視は火に油を注ぐ。

 最適解は一礼して微笑む。


「まあ! 勝ち誇って何様なのかしら」


 まあ、もう何をやっても、こうなる気がした。校則が変わったとしても、人が変わるわけじゃない。そんなことは百も承知だ。

 平民がいきなり次期公爵夫人となれば、色々不平不満が出てくるだろう。それはイグナート様と婚約する時に覚悟した。


 だからこそ、ここで今までのように平民として反応してはダメだわ。そうすれば付け込まれる。それはいずれイグナート様に迷惑を掛けかねない。私を伴侶に選んだことを後悔させたくないもの。


「リリアナ様こそそのような態度をしてよろしいのですか?」

「平民の──」

「平民だから虐げても問題なかった昨日までとは違うのですよ? 大鷲族の分家にあたる侯爵令嬢ともなる方が、校則違反を初日で破って家名に泥を塗ることになるとわかっていないのですか?」

「わ、私は何も知らない平民のお前に、貴族社会でのマナーを教えてあげようと言っているのよ?」

「そうでしたか。ですが私にはすでにアンナという教育係がおりますので、不要でございます。平民だからと、このまま道を塞ぐ行為は妨害にあたりますので、講師及び侯爵家に抗議文を出させていただきますわ」

「──っ!?」

「お話は以上なのでしたら失礼します」

「平民の話など誰が鵜呑みにするのかしら」

「ご安心を。イグナート様が私のために、録画機能のある魔道具をくださっていますから、リリアナ様の会話はしっかりと記録されていますの」

「なっ……!? 私を嵌めたのね!? なんて卑しくて狡猾で恐ろしい女! イグナート様は従妹である私と結婚する話が出ていたのよ! それなのにお前が出てきたから、我が家はしっちゃかめっちゃかだわ! お母様は毎日泣くし、お父様は不機嫌で、お祖母様は激昂していたもの!」


 イグナート様の元婚約者様?

 それなら私に当たり散らしたい気持ちは、少しは理解できる。少しだけど。アンナと目が合ったのだが、素早く首を横に振って否定した。


「いえ。イグナート様にそのような婚約者はおりません。大方、分家の一族がそのように望んでいたのをリリアナ様に話していたのでしょう。そもそもイグナート様と対面して一分と持ちませんから」

「イグナート様と対面が難しい?」


 アンナの言葉に「?」のマークが浮かび上がる。イグナート様の傍にいると居心地が良いというのなら分かるけれど……。


「ふん。私は五分は保ちましてよ。【運命のツガイ】だろうと、彼の方の覇気に耐えられるのは私ぐらいのものですわ! 平民は平民らしく地べたで這いずり回って生きていれば良いのよ」

「リリアナ様、それ以上の放言は看過できません。ナタリア様に謝罪してください」

「アンナ」


 アンナの言葉がジーンと胸に響く。今日会ったばかりなのに、なんて良い人なのだろう。


「侍女ごときが私に逆らおうなんて許せない。お前も、そこの平民も、片目を抉りとれば自分の立場を理解するわよね!」


 片目って、なんだか急に物騒なワードが飛び出してきたわ。


「誰が、誰の片目を抉るだと?」


 凍りつく声に、絶対零度の凍てついた空気がその場を支配する。カツカツと食堂のほうから近づいてきたのは、騎士服姿のイグナート様だ。

 金色の瞳が猛禽類のように、いつになく鋭い。

 歩み寄るだけで、リリアナ様の侍女が軒並み倒れるか座り込んでしまう。リリアナ様は耐えているようだが、脂汗が頬から流れ落ちるのが見えた。


「あ、いぐ……っ」

「私の大事な、大事なツガイに何をすると言うんだ?」

「ヒッ……っ、だって私が貴方のお嫁さんになるって、お父様もお母様も言っていたわ! おお祖母様もよ!」


 イグナート様の瞳は、燃えるほど怒りに包まれていた。自らを滅ぼさんとする炎は危うい。


「私は一度でも誰かを婚約者に据えたことはない。私の傍にいて、対等に話すこともできない者が婚約者になれると、本気で思ってたのか? まあいい。お前もお前の一族諸共、ナタリアを傷つけようとした罪で、殺し──んぐ!?」


 イグナート様が話している間に、私は素早く近づいて口の中に干し葡萄を突っ込んだ。

 その場にいた全員が硬直。イグナート様も固まっていた。

 あ、怒りが少し収まったわね。大人しくもぐもぐ食べるの可愛いかも。


「もぐもぐ……」

「イグナート様、お腹が空いていて気がたっていたのでしょう。これでも食べて落ち着いてくださいませ」

「ごくん。……ナタリアから私に食べ物を与えてきた。可愛い」

「一ミリも可愛い仕草をしてないような? 干し葡萄は気に入りましたか?」


 小さく頷いた。もしや私が食べさせたことが嬉しかっただけっぽい?

 お世辞だったのではないか、そもそも舌が肥えている大貴族様的に美味しいと思うかしら?

 庶民的な味で私は好きだけど。


「ナタリアは、よく食べるのか?」

「はい。朝食を食べ損なった時や非常食として、結構美味しいし栄養が高いのですよ」

「「!?」」


 なぜかアンナは冷や汗をかいて、イグナート様は衝撃を受けて固まっている。

 何かおかしなこと言ったかしら?


「昨日、抱き上げた時も思ったけれど、君は羽根のように軽い。軽すぎる! きちんとご飯を食べていないなんて……!」

「あの普段はしっかり食べていますよ? 昨日は……非常事態だったと言いますか……」

「だとしても、もっと食べないと倒れてしまう。こんなに細くて華奢なのだから」


 そう言いながらイグナート様は、私をヒョイっと抱き上げてしまう。じいぃぃと、金色の瞳は何か物欲しそうに私を見てくる。何かお求めなのかしら?

 干し葡萄を食べさせたら喜んでいたが、これじゃないっぽい?


「そうではない。嫌な思いをさせたな。昨日のうちに一族には通達しておいたのだが、まさかここまで愚かな行為をするとは想定外だった。すまない」

「気になさらないでください。まだ何も起こってないですし、嫌がらせや罵倒なんてよくあることです。……でも、アンナが付いていてくれていて、イグナート様が駆けつけてくれて、守ってくださったので、すごく心強かったですわ」


 イグナート様は私をぎゅうううーーーっと抱きしめる。よほど嬉しかったのか、翼もバサバサと大きく揺れている。


「ナタリアは可愛いだけではなく、聡明で気配りができて、強いのだな。あとすごく可愛い」

「(二度言った……!)可愛いのは、イグナート様のほうですわ」

楽しんでいただけたのなら幸いです。

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